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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
うわっときたら、緊急避難的行為
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法律に類推解釈の禁止があるのは、法自体を捻じ曲げる不幸を呼ぶからだ

 真紀の迎えには母親である加藤が来た。

 彼女は私に頭を下げ、真紀を許して欲しいと言った。

 私は真紀の行動の意味が何一つわからないが、加藤にはいいよと答えた。


「いいよ。あたしに怪我は無いんだし。車の修理代は加藤が持ってくれるなら。いや、修理代は真紀の小遣いからだね。それから、うーん、あと、明日のって、もう今日だけどさ、ライブへの後押しをしてくれるなら、いいよ。」


 加藤は私に謝っていた癖に私にいつもの悪がきを叱りつける顔をして睨んだ後、大きく息を吐いてわかったと私に答えた。


「わかりました。びいちゃんのライブ参加については全力を尽くして擁護します。」


「おけ。じゃあ、もういいから。」


「もういいのか?」


 私を一番大事にするという職務を放棄した護衛官が、私と加藤に余計な口を挟んで来た。


「今更なんだよ。だからあと一蹴りあたしにさせておけば良かったんだよ。中途半端な怪我だからさ、加藤もあたしも渋々で妥協って感じじゃないか。しっかり痛めつけられた娘を見てさ、あぁ、これ以上頭を下げる必要は無いなって、加藤は思うだろ。そんですっきりしたあたしは、もういいよって、清々しく加藤に言ってやれるだろ。そういうことだよ。」


 加藤は私の言葉に吹き出し、吉保は男気のある私に感心するどころか顔をパグのように皺だらけにして睨みつけた。


「偉そうに意味がわかんねぇ事を言ってんじゃねぇよ。俺が言いたいのは、真紀がお前に成り代わっていた理由や、娘の異常行動を加藤や伊藤がお前や社長に黙っていたことがいいのかって事だろ。」


 吉保の言葉に青い顔の加藤は覚悟を決めた様に表情を固くし、私は加藤の様子に吉保に一言言ってやることにした。


「ヨッシー、お前の直属の上司は室長の高部と思っているかもしれないけどね、加藤こそ防犯の部長だろ、慮りな。お前はまだ試用期間中じゃないか。」


「お前は!」


 吉保は私にかなり憤っているが、吉保こそ私を大事にしなかったのだから、その咎を受けるべきなのである。

 私はあんな風に優しい手つきで吉保に扱われたことは無い。


「びいちゃん、いいのよ。あなたには伝えるべきだったわ。真紀はね。」


「だから、いいって。シェトランドシープドックを殺された家の女の子と、真紀は行き来があったんだろ。強盗がいたその場所にいた筈なのに、二人ともいないことになっていればさ、普通に頭があれば類推解釈はするよ。伊藤が襲撃先で人殺しをしかけるのはいつものことでもね!」


 加藤はきゅっと唇を噛み、それから、美緒さんにはやはり言わなければ、と私に言いかけた。

 珍しく私を美緒と加藤が呼ぶと言う所が少々気になったのだが、やはり護衛官が勝手に口を挟んで来た。


「もう、いいですよ。娘さんのところに行ってあげてください。加藤部長。」


「ヨッシー、もういいのかよ。」


「お前がいいんだったら俺はいいよ。」


「うん。加藤にはもういいけどさ。お前はよくねぇよ。」


「お前はそんなに人を蹴りたいか。」


「単なるお前への注意だよ。お前はあたしの護衛官だろ。お前が第一に守るべきはあたしで、お前が一番優しくするのはあたしに、なんだよ。」


 誰もあたしが一番じゃないのなら、職務だろうが、お前くらい一番にあたしを考えてくれてもいいだろうが!!


 口にしなかった部分を口に出さなくて良かったと、言い放ってから吉保を見て自分の賢明さにほっとした。

 吉保が気持ちの悪い程に顔をにやけさせて、私がぶち切れる程に優越感に浸った表情で私を見下ろしているのである。


「あー、新しい護衛官を加藤に強請ろうかな。もっと職務に忠実な奴。」


「お前は!」


 優越感の表情はどこへやら吉保は顔を真っ赤に怒らせて、加藤はくすくすと笑いだした。


「あら、いいわよ。どんなタイプがお好みかしら。」


「そうだねぇ。ひゃっ。」


 私は吉保に米俵のように肩に抱えあげられ、彼は手足をプラプラさせるだけの私を抱えて歩き出した。


「俺がお前の護衛官なんだよ。」


 ごつごつした肩があたって抱かれ具合は良くないが、彼の私への独占欲による行動には私の自分の失言を挽回できたと、勝利感の心地良さが勝っていたのだから良いのだ。

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