未成年者の法律行為
私は若いのが欲しいと言ってみた。
すると暗黙のルールの黒幕の寛二郎は、私にチラリと視線を寄越した後、おもむろに何かをワイトボードに書きつけて、ドンと自分の前に立てかけた。
「ふざけんな。何が要求は嘆願書類にして提出しろ、だよ。あんたは耳が聞こえるじゃんか。話をそらすなよ。あたしはあんたが勧めるままにずーと女子高なんだよ。若い男に慣れなければ、ろくでなしに簡単に騙されてしまうじゃない!母さんみたいにあたしに十代で孕めというのか。あんたはそんなにもお爺ちゃんになりたいか?あたしは同世代の男の子と普通に喋りたいだけなの!」
牧と加藤が噴出す中、ぷくっと頬を膨らませた寛二郎は、再びホワイトボードに何かを今度はちまちまと書き込み始めた。
そしてそれは私には見せずに、彼の脇で必死に彼のカルテと書類を読んでいた道田正明人事部長と橋本康彦企画部長に手渡していた。
黒服の老けたやくざ姿の橋本は企画部部長であるが、企画するものは折詰の商品ではなく、折詰グループ関連の防犯計画である。
そして誰にでも好感の持てる外見の老けたハンサムな道田は橋本同様に普通の人事部ではなく、グループ内の造反者やコンプライアンス違反をした者を洗うという恐ろしい部署の部長だ。
彼らが本当の真実を探るのだろうと私は合点し、動くものがいるのになぜ私に社内を探らせようと寛二郎が考えるのかと考え、私は寛二郎がろくでなしの折詰そのものだったと思い出した。
「畜生。あたしを囮にして動かしている間に本星を潰すつもりだな。起きたごたごたをぜーんぶあたしの失敗で片付けて、折詰にはなーんも問題はなかったって。この、ろくでなしの王様!」
ろくでなしの王様はにっこりと私の同級生どころか教師連中をも虜にした笑顔を私に向け、ホワイトボードを私に向けた。
「お前は未成年だろう?」
無効な行為は時の経過によって無効原因が補正されて有効なものとなることはなく、いつでもその無効を主張することができる。民法119条では無効行為には追認によってもその効力を生じないとあるのだ。
未成年者である私に散々に会社を混乱させて、その行為を全部無効行為として納めるつもりなのか。
何よりも、現在の彼が実質上私の後見をできない状態であるのは明白だ。
それならば、そんな状態の私を知っていながらした行為は追認したものと看做されて相手方は取り消すことができない、を狙っているのか。
いやいや、未成年の行為はすべて無効だ。
未成年が持ち物を売りつけて代金を得たとしても、相手方に取り消しを求めれば全て無効となるのだ。
未成年保護の観点から、その代金を遊びで全部使い切っていれば、相手方に返す必要もないというふざけたお墨付きだってある。
寛二郎は子供の私をたぶらかす者を反対に貪り喰らえと言っているのか。
「あたしにろくでなしになれと言うのね。いいよ。あたしにボーイフレンドみたいなお付をくれるなら、あたしは喜んで踊ってやるよ。」
軽く眉を上げた寛二郎は、再びホワイトボードに何かを書き込み、そのホワイトボードを私に見せた。
「びおはどんなタイプが好みなんだよ。」
「かんちゃんみたいな。一緒にいるなら気軽にお喋りしたいもの。」
果たして、自分を良く知っている男は「そんな奴は駄目だ!」とドクターストップを振り払って叫んでしまった。
彼は当たり前だが大きくむせ、私をよく知っている養育係の一人でもある牧が、寛二郎を介抱しながら私に軽くウィンクをしてくれた。
私はライブに行きたいし、煩い男が脇に控えて私の行動を一々咎めるのは絶対に御免だ。
これならば、男でも女でも、控えめで静かな若い付き人を貰えるはずだ。