意思の到達?
「びぃ?」
「うん?ママの搬送された病院へ行く。タクシーを拾うからヨッシーはいい。ここの後始末だけしておいて。」
「おい!」
「お前は業務時間外だろ。同僚とよろしくな。」
「お前は!」
彼から離れた私は、乱暴に肩を掴まれて離れた筈の男に引き寄せられた。
私は男の胸に背中を打ち付けられ、その乱暴な男は自分に引き寄せた私の右肩にあった彼の右手を外すと、私が抵抗する間もなく私の腰にその腕を回した。
「俺はお前の護衛官だろうが。ふざけんな。おい、田端!俺の親父は仕事を抜け出して来ているそうでね、可哀想なあいつの部下達に足のないあいつを返しといてくれ。」
吉保は私をひょいと子供か犬にする様な抱き方をしたまま歩き出し、そんな吉保に田端は小馬鹿にするような声をあげた。
「えー、部下としては遠慮したーい。」
吉保はピタリと足を止め、田端へと振り返った。
「え、お前はまだ親父の部下だったのか。」
田端はびしっと敬礼をすると、敬礼に見合った声をあげた。
「零時を持って、田端雅は田神班に配属の拝命を受けました。」
「えー、上司としては、遠慮したーい。」
吉保そっくりの声で玄関口でぼやいたのは、当り前だが充である。
「田端さんをまた危険な目に遭わすのはって感じなの?ミッチーは。」
吉保にこそりと囁くと、彼は大きなため息を吐いた。
そして私を右腕にぷらぷらとぶら下げながら歩き出し、そんな私は玄関口にいた充にウィンクまでされたが、吉保は無言のまま私を私達の車へと運んでいった。
それから、なんと、物のように乱暴に、私を後部座席に放り投げるようにして乗せ上げたのである。
「もう、乱暴。あんたはあの彼女にも振られたの?」
「いいや。あいつ男だって。あいつとどうかなるなんて、俺は無理。」
「え、うそ。」
バタンと不機嫌そうな男によって後部座席のドアは乱暴に閉じられたが、運転席に乗り込んできた男は鼻歌までも口ずさんでいるという上機嫌に変わっていた。
「どうした?ヨッシー。」
「はは、お前さぁ。もしかして焼餅を焼いた?」
「そ、そんな意思表示はしていない!」
「いやいやいや、同僚とよろしく何て、さぁ。そっかあ、ははは。」
「な、何を勘違いしている、ば、ばか者!」
そうだ。
私は意思表示などしていないのだから、吉保に到達して効力など発揮するはずなど無い。




