気が付いた真実 堕胎の罪
「俺が昔の同僚から聞いた話では、発見された真鍋は全身が火ぶくれで身元確認もできない酷い有様だったということだ。身元確認ができたのは、爆風で飛ばされたのか、彼女の持ち物のクラッチバックの中の身分証からだ。」
「そこで君には似ていないが、コスプレみたいだという言葉だ。亜紀が真鍋のふり、あるいはその逆もありえるのではないだろうか、とね。折詰誠吉の二分の一の財産は魅力的でしょう。」
私は充の言葉に、彼が私の祖父宅に置いていた鞄を持って現れたと思い出し、そして、刑事である彼が祖父宅に行っていたその理由を思い当たったがために、みるみると恐怖が咽喉元をせりあがってきていた。
「玄関入ってすぐに、祖父と亜紀さんの結婚写真があるのに知らないって、……お爺ちゃん家は無事なの?お爺ちゃんは、無事、なの?」
「無事ですよ。寝室が燃えたからと君の鞄を持って家を飛び出しましたからね。火は誠吉さんの自室を含んだ母屋の一部を焼いただけです。彼は現在伊豆の別荘に警察の警護つきで避難されていますよ。」
「あぁ。」
私はその場でしゃがみ込み、祖父の無事を安堵するとともに、あんなにも私をライブに行かせまいと頑張る寛二郎の姿を思い出していた。
ライブに行かせる気も無いのに、お題を持たせて護衛官を貼り付けて、あちらこちらへと通常とは違う行動を私に取らせた。
それは誘拐や襲撃などの計画的待ち伏せから私を守るためだ。
「かんちゃんは全部知っていたのね。……それじゃあ、蕨餅はやっぱり私狙いね。母も亜紀さん、あるいは真鍋に協力していたのかしら。それとも、偶然?」
「偶然でしょうね、蕨餅は。寛二郎さんが病院に運ばれた原因は胃潰瘍ですから。」
「え?」
「本当です。蕨餅に苛性ソーダが混入していましたがね、彼は食べていませんよ。」
「え?嘘。あのホワイトボードは全部社長のお遊び?」
素っ頓狂な声をあげたのは私でなく吉保であった。
胃潰瘍よりも苛性ソーダを飲まされた狙われた男であることを選んだ寛二郎の馬鹿さ加減に、似たもの同士としても信じられないものがあったのだろう。
「ソコまでしてあの美女を刑務所に送りたいのかね。ビィの母さんだって言うのに。」
「違った。そうか、そう考えるべきだったのね。あぁ。ママ!」
あたしがママに殺されかけたのは過去に二回。
一度は農薬入りアイスを食べさせられ、一度は濡れタオルを顔に押し付けられた。
苦しみもがく私は母の腕の中で必死に暴れたはずである。
「二度ほど流産していてね。」
「あぁ、あたしが妹か弟を殺していた?あたしが生きるために、赤ちゃんを殺してしまっていたの?」
「びぃ?」
気がついたら私は駆け出していた。
私の存在は母の幸せを壊すだけの忌まわしいものだ。
彼女を抱きしめて、謝って、そして二度と会いに行かないと決別しなければ。




