秘密基地と来れば内乱予備、かな?
地下に鳴り響く「あなたは権限が無い。」アラートは、吉保を本気で脅えさせているようだ。
彼はかなり挙動不審となってしまった。
「うそ。俺は社員じゃなかった?もしかして解雇?え?」
「あ、そっか。まだ研修生だからだよ。どいて。」
挙動不審に陥った吉保を押し退けて、私が自分の社員番号を打ち込むことにした。
「見るなよ。覚えるなよ。これはあたしの社員番号なんだからな。」
私と寛二郎、及び小人の巣幹部は、社員証など無しでもどこでも社員番号で事足りるのだ。
「あれ?覚えるも何も、ビオの社員番号は002だろう?」
「あれは、社員番号ではなくただの緊急コードね。社員番号002が連絡してきたら、必ず責任者に繋げっていうね。ちなみに社員番号0103は寛二郎を呼び寄せろ、よ。ほら、後ろを向く。」
吉保は私にニヤッと笑ってから後ろを向いたが、おそらくどころか絶対に私の社員番号を盗み見ているはずだ。
そうでなければ、単なる間抜けだと私は思う。
「ホラ、開くぞって、うゎ。」
田神親子は律儀に後ろを向いていた。
こいつらは間抜けだと驚き呆れる私の後ろで、重厚な金属扉がゴゴゴと芝居がかった音を立てながら開いていた。
すると、その音を受けた彼らはようやく正面を向き、彼等の前に姿を現した秘密基地のような電算室の様子に対して、二人揃って少年のようにキラキラと目を輝かせたのだ。
やくざのような外見の二人が。
「凄い!俺は秘密基地に勤めていたんだ。」
「違う!ここはサーバールームでもあるってだけ。小人の巣の加藤の役職名はIT監査防犯部部長でしょう。彼女の部下がサーバールームの保守もしているのよ。」
「それでは、折詰の頭脳を覗かせていただきましょうか。」
嬉しそうに呟いた田神充は、初めて息子とは違う声を出していた。
彼は息子とは違い、間抜けとは程遠い男であったのだと私は気付いた。
私に信頼を抱かせて警戒を解かせるために、彼は敢えて息子の声に似せて間抜けそうに喋っていたのだ。
電話の声が親子で似ていても、普通に喋りあう時は違う声に聞こえるものではないか。
私の視線を受けた充は、私にニヤリと百戦錬磨の刑事の微笑みを返した。
伊藤が出陣前に浮かべる表情とよく似ている。
おそらく、彼は部下の囚われの状況をいいことに、海外で傭兵として名高い伊藤の力と危険性を探るために「部下の救助」を願い出たのだろう。
「四年前のあのヤクザ連中。その数年前にとあるお宅を空巣して、その時に金目のものを盗んだだけでなく、家でお留守番をしていたシェトランドシープドッグを殴り殺した過去があるって、あなたはご存知でした?」
兵隊を勝手に鍛えていて、それなりの兵器っぽいのを持っている我が折詰だ。
組織犯罪や破防法もそうだが、刑法78条の内乱予備または陰謀も適用できるのかな、って思いついた私は、充に対して情に訴える情報を出してみたのである。
わかってはいたが、充は両眉を軽く上げただけで何も答えなかった。




