刑事は組織犯罪にこそ目を凝らす
私は驚き顔の二人に対し、特に充に対してだが、とっても幼い子供のようにして当時の事を語ることにした。
「その日は私の預かり当番が彼の日だったので、防塵マスク被って一緒に突入しました。人質の事は知りませんでしたが、あの日、初めて空気銃を人に対してぶちまかしたのですよね。楽しかった。」
「空気銃ってなんだ?普通のエアガンだろ?」
吉保が聞き捨てならない、という顔で口を挟んで来たが、私は彼の視線が彼の父親に流れる所を見逃さなかった。
庇ってくれるつもりか、言葉に気を付けろって意味かな?
しかし私はせっかくの吉保の心遣いを無にする言葉を続けていた。
「違法寸前に改良したエアガンにゴム弾をセットしたものよ。撃たれても死なないどころか骨も折れないけど、すごーく痛いの。撃った相手がばったばったと悶絶していって楽しかった。出撃の駄賃にヤクザの金庫破りっていうスリルもあったし。」
「おい。親父は組織犯罪専門の刑事だって。」
「あ、うそ。」
わざとらしく口を塞いだ私に対し、充は知っているぞという風に右の眉をあげて見せた。
「いいよ。今のは聞かなかった事にする。伊藤さんが最初に提示した五百万なんて請求金額を警察は絶対に払わないじゃない。そうすると僕のポケットマネーになるでしょう。ローンを抱えた僕には無理だよ。だから、部下を助けてくれるなら全部任すって伊藤さんにオッケー出したのだからいいよ。でも、内緒にしてね。警察が犯罪行為を見逃したって、少し問題があるでしょう。」
「全く、この偉い人は!」
吉保は私の首根っこともいえる襟元を掴み、いくぞという風に促した。
私は勿論そんな彼の威圧的な手を振り払い、そして、彼等を先導する先頭に立った。
それから私達はテクテクと目指す部屋まで無言で歩いたが、終にして辿り着いた目の前には、暗証番号を打ち込む電子キー付の非常階段ドアのような重たい金属ドアである。
「上の俺の詰め所と同じか?」
「まぁ、そうね。」
吉保が社員証を翳して暗証番号を打ち込んだ。
その返礼として、権限がないというメッセージとアラートが地下空間に鳴り響いた。




