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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
始まりは権利能力の有無から
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成年被後見人でも出来る行為

 さて、寛二郎に会社のトップの座を明け渡したといっても折詰家の財産は誠吉の範疇にあり、彼が死んだ後の財産相続を考えれば折詰家では誠吉に適うものはいないであろう。

 だからこそ、祖父に言いつけるとふふんと偉そうにして寛二郎に言い返したのだが、寛二郎こそフフンの傲慢そうな顔つきだった。

 どうした?その余裕は?


「残念でした。彼の成年後見人も僕ちゃんです。」


「うそ。いつの間に。お爺ちゃんは行為無能力者だったの?」


「えぇ?ずっと前からだよ。知らなかったの?惚け爺が色惚けになった時に俺が成年後見人になったの。あの歳で再婚だなんだと騒ぐなら当たり前でしょう。」


「えぇ。それって、もう六年も前の話じゃない。お爺ちゃんはずっとあたしの親権者だからと高校の学費も書類の印鑑も保証人欄もお爺ちゃんでしょう。ライブのチケットだって、保護者サインをお爺ちゃんがしてくれたもの。支払いも。」


「成年後見人がいる成年被後見人でも、任意代理人にはさぁ、行為能力者である事を必要としないの。ぜーんぶ本人の責任になるからね。それに、成年後見人の追認があれば有効な行為でしょう。だからぁ、俺がお馬鹿さんな爺とお前の後見人をして守っているの。お陰で婚期も逃して散々よ。」


 ふぅとわざとらしく溜息をつく目の前の男は、「見誤っていた英雄」と渾名されている男である。

 なにしろ落ち目の折詰グループを再興させたのは、当時無能の次男と看做されていた寛二郎の手腕であるからだ。

 しかしそんなやり手と謳われる彼であるが、実際は結婚どころか恋人のこの字もない私生活であり、私をからかって遊ぶことだけに心血を注いでいるようでもある。

 そして私は、彼にもしも恋人ができて結婚してしまったら、自分がどうなるのであろうかとも考えた。


 私が母も祖父も簡単に切り捨てられたのは、私にとって彼が親としているからなのだ。

 寛二郎は私を甘やかすが、私に一番厳しい躾をするのである。


 例としては、夏休みの宿題をやっていなかったばかりに食事抜きだと寛二郎叱られて、私が泣きながら宿題をさせられるという小学生からの毎年の恒例行事があげられる。

 けれど、寛二郎は怒りながらも一緒に飯を抜いて宿題に付き合ってくれるので、忙しい寛二郎と一緒にいたいがために、私が夏休みの宿題を毎回手付かずにしているのは内緒だ。


「かんちゃんの介護はあたしがしてあげるよ。」


「馬鹿、いやなこった。お前のようなガサツな乱暴者に介護されたら、俺は一日で満身創痍になるからね。」


「あ、ひどーい。」


 彼は茶請けの蕨餅を人差し指と親指でむんずと掴むと私に向けて差し出したが、私が口を開ける前にぽいと自分の口に入れた。


「あ、ひどーい。」


 ごほ。


 え?


 口に入れた数秒後に彼は蕨餅にむせはじめ、私は慌てて湯呑みを差し出した。


「何をやっているの。ほら、ミント緑茶を飲んで。」


 ところが寛二郎は受け取るどころか私の手を跳ね除け、そして、咳き込んでいた彼が二つ折りになると、ゲホっと大きく血の塊を吐いた。


「え?どうしたの?どうしちゃったの?」


 ダイニングの床でカラカラと湯呑が転がっている中、どうしていいのかわからない私は、救急車と七人の小人を呼んだ。

 寛二郎が七人の小人と呼び鳴らす七人の彼らは、折詰グループ内法務企画室という名の克寛の死で更迭される予定の者達を集めた部署に所属する役員達である。

 左遷どころか新しい部署を与えられた彼らは寛二郎に忠誠を誓い、折詰ではなく寛二郎の宝である私を一番に守るという女子高生には煩い部署の方々でしかない。


 だが、呼び出したくなくても、私には一番大事な寛二郎の大事なのだ。

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