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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
思想及び良心の自由は、これを犯してはならない
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憲法第21条の表現の自由

 田神は私を思いやってくれるが、私は母を告発などしたくはないし出来ない人間だ。


「それでも私のママだし、ママが殺したいのはミオなの。ビオもびいちゃんも、彼女の殺したい過去じゃないの。彼女の心を殺した男の面影があるミオなのよ。」


「それでお前はいつもそんな格好なのか?」


「違う。」


「違わなくないだろう。本当のこんな、こんなにも可愛い姿を、あんな醜悪な姿に変えて!普通の女の子は、自分をより可愛らしくしたいものだろう!ってうわっ。」


 私は卓上のティッシュボックスを失礼な間抜けに投げつけていた。

 残念ながら田神はティッシュボックスに直撃されることもなく、見事に箱をキャッチしていたが。

 私は悔しさに立ち上がり田神に殴りかかったが、簡単にいなされたどころか、私はダイニングテーブルに両手をついた田神という檻に囚われてしまっていた。


「う、うるさいな!あたしはあの格好が好きなの。誰が不幸だからって自分を醜くするか!馬鹿!大体あたしはメタラーだよ!メタラーがゴスロリの信奉者でどこが悪い!」


「俺だってメタラーだよ。芸術的・思想的価値があってもだな、あの格好では奇天烈の取り扱いを免れることは出来ないんだって言っているんだ!」


「何を悪徳の栄え判例もじってんのかな!」


「いいから!とにかく、目の回り真っ黒って、可愛くないだろう!変だって、変!」


 裏返った声を出した田神はごくんと唾を飲み込み一呼吸置くと、私を捕えたままの優位性を思い出しでもしたのか、私に覆いかぶさるようにして身を近づけて来た。


「ねえ、ビイ。そのまんまでライブに行ってくれるなら、俺はどんな障害があろうとも、ぜったい絶対に、夏の大阪メタル祭りにお前を連れて行ってあげるよ。」


 彼は低いいつもと違う声で私を真っ直ぐに見つめて言い募って来たが、そのせいなのか、真面目な顔をした田神は実はそれなりに整っている顔立ちだったと私に再認識させ、私の心臓が怯えでも怒りでもない変んな鼓動をどきんと打ち始めた。


「お、お前が仕事にかこつけて行きたいだけだろうが。この、ロリコン!」


 ロリコンの単語に反応したのか田神はごつい顔を小学生の子供みたいな表情に変えて真っ赤になり、酸素の足りない金魚のように口をパクパクさせている。


「えぇ!ヨッシーはロリコンだったんだ。」


 パクパクしているだけの男が何を言い出すのかと驚いたら、田神の足元からにゅうっと、くたびれた中年男の頭が生えた。


「ひょえ。」


 私は驚いて田神にしがみ付き、田神こそ自分と同じ声を出す男に驚いて私を抱き返していた。

 まあ、一瞬で私達は離れたけれど。


「親父、帰って来たのか?」


「僕が自分でローンを払っている家に帰って来て何が悪いの?お前が可愛い子を連れてきたってママが言うから、僕は頑張って仕事を抜け出してきたんだからね。」


「抜け出すなよ、帰れ。部下が困るだろうが。」


「いいの?僕が帰っていいの?お嬢ちゃんにお土産があるのに。」


「お土産ですか?」


 田神の父は私ににやっと笑い返したのだが、田神の父だと一目でわかるほど田神よりも強面でヤクザの親分みたいで少し格好良いとドキッとした。

 そんな彼は外見通りに自分よりも大柄な息子などどこ吹く風の様子で階段を上がってリビングにその全体像を露にしたのだが、田神よりも背が低く標準身長であるがスタイルの良い細身の人だった。

 そして、彼の手には私のコロコロ鞄があり、彼は重いはずのそれをひょいと軽く持ち上げた。

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