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条件はそして解除される

「蕨餅は商品開発部かどこかの仕業か。」


 元刑事の時代に戻ったのか田神は考え込むが、彼は折詰の事を知らない新人だ。

 折詰という企業の人材とシステムを熟知している男が異を唱えた。


「それはありえませんよ。」


「室長、それはどうしてですか?」


「我が社は勤務体系がブラックに近いですが、退職金はどこよりも高いです。」


「そこは胸を張って言うことか!」


 部下二人に忘れ去られていた社長は体を伸ばして田神からボードを奪い返すと、再び書かなくても良い事を書いて部下達の会話に参加してきた。

 寛二郎は寂しがりやでもあるのだ。


「コピー商品と本物の味比較。」


「あ、そうでした。それで社長は美津子さんの蕨餅を持っていたと。」


 寛二郎は高部にうんうんと大きく頷き、私はその姿と事実を元に、もうひとつの真実を理解してしまっていた。


 条件付法律行為の解除、だ。


「ママが料理ができなくなったその時、折詰からママは解放されるのね。だとしたら、あたしを寛ちゃんが離さないのは、ママが折詰と関わっていたいと思わせるため?ママは斎賀の赤ちゃんがお腹にいるんだってさ。それで、家族四人で一緒に住もうって誘ってくれた。蕨餅がかんちゃんを狙ったものならば、ママは本気で折詰から離れるつもりだよ。あたしは役立たずだね。」


 果たして、どころか、なぜか「そんなことはない。」という言葉が寛二郎から発せられはしなかった。

 それどころか、寛二郎は私から目線まで逸らしたのだ。


「そう。それじゃあお世話になりました。」


 折詰の再興に心血を注いでいた寛二郎が執着していたのは私ではなく、折詰創業時の共同経営者だった徳三の味、つまり、私の母だったのだ。

 私は母のように美しくも無ければ特技もなく、普通に頭が良い訳でもない。

 寛二郎と同じ喋り方をして、法務企画室の小人達に気に入られようと六法全書を読んでいい気になっていた馬鹿者だ。


 そうだ。

 気付くべきだったのだ。


 愛情って条件がないところに存在するものでしょう。


 寛二郎に愛されていたと思っていた私は、折詰に大事な母を引き止めておくだけのただの人質でしか無かったのだと、私は寛二郎の病室を出た。


 そんな私にだってプライドはある。

 さて、どこに行こう。

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