冤罪、だよね
でも、今回の蕨餅は母の仕業ではない。
私まで巻き添えをくう可能性の高い方法を、子供一番の彼女が取るわけ無いのだ。
頭が足りないと私までもが口にするが、彼女は記憶力どころかとてつもなく頭が良い。
頭が良いからこそ料亭を切り盛りできるのである。
「ちょっと待てよ。お嬢。お前はそれだけか?社長を責めるだけか?それだけでいいのか?母親が叔父を殺そうとしたんだぞ。」
「そうですよ。美津子さんは折鶴の料理とあなたの抱える店舗の限定お菓子を考案されているじゃないですか。社長は彼女が提出した新商品を口にしたのですからね。」
「新商品の試作品でしょう。ママの作品を模造したものじゃない。完全なママの作品じゃないわ。」
「あ、そうだった。」
折詰の本当の仕事から離れて長い高部が声をあげ、ホワイトボードを抱えている新人の田神が当たり前だが私に尋ねた。
「どういうこと?」
「あのね、ママは料理を考案するの。ママがまず頼まれたお菓子や料理を作ってレシピも添えて折詰に提出するのよ。そしたら、レシピを元に折鶴が抱える板前や折詰グループ内の料理人がママの料理をできる限り再現して商品化するの。」
自分で言って自分で気がついた。
母は私のために右腕が動くようになるのではなく、厨房に立てば天才料理人のトランス状態になって、日常の自分から解放されるのではないのか、と。
私はどうして今までこんな思い違いを思い込んでいたのだろう。
いいや、思い違いじゃない。
母の腕が厨房では動くと知った私に、誰かが母の腕の説明を私にした?ような気がする。
「おい、どうした?それで、折鶴のあのうまい料理は全部彼女によるものなのか。」
「あ、ああ。折鶴ではママのおじちゃんの天才料理人の今林徳三のメニューが中心ね。失われていた今林徳三の料理を彼女が完全に再現して、その上に、彼女の創作の品を今は季節の品として加えているの。まぁ、ママなくして徳三の料理が復活できなかったのだから、全てママありきって、ママの作品だって言っても過言じゃないわね。折鶴復活は折詰復活の原動力となったと考えれば、ママは折詰復活の立役者でもあるのよ。」
「そうすると、蕨餅は商品開発部かどこかの仕業か。」