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停止条件付法律行為の無効条件!

 私が投げつけた抱き枕犬ロケットによって寛二郎はベッドに沈んだ。

 高部がおろおろと寛二郎を介抱しているが、高部が駆けつける前にコソっと噴出していた部下らしからぬ仕草はいつものことだ。


「民法134条の随意条件で言えば、お前の言っていることは無効だよ。」


 停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効なのである。

 債務者といえる寛二郎の「気が向いたら」的な場合では、通常債務者には債務を履行する意思が希薄であり、当事者に拘束力を生じさせるに足りる意思が認められないからである。


 高部に抱き起こされた寛二郎の顔は赤く染まっていたが、これは怒りではなく柴犬君によるものだろう。

 その証拠に寛二郎の顔上で柴犬君のプラスチックの目鼻の跡がへこんでいた。

 私の隣にいた田神が後ろを向いてしゃがみ込んでしまったのは、彼も高部率いる法務企画室の一社員だからだろう。

 法務企画室は私と寛二郎の安全だけを考慮する部署だというのに、彼らの私達への扱いはとてもぞんざいだ。


「お前って、げほ。何だよ。え、げほ。寛ちゃんと呼べって言っているだろ。」


「うるせぇよ。この嘘つき野郎が。てめぇの言うことを絶対に聞かない、を、あたしは実行してもいいんだよ。反抗期の思春期の女子高生の本領を体験したいか?この野郎。今夜からじいちゃんのところに行くよ。」


「じじいは色ボケ中だ!」


「お前の親父だろうが!いいよ!ママのとこにする。」


 寛二郎は大きく慌ててホワイトボードに何か乱暴に書いているが、高部が寛二郎のボードを一心不乱に読んで豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔に変化した。


「社長、びぃちゃんにそれを伝えたら駄目ですって。」


「あんだよ。」


 私がずかずかとベッドに近付きホワイトボードを奪おうとしたら、高部がホワイトボードを先に奪った。


「おい!」


「駄目です。」


「駄目って。寛二郎が書いたってことは、あたしに知らせたい事だろう。渡せ。」


「駄目ですって。」


 高部はホワイトボードを奪っておきながら文字を消そうとしないのは、一応は社長がお書きになったものだという認識からだろう。

 私は雇われ人をこれ以上苦しめる事は諦めて、身内を締め上げる事にした。


「おら、言えよ。あたしのスマートフォンを貸してやるから文字を打て。」


「その必要はないだろ。すげぇ。苛性ソーダ風味の蕨餅を作ったのはあの天女か。」


 大柄の田神は小柄な上司が持っていたボードを簡単に奪っていた。


「ふうん。お前はママの名前を書いたんだ。」


 言葉とともに寛二郎を見下すと、体の大きな男は心が小さかったらしく、彼は沢山の脂汗を噴出し始めて私から必死に目を逸らしているではないか。

 私は母の名前を持ち出した彼の行為を、この情けない姿を見ながら許すしかないと溜息をついた。

 寛二郎は私を繋ぎとめておくためならば何でもやる。


 母が斎賀と結婚した時に、彼女は私を連れて行こうとしたのだ。


 しかし、彼女の障害よる哀れな過去まで持ち出して親権を奪い私達を引き離し、祖父が再婚したからと私を連れて本家を出たのも、私への寛二郎の執着によるものだ。

 そして、私を深く愛して私の為であれば力の篭らないと思い込んでいる右手を使って料理を作れる母が、私を助けるためだと聞けば何でもするだろう事は想像に難くない。


 だから斎賀が私を憎むのだ。

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