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偽造の件

 寛二郎は仕事関係では折詰という文字の三文判を使うが、私関係のここぞの時には、必ず男の子の顔の下に「かんちゃん」と彫られているものを使うというふざけた野郎だ。


 そんなものが銀行印にも使用できるのも驚きだが、そんなことを知らないだろう間抜けな熊谷の追認書類に押された印は普通の三文判であり、かんちゃん印ではない。


「社判は偽造できても特徴のある社長の三文判に似せての偽造が出来なかった点で、折詰をよく知っていても、内実を良く知らない者だとは思いませんか?よって我々は菅野良祐という人物を事の発端ではないかと看做しました。」


 そうだ、これで私の明日のライブ行きが確実でなければならないはずだ。

 田神の報告を聞くや、寛二郎はせっせとホワイトボードに何かを書いて、とんと音がするような感じで自分の膝の上にボードを立てた。


「菅野はフィリピン。十五年前からあっちの刑務所にいます。」


 私は寛二郎のホワイトボードに慄いた。


「そんな重大情報、最初に言っておけよ!」


「そうですよ。びいちゃんの言うとおりです。私も初めて聞きました。」


「お嬢は高部室長にもびいちゃんて呼ばれているんだ。」


「あっつ。」


 私は強く田神の足を踏みつけ、しかしホワイトボードに再び何かを書き込んでいる寛二郎から目を離せなかった。こいつは次にどんな情報を出すつもりだ、と。


「俺が現地の警察に札束つけて売りました。内緒だよ。」


「何をやってんですか!あなたは!親族を売ったんですか!」


 珍しくつばを飛ばす勢いで高部に叱られた寛二郎は一瞬怯んだが、彼は再びホワイトボードに何かを書き連ねている。


「何だろうね。次の情報は。この社長はおもしれぇ。」


 田神のワクワクした囁き声からすると、彼は楽しんでいるようだ。

 私は田神に何も返さずに、とにかく寛二郎の書きかけ途中のホワイトボードを覗いた。


「お題を達成できなかったから明日のライブが禁止って、一体どういうことよ。」


 私の大声に寛二郎は書きかけの文章を一瞬で消し、その代わりに簡単な言葉を大きくボードに書き殴ったのである。


「禁止ったら、禁止、なの。」


 ホワイトボードを掲げて人を小馬鹿にしたように大きく目を見開いておどけた顔で私を言い聞かそうとする男に、私は母から手渡されていた見舞い品の巨大抱き枕で殴りつけた。

 やる気のなさそうな顔をした柴犬の形の抱き枕は、やる気のなさそうな顔ながら寛二郎をベッドに沈める程の威力はあった。


「あぁ!社長!」

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