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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
始まりは権利能力の有無から
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未成年者の法律行為と後見人

「ほら、新しいお茶だよ。ビオも飲んでみて。」


 彼が私の父同様に非常識で頭が弱いから「新茶」と言えないのではなく、彼が注いだミントの香りがする緑茶は我が社の新作であるだけである。


 わが折詰グループはコンビニエンスストアの台頭により仕出し弁当から別事業に発展することを余儀なくされ、現在では冷凍食品やデパ地下で売られる佃煮と茶菓子に力を注いでいる。

 折詰で高級なのは、今では創業時から持っている高級料亭「折鶴」だけであり、折鶴があるからこそ年末の御節やデパ地下の佃煮などを高く高く客に売りつけられるのだ。


「ミントの緑茶って、あたしが好きなお店の季節限定品のパクリじゃない。」


「何を言っているの。ミントを緑茶にってどこの店でもやっているでしょうが。」


「どこの店でもやっているのを新作って、それこそどうなのよ。」


「お前は後見人に文句つけるのかよ。お前の買い物すべて無効にしてやるぞ。」


「残念でした。日用品の購入その他の日常生活に関する行為については取り消しの対象から除外されていますから平気です。」


「そりゃ成年被後見人の法律行為だろうが。大体よ、ライブに行くって昨日お前に届いたドレスなんざ日用品じゃねぇだろうが。」


「ワンピースと言ってよ。で、目的を定めないで処分を許した財産を処分する時も同様でしょう。つまり、お小遣いの範囲内ならいいじゃ無いの!」


「ふざけんな。ポンパドール夫人みたいな格好になる服なんざドレスでお小遣いの範囲外だろうが。あんな高くて馬鹿みたいな服は後見人さんには取り消せる代物だね。」


「取り消したらお爺ちゃんに泣きつくからね。」


 寛二郎は私の社会的な後見人に納まっているが、誠吉が祖父として私の親権者である。

 母は右腕の障害が残りながらも、二度目の愛を見つけたと私が三歳の時に私の親権を祖父に渡して結婚をし、私はそれからずっと折詰家で育てられているのである。

 私は記憶にある限り誠吉の背中か寛二郎の腕の中に納まっていたのであり、学校で母がいないことを級友に指摘されるに至って母を恋しく思わない自分がいた事を知ったのだ。


 愛情深く彼らに育てられているからといって、母を求めない自分自身を薄情者だとも考えることもあったが、六年前に祖父が再婚するに当たって、私は元々愛情が薄い人間なのだと認めるしかなかった。


 祖父の再婚相手は私と仲良くしようとあれやこれやと心を砕いていてくれた気もするが、私は祖父と後妻を振り払い、寛二郎と手を繋いで育った家を飛び出したのである。


 寛二郎が購入したマンションの方が学校に近く、近付くと勝手に蓋が開くトイレに自動改札機のような機械が設置されたエントランスがあるとか、近未来的な環境に私は転んだのだ。


 祖父と住んだ屋敷は今では滅多にお目にかからない数奇屋造りの年代ものだと知ってはいるが、私は十七歳の子供でしかない。


 当時だってまだ十一歳だ。


 友人を招待できる「家」に住みたいではないか。


 友人がいれば、でもあるが。

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