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私達には条件がある、ね 条件付法律行為

 母は私の素顔が見たいと望んだが、素顔のままの私は、一七歳にも見えないだろう。


 小さな胸に、大きいだけの瞳。手足も子供のように棒みたいに細いだけで、女らしさとは皆無なのだ。

 だからこそ私は前髪をつんつるてんにし、耳元ぐらいの短いボブに見えるショートカットの頭にしている。

 それこそが私の真の姿だ。

 そして真の姿を隠すべく、頭には茶髪ロングのカツラをかぶり、ゴシックロリータという鎧を身に纏っているのである。


「いいよ。脱ぐよ。一時間だけ。赤ん坊みたいに裸ん坊でよければね。」


 素の姿になった父親似の私でよければね、と心の中で付け足した。


「もう、美緒ったら。」


 しかし、私の心の中など見えないはずの母は笑うどころかカップに紅茶を注ぐ手を止め、悲しそうに俯いてしまったのである。

 母の機嫌を損ねたら怒った斎賀が来るかもと、怯えた私はかなり慌ててしまっていた。


「ど、どうしたの?そんなにあたしの格好が嫌?」


 彼女はテーブルにポットをコトリと音を立てて置きなおすと、ゆっくりと首を振った。


「ママ?」


「……あなたは貧乏暮らしに耐えられるかしらって。」


「ママ?どうしたの急に。」


「私ね、お料理の才能が枯渇してしまったようなの。だからね、折詰から去ろうかと。龍彦さんの郷里に一緒に行ってね、家族四人で住めたらいいかなって。美緒は学校を辞める事になるから嫌かしら?」


 条件付法律行為の期限とは、法律行為の効力の発生、消滅または債務の履行を、将来において到来することが確実な事実にかからせる旨の付款ふかんをいう。


 母は幼い私が彼女に会いにくる度に、「必ず一緒に住めるように準備をするから待っていてね。」と必ず口にしたが、母が折詰の重鎮となっている今でも母が折詰の囚われ人でしかないという方が真実で、折詰から離れた彼女と斎賀だけでは今のような生活はできやしないだろうと幼心に理解していた。

 それどころか、祖父にも寛二郎にも可愛がられている現状から抜け出す事こそ私には恐ろしく、私に会えば必ず涙を流す母の手をつかんで「ずーと待っているから大丈夫。」とだけ答えてきたのだ。


 ずーと、ずーと、一緒に住めなくても大丈夫と言う残酷な娘。


 母が私にした約束は完全に実行不能どころか、到来する期限が不確定な不確定期限であるからして、私は民法135条に従って期限が到来するまで「一緒に住みたい」という請求などしなかった。


 一緒に住めるようになったら、親子で別居していることをやめる。


 この約束が停止条件つき法律行為であるならば、母が債務者だとして、134条の債務者の意思のみに係る時は無効とするということも、133条の母ではその条件が不可能である事が明らかだと、不能条件を付した法律行為は無効で無条件であるということも、私は見ない振りをして生きてきたのだ。


 そうすれば、私と暮らしたいと私を望む母を永遠に繋ぎとめ、取られまいと私を甘やかせて大事にしてくれる寛二郎に守られた生活が続くのである。


 続く……はずだった。

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