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誰が決めた戯言だ 無権代理行為

 折鶴の名前と母の安全性を鑑みて、折鶴の従業員は全て寛二郎と私と小人たちによって選出されている。

 斎賀は母以外の人間はこの世に要らない人間なので蚊帳の外だ。

 よって、私が知らず、且つ、お運びが満足にできない人間など、この折鶴にあってはならないものなのである。


「私は絶対にお前たちを追認しませんからね!」


 無権代理行為によって本人は追認権と追認拒絶権を取得する。

 一旦追認拒絶をした後においては、たとえ本人であっても、改めて追認する事により、無権代理行為を有効なものとすることはできない。


 だが、そんなことはどうでもいいのだ。


 バン!


 怒りに満ちた私が座卓を大きく叩き、その勢いですぐさま立ち上がったのだが、私が立ち上がった時には全てが終わっていた。

 膳を私達に投げつけてから私を殺そうと目論んだらしき男は、翳した柳刃包丁を持つ手を田神に捕まれたと思ったら、なんと宙に浮いてから畳に打ち付けられたのである。


「うあがぁ。」


 この叫びは斎賀に拘束された男が発したものである。

 田神の投げ飛ばした男は、腕を変な方向に曲げて完全に白目をむいているからだ。

 斎賀は暴漢の後ろから首を左腕で締めつけて、右腕で暴漢の右腕を後ろ手に捻っている。

 母に危険が一ミリでもあると察知すると、斎賀は自動的に危険を排除しようと動く生きている母専用安全装置なのである。


 それならば雇われた奴等を事前に排除しとけと思うが、彼の注意は母へしか向いていない不器用な男なので、そこまで求めるのは酷であろう。


 さて、そんなことよりも、私は田神を恐ろしく感じていた。


 田神は暴漢を片手だけで制圧したのであるが、なんと、伸した男の持っていた膳を片手に保全したままであるのだ。

 雑賀の抑える暴漢の足元は、当たり前だが膳が粉々であるというのに。


 どれだけ腹が空いていたのだ、田神!


 そんな田神は膳を座卓に置くと、これまた何事も無かったように食い出した。

 私と斎賀も、斎賀に拘束されている男でさえ田神に目をむいている中、パン、パンと拍手が鳴った。

 母が田神のために、次の膳と、部屋の片付けをする者を呼び出しているのだ。


「この見事な人にお銚子もつけてあげてよ!」


「あ、俺はビールの方がいいです。」


 私はふざけた護衛官の背中を蹴りつけ、既にビールと叫んでいる母に向き直った。


「ママ、お酒は駄目よ。彼は運転手なんだから。」


「あら、運転手ぐらいいくらでも折鶴が手配するわよ。」


 母は折鶴の女将としてとても有能だ。

 したたかに飲ませて食わせ、そして安全に客を自宅に送り届けるのだ。

 そればかりでなく、家族がいるものには家族までも折鶴に行きたいと思わせる土産を持たせ、単身者には再び足を運びたいと思わせる土産を持たせるという心遣いまでする。

 だが、私は母から手渡された土産物に鼻の下を伸ばしてへべれけの田神などと車に同乗したくはない。

 この後は寛二郎への見舞いもあるのだ。


「こんな奴のお酒の手配はいいから、あたしのご飯を頂戴。あたしはママのオムライスが久々に食べたい。」


「まぁ、まぁ。甘えん坊さんね。」


 母は聖母の如く最大の微笑を私に向けると、田神どころかこれからの店の切り盛りも忘れて厨房へと駆け出して行ってしまった。

 私が彼女の手作りが食べたいと強請るのは八年ぶりだ。

 斎賀が母を追う前に、何か言いたそうな目で私を睨んだのは言うまでも無い。

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