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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
始まりは権利能力の有無から
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胎児の特則 損害賠償請求権721条 相続886条

 私、今林いまばやし美緒みおは当時は母の腹であるからして、私が認知の請求をしたのではないが、私のろくでもない後見人達の後押しで母が起こし、私は折詰誠吉の孫として生まれた。


 私は生まれながらにして、間抜な父克寛の受け継ぐはずだった誠吉の財産を相続する者であり、父が死亡する事になった原因というか殺人者に対して損害賠償請求もできるという権利も持っている。


 自堕落に女遊びに明け暮れていた父は、遊び捨てた女の身内に殺されたのだ。


 そして、克寛の殺人については事故死と思われていたので、殺人者が何もしなければ完全犯罪も成立していただろう。

 しかし、克寛の子を妊娠して折詰家に持て囃されることと為った母をその殺人者が間抜にも恨み、さらなる行動を起こしたことで、その犯罪行為が明るみに出たのである。


 ろくでなしの折詰家の血を受け継ぎそこで育てられた私としては、絶対に告発できない殺人者を、折詰家の誰かが母を囮にして炙り出したのだと確信している。

 あぶり出された男は結局は克寛の殺人の咎ではなく、私の母への傷害罪で刑務所に服役しただけでもあるが。

 どうしてかは、克寛の殺害が公になることは折詰家にとっては醜聞にしかならず、そんな暗黒な折詰家に一番いいように扱われている母が、周囲に勧められるまま殺人者と和解して許したからである。


 全く、母は人が良いのか頭が弱いだけなのか。


 まぁ、私が腹にいる大事な時に煩わしい事が嫌だっただけなのかもしれない。

 彼女は閃くナイフを避けようと出した右腕を深く切り裂かれ、今や右手がまともに動かせなくなっているというのに、だ。


 私はそんな母の姿を見るにつけ、母を襲った殺人者に反省が見えないどころか母を侮辱した暁には、胎児の私を殺そうとした咎で告発してやろうと考えている。


 母が和解したのに私が告発など、世間的、常識的にも間違った行為に見えるものだが、私には損害賠償請求権を認められているのだ。

 胎児である期間中の私に権利能力など認められず、その代理もできないのだからという停止条件説に基づいた理由なのだそうだが、やはり一般常識的には納得のできないものであろう。


「おっかないよねぇ。ビオは。七人の小人を従えた白雪姫の物語の続きを読むようだよ。七人の付き人もいるしね。最近の絵本には白雪姫が継母に復讐した場面なんか書かれていないでしょう。あれは凄いよね。食事に招待しておいて、焼けて真っ赤な鉄の靴を継母に履かせて喜んじゃうんだよねぇ。怖い怖い。」


 目の前の三十八歳には見えない外見の若々しい男はいそいそと急須の茶を湯呑に注いでいるが、大きな体を丸めるようにした動作のせいか老人の動きのようでもある。

 優男の父克寛と比べれば大柄過ぎて醜男と育てられてきた寛二郎であるが、一八〇を超える身長にスポーツで鍛えられた体を持つ目の前の男は、私世代の人間から見れば理想的な男性像でしかない。

 会った事が無い上にそこらじゅうから悪口しか聞かない父よりも、私の誕生に立会い名づけまでして父親代わりに育ててくれた彼への贔屓目が大きいのは当たり前であろう。


 彼は私からの絶対的な愛情を知っているからか、私をからかい遊び、美緒なのにビオとしか呼ばない。

 そのせいで私は七人の付き人に、「びぃちゃん」と呼ばれている。

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