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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
ここはあたしの持ち物なのだ 不動産登記
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言ったもの勝ち 到達主義と発信主義

 意思表示の到達。

 意思が届いた時に効力を生じる到達主義と、意思を発信した時に効力を持つといわれる発信主義がある。

 私は田神の車の中から熊谷の家に電話をし、私がこれから伺うと留守番電話に残した。


「どうしてわざわざ余計なことをするのですか?突撃は相手の虚を狙うのが鉄則でしょうに。地面師というものは組織犯罪が多いです。そこも考慮していますか?」


「え?ヨッシーはあたしのバックアップはしないんじゃなかったの?」


「バックアップはしませんが、アドバイスはしますよ。突撃ってね、タイミングが一番大事なんですよ。刑事訴訟法で礼状があっても夜間の執行の禁止を謳っていますがね、あれはどうして日没前と日没後なんて書き方をしているかご存知ですか?ホシの一番嫌な時間を警察が選べるからですよ。通学や出社前の人目が一番ある早朝に警察にドアを叩かれたら嫌でしょう。あるいは家族団らんの夕飯前などね。日没前に執行を開始していたら、日没後でも執行を継続できます。嫌でしょうね。いつまで経っても子供に夕飯を食べさせてあげれない、なんて。」


「それは嫌ね。ハハ。でもね、あたしのこれは、あえて、よ。熊谷が家にいてあたしを待ち構えていたら楽しいじゃない。紳士的にされたらあたしはただの子供だけどさ、攻撃されたら子供のあたしは絶対的な弱者だわ。馬鹿な仲間を呼んでいたら一網打尽だしね。」


「本当に攻撃されたら危険ですよ?」


「あら、攻撃される前に逃げるわよ、勿論。当たり前じゃない。この社用車は熊谷に見咎められない場所で、且つ、あたしがすぐに逃げこめる場所に停めておいてね。」


「休憩時間のはずの俺つきで?」


「あたしに車を運転させるつもり?」


「はは。俺はどうして警察を辞めたのでしょうね。楽をしたかったのになぁ。」


「ヨッシーくだけすぎ。あたしはもうちょっと慇懃なあなたのままでいて欲しかったのに。そんなに親近感が湧くあなたなら、メタルを掛けていい。」


「下手な選曲はかえって眠気を誘うから駄目です。」


「ロシアバンドの翼ってタイトルのCDは駄目?」


 田神は私をちらりと見ると、ぽつんと車のステレオをオンにした。

 スピーカーから流れる曲は私の言ったCDのものである。


「すごーい。ヨッシーとあたしはぴったりだね。明日のライブが楽しみ。」


 ところが彼は無言で少し乱暴にスピードをあげたのである。


「どうしたの?なんか怒っている?」


「ヨッシーは嫌です。」


「じゃあ、吉保くん。」


「くん?」


「じゃあ、ヨシヤス。」


「普通に田神さんはないのですか?」


「面倒臭い人。」


「公私混同は問題ありです。それから、学校が本日開校記念日で休みならばそう言ってください。大人として未成年者の学業放棄は認められないものがあります。」


「でも、あたしの言うことを聞いたくせに。」


 運転者である田神は当り前だが私を見ずに、左手で自分の耳元を指差した。


「あぁ、インカムね。残念だわ。あたしは結局学校を休みたいぐらいの弱音も吐けないのね。田神さんは聞いてくれそうだったから嬉しかったのに。」


 これは田神の返答など期待していない。

 発信主義の観点から、私は意思表示を発信しただけなのだから。

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