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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
ここはあたしの持ち物なのだ 不動産登記
14/92

民事不介入で!!

「昨夜の強盗事件は、あたしとの婚姻に失敗して、ここでも勝手に名義変更をしようとして失敗したお駄賃だったのか。間抜けな奴ら。」


「強盗だけでしたらびぃちゃんがやりそうでしたから、色々と馬鹿な足跡を残してくれてありがたいですよ。」


「橋さんったら。いつまでもあたしの子供の頃の失敗をあげつらないで下さい。」


「欲しいおもちゃを買ってもらえなかったと、社長のサングラスをかけて玩具の銃で会長を人質にして会長室に篭城した五歳のあなたが可愛くってねぇ。」


 私の過去を知っている折詰お抱えの弁護士はわかるが、弁護士の隣の警察官まで噴出しているのである。

 おそらく橋本が暇つぶしに色々と私の過去を暴露していたのだろう。


「ここは橋さんに任せるから。あたし達は熊谷を突撃するよ!」


 老人特有の昔話が大好きな橋本が、新人の田神にまで私の恥ずかしい数々の歴史を語り出さない内にと、私は田神の手をつかんで走り出していた。


「うぉ。どちらへ?」


「次の現場へと向かうの!」


 即ち、馬鹿な熊谷茂への突撃だ。

 駐車場の車の前に来てようやく私が田神の手を放すと、彼は車の鍵の解除もせずに当たり前の質問を私に投げかけてきた。


「あなたは熊谷の居場所を知っているのですか?」


「間抜け野郎の申請書類の住所に行ってみる。」


「相手が在宅しているかどころか、その住所にいるのかもわからないのに?」


「住所が嘘であるなら、住所不定のただの犯罪者だと警察に丸投げすればいいし、住所が本当で、でも、在宅していなかったら勝手に家に入る。親戚らしいもん。住居侵入罪なんかで通報はされても民事不介入でなんとかなるでしょう。」


 真顔になった彼は私を叱りつけるかと考えたが、彼は品定めをするように私の全身に視線を動かしただけである。


「何?」


「残念。刑法130条の住居侵入罪は未遂でも罰せられる罪ですよ。また、居住者を威圧して承諾させる行為は真意に出た承諾じゃないので、やっぱり住居侵入罪が成立しますね。」


「あら。おじさん、ごめんあそばせって、女子高生が親戚のお家に遊びに行くって話ですのよ。」


 あれ、田神は鼻で笑った?


「現場では靴は脱ぎましょうよ。その靴底ではフローリングや畳では踏ん張りがききません。それから、サングラスは俺の物をお貸ししましょうか?」


 私は厳つい顔をした糞真面目だと思っていた男を見返した。

 彼は私が不機嫌な顔を見せると想定していたようで、私の浮かべた表情にたじろいだ。

 なぜなら、私は物凄く嬉しそうな顔になっていたからだ。


 当り前だ、とてもとても嬉しいのだから。


「ヨッシー。あなたも悪戯好きなんだね。一緒に突撃侵入しよう!」


「よしてください。自分は知らなかったを通して家には入りませんからね。」


 田神はおもむろに腕時計で時間を確認すると、再び私に向き直った。


「今から出発すれば現地では自分の休憩時間です。俺のいない一時間にどうぞ上手くやって下さい。自分は一切バックアップしませんから、そのおつもりで。」


「くそ野郎。」


 臆病者に言い捨てて私は車に乗り込んだが、ドアをバタンと閉める寸前に、車外で朗らかな若い男の笑い声が弾けていたような気がした。

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