爆発すると幼女
兎狩りを始めてから5日が過ぎて無事に私達二人はレベルが4に上がった、今日からは3階層に進むことになっている。
「ついにスキルが手に入るんだな!」
北原君は昨日から嬉しそうだった、若干目元にクマが出来ているのはもしかして遠足前の子供のように眠れなかったのだろうか。
「佐久間さんはやっぱり〈剣術〉と〈身体能力強化〉のスキルを取るつもりなんですか?別のスキルにしませんか魔法とか!」
キララ嬢が私に抱き着きながら上目遣いで言ってくる。
「北原さんも〈剣術〉と〈身体能力強化〉のスキルを取るって言ってますしー、佐久間さんが魔法スキルを覚えてくれればー、バランスのいい感じになると思うんですぅ、どうですか?」
キララ嬢が胸を私に押し付けるのを見て、北原君がグギギといった感じで私の方を見てくる。
「申し訳ないけど、私はやっぱり身体能力強化のスキルを取らせてもらうよ、すまないね」
私の言葉にキララ嬢は一瞬顔を歪めた後に
「そうですかー」
と言って離れていった、三橋さんは申し訳なさそうな顔で頭を下げてキララ嬢の下に走っていった。
「やれやれだな、だから嫌だったんだよアイドルなんて入れるのは」
「今更何を言ってもしかたないでしょ、安心してよ、とりあえず〈解体〉は取得するから」
ダンジョンの下層を目指すにしても、目指さないにしても、私はとりあえず、〈解体〉は取得すると総理に報告している。
私のような都合のいい人間にとりあえず〈解体〉を取得させてその効果とスキルによって発生するアイテム、それによって得られそうな収入を予想するのが役割である。
「それを邪魔されちゃ、雄兄としても困りますか」
私が苦笑交じりに言うと、雄兄が頷いた後に深く溜息をつく。
キララ嬢としては、少しでも派手に戦闘をしてほしいのだろう、それによって動画のランキングが上げたいと考えているのだ。
雄兄の愚痴を聞きながら、ふと前を見ると北原君に話しかけるキララ嬢の姿が映った。
キララ嬢は北原君の腕をとり、何かを話している三橋さんは難しい顔をして止めようか悩んでいるようだが、結局止めることなく、二人から顔をそらす。
「雄兄、あれはちょっとめんどくさい事になるんじゃないかな?」
「勘弁してくれよ…」
私が雄兄に話しかけると、雄兄は頭を抱えていた。
「3階まではノンストップで一気に進むぞ、モンスターも俺が全部退治するからついてくることだけ考えてくれればいい、キララと三橋も一応気を使うつもりで入るがこちらにも予定があるのでな、なるべく合わせてくれ」
そう、ここまでキララ嬢と三橋さんがいても問題なくレベル上げが出来たが、ここからはダンジョンの奥に進むほどに移動距離は長くなるので、キララ嬢と三橋さんが辛くなるのだ。
かといって二人に気を使ってゆっくり移動すれば、その分だけ狩りに回せる時間が少なくなるのだ。
当初の予定では訓練期間は1ヶ月だったが、このペースだともっと長くなるだろう。
「わかっています、こちらも無理を言っているのは理解しておりますので」
そう三橋さんは言うがキララ嬢は明らかに不満げだった、大丈夫かね、この娘。
「3階に出るモンスターはバッタだ、中型犬サイズのバッタだな」
ここにきてついに動物型以外のモンスターが出てくるようだ。
「気を付ける事が一つあるんだが、まぁ危険も少ないから身をもって経験してもらおうと思う、いつも通り太郎が先に「俺!俺に先に狩りさせてください!」……いいのか?今回は少し痛い思いをしてもらう事になるから太郎に先に行ってもらおうと思ったんだが?」
おい従兄殿よ……
「全然いいっす!むしろレベル上がるまで先に狩らせてくれるなら多少の痛い思いをしてもかまわないっす!」
「……そうか、わかったじゃあ、まずは北原がレベル5になるまでは先に狩れ、いいな太郎?」
雄兄に問われたので私は頷き、最後尾につく。
後ろから見ると、キララ嬢が嬉しそうにしているのが見える、スキルを覚えれば戦闘が派手になるからなぁ、キララ嬢からすると当然か。
それから少し経って、ついに3階層で最初のモンスターが現れる、確かに雄兄が言う通りに大きなバッタだった。
「じゃあ北原アイツの前に立て。さっきも言った通り少し痛い目を見てもらうがまぁ、安心しろ怪我なんかはしない」
言われて北原君が前に出る、剣を構えてバッタの前に出ると体を捻り北原君に飛び蹴りを放った。
私が驚いてみていると北原君は剣を構えたまま、その蹴りを受けて尻餅をつく。
「北原君?!」
私が叫ぶのと雄兄がバッタの首を斬り飛ばすのは同時だった。
「ラ、ライ〇ーキック!?」
三橋さんがバッタの放った蹴りを見て叫ぶ、確かにあの動きは特撮っぽかった。
バッタが着地すると同時に雄兄が首を斬り飛ばす、バッタはそのままばたりと音をたて倒れる。
「雄兄、今のは?北原君が戦い慣れしてないとはいえ無防備で受けるとは考えにくいのですが?」
私が雄兄に聞くと、北原君が立ち上がり、驚いたような表情をしたままこちらに駆けてきた。
「な、なんすか、今の動きが一瞬止まったんすけど!」
「今のがスキルだな、一部のスキルは敵に対しての命中率や攻撃性能がおおきく上がる事がある、今回でいえば北原が動けなくなって敵の攻撃が直撃したのがスキル効果だな、他にも弓術やそれに関係するジョブを取得すれば、放った矢が風の影響を受け無くなったりするんだ」
あのバッタが蹴りを放つまでにかかった時間は数秒だっただろうが、北原君は何かされる前に倒そうと攻撃しようとしたらしいが、体が動かなくなったらしい。
「さすがにあそこまで無敵補正が高いのは、今までに見つかったのはあのバッタだけだが、多少の動き辛さを受ける奴等はダンジョンの下層でも見つかっている、これからの為に経験しておいて損はないから経験をしてもらった、もちろん太郎にも経験してもらう」
バッタにいきなり飛び蹴りを食らわされて驚いていた北原君だがそれ以降が雄兄があっさりと動きを止めた為にキックを食らう事なく狩りを続けていく。
ちなみにバッタのキックは雄兄であっても避ける事は出来ないらしく何度か食らっている姿を見たが、北原君と違い無防備に受ける事なく右手に持っている剣で弾くなどの行動はとれるようで体で受けるダメージはほとんどなかった。
「さて、午前中はこの位にして休憩するが、午後からはどうする?交代するか?」
バッタを20体近く狩ったが残念ながら北原君はレベルが上がらずにスキルを覚える事が出来なかった。
だからだろうか雄兄は私達に尋ねてくる、私は北原君の方を見ると、続けて狩らせてほしいと言ってくる。
「このまま北原君が疲れていないなら続けてくれていいよ、私は明日以降でいいから」
私がそういうと北原君は嬉しそうに
「全然疲れてないっす!」
そう言って雄兄に向かって走っていく。
「それじゃあ、午後からも北原に前衛を担当してもらう、今日中にレベルが上がるかは分からないがな、上がらなくても17時には切り上げるぞ」
雄兄は北原君を見て苦笑を浮かべながら言う、この感じではレベルが上がるまで狩りを続けていたいというかもしれない
「青木さん、すいません少しいいですか?」
休憩地点で安全を確保した後、北原君が雄兄に話しかける私はなんとなく面倒なことになりそうだなぁと思いつつ、話を聞いていると
「取得スキルを変えたいんですが、いいですか?」
そう言って雄兄に話しかける、なんとなく雄兄も理解していたのか、頭を抱えて「何を取るつもりなんだ?」と問いかける
「〈火魔術〉と〈金魔術〉に変更したいんですけど、大丈夫ですか?」
魔術は5属性で、木火土金水の5種で、それぞれの組み合わせによってジョブを取得できる。
北原君の取得する2種類では相克士のスキルを取得する事ができる、相克士はデバフや攻撃魔法の威力を上げるジョブである
「別に構わんが、いいのか?魔法は色々と面倒な制約があるぞ?」
そういえば魔法スキルは取得すると、ダンジョン外で魔法が使えない様にするためのアクセサリーをつけなければいけないなどのルールがあったはずだ。
「構いませんよ!それじゃあ、青木さん俺の取得スキルは〈火魔術〉と〈金魔術〉に変更お願いします!」
北原君が頭を下げる後ろでは、キララ嬢が嬉しそうに笑顔で飛び跳ねていた。
そんなキララ嬢に三橋さんは頭を押さえてその場に蹲る、大変だなぁ、三橋さん。
「まぁ、スキルは一生物だが、5階までの狩りなら何とっても困らねえから、好きにしていいぜ」
そう言って、雄兄は諦めたようにため息を吐く。
「ところで相克士ってどんなジョブなんですか?」
キララさんが雄兄に話しかける、雄兄はキララ嬢を睨みつけるが、堪えた感じがない。
この世界のダンジョンでは魔法の属性は、火土風水の4元素ではなく5行である。
木火土金水で、ジョブも魔術師ではなく相生士と相克士である。
相生士は味方を強化したり、回復魔法が強化されるタイプで、相克士は敵を弱体化したり、敵への攻撃魔法が強化されるタイプである。
「なるほど!じゃあ北原さんの魔法はもっと強くなるんですね!」
きゃっきゃとはしゃぐキララ嬢に北原君は嬉しそうにしている。
仕方ないね、男の子だからね。
「実際、相克士と相生士ってそんなに違うの?」
そう私が雄兄に問いかけると、半分ほど食べた弁当を一気に食べきり、お茶で流し込むと
「それじゃあ、魔法を扱うジョブについて説明してやろう」
といって、私の方を見る。
「ご飯をかまずに食べると体に悪いよ」
そう私が言うと
「レベルが高いから大丈夫だ」
と返された、そんなことに高い能力を利用しないでよ……
「スキルで取得できる魔術は、木、火、土、金、水、の5種類だな、俺もあまり詳しくないが、5行と呼ばれていて、中国から流れてきた考えらしい」
「ジョブを持っていなくても魔術スキルを手に入れた時点でいろんな魔術を使える、今回北原は火を取るつもりみたいだが、火だから攻撃魔法とかってことはない、身体能力を強化する魔法も使えるし、回復魔法も使える、もちろん攻撃魔法もな、その上でジョブがあると、それに対応する魔法が強化されるってわけだ」
北原君の場合、火と金の相克士なので火の攻撃魔法と、弱体化魔法、金の攻撃魔法と、弱体化魔法が強化されるのだと。
逆に、相生士だった場合は、回復魔法と、強化魔法が強化されるらしい。
「結構な違いが出るからな、ジョブは大事だぞ、特に消費する魔力?まぁ、一日に使える魔法の回数が変わるからなジョブに対応する魔法だと」
具体的な数値化が出来ない為に説明が難しいが体感では相克士が使える攻撃魔法の回数と回復魔法の回数は倍近く使用可能回数が変わるという。
「いっそもっとゲームらしくパラメーター表示くらいつけてくれりゃいいのにな」
雄兄はそう言うが、普通に考えて人間の能力を数値化するのは難しいと思うんだが
「いやいや、地球の常識で考えたら、バッタがキックを放つときに動きが止まるのもおかしいし、心臓のない動物がいるのもおかしいだろ?なら案外数値かできるんじゃね?」
そう言って雄兄は笑うのだった。