クソゲーもみんなでプレイすれば面白いって言うしね21話
僕と彩音嬢の話が一息ついたところで今度は、明智嬢がこちらへと近づいてくる。
「改めまして、明智エリカと申します、苗字で呼ばれることはあまり好みませんので、エリカとお呼びくださいませ」
「はい、わかりましたエリカ嬢、それでお二人は僕の持つ〈解体〉のスキルについて興味を持って僕と共に行動するということでよろしいのでしょうか?」
僕の質問に、二人は共に頷きを返してくる、そういう事なら私としては否はない、むしろ研究者である彩音嬢がついてきてくれるという事は僕では思いつかないような事を僕の代わりに考えてくれるという事だ、得しかないと言えよう。
「それでは、まずは1階層の休憩地点から参りましょう、ふふ楽しみですわもぎたてのダンジョン産果実」
「あれ、エリカ嬢は僕が〈解体〉で手に入れた果実を食べたことがあるんですか?」
「ええ、あれは中々美味しかったです、ですがもぎたてはもぎたてでまた違った味わいがあるのではないかと思いまして」
そう言って笑うエリカ嬢はとても楽しそうだった。
僕達5人は現在ダンジョンの1階層にある休憩地点に来ていた。
1階層の休憩地点にあるのは、柔らかく茂った芝生と、綺麗な水をたたえた池、そしてそこから少し離れて奥まった所に2メートル程の高さの果樹が生えている。
「それでは佐久間さん、まずは鑑定Ⅰの効果が及ぶものを教えてください」
長く伸ばした前髪で目元を隠した彩音嬢が、私の方を向く。
僕は頷き、鑑定Ⅰのジョブスキルを使って周囲を見渡す、すると僕の視界の中にいくつかの〇が現れる。
この〇であるものが僕の鑑定Ⅰの効果が及ぶものだ、僕はまず、池を鑑定すると、僕が持っているノートパソコンで立ち上がっていた鑑定アプリによって画面上に池の水のデータが表示される。
分類・水
飲食・可能
毒 ・無
魔力・ 2
効果・なし
必要・調理
これが僕が鑑定した事によって表示された池の水のデータだ、僕の手元のノートパソコンをのぞき込んでいた彩音嬢は、ふむふむと頷くと
「やっぱり多少だけどデータが違うんだね……調理師が【鑑定Ⅱ】のジョブスキルで鑑定した時は、もっと違うデータが出たっていう報告があるし」
そう言って表示されているデータをより詳しく確認する為に体を密着させてくる。
彩音嬢に渡せばいいと思うかもしれないが、それができないからこんなことになっているのだ、残念ながら、鑑定系のジョブスキルを使う時、データが表示されるのは、スキル使用者が持っているものだけなのだ。
今回で言えば、今僕がデータを出力しているパソコンを彩音嬢に渡して、僕が鑑定Ⅰを使っても、出力先に使えるのは、僕のスマホか、MP3プレイヤーなのだ。
「ありがとう佐久間さん、次は果樹になってる実に鑑定Ⅰを使ってもらえる?」
水のデータを眺めていた彩音嬢だが、水に関しては満足したようで次に果実を頼まれた。
僕は彩音嬢の言う通りに、リンゴの様な果実を眺めて鑑定Ⅰを発動させる、表示されたデータはこんな感じだ。
分類・果実
飲食・可能
毒 ・無
魔力・70
効果・なし
必要・調理
並んでいるデータの種類は先ほどと同じだ、ただ水と違ってリンゴは魔力が70もある。
先ほどと同じように彩音嬢がデータを見て、ふむふむと頷き
「ここまでは、もらったデータでも確認できている事、大事なのはここからね、まずはセバスそのリンゴを樹からもいでくれる?」
セバスさんは、言われた通りにリンゴをもぎ、それを彩音嬢に渡す、彩音嬢は礼を言うと、そのリンゴを私に向けると
「さっきと同じリンゴだけど、鑑定Ⅰを使ってもらってもいいかな?」
そう言って僕に渡されたのは先ほどまで鑑定Ⅰを使っていたリンゴだ、私はリンゴに鑑定Ⅰを使うがスキルは発動しない。
その様子をみて、彩音嬢は何かを感じ取ったようで何度か頷くと
「ふむふむ、本当に魔力がないものには鑑定も〈解体〉も発動しないだね」
そうなのだ、鑑定にしても〈解体〉にしても、魔力が残っているうちしか発動しないのではないかと考えている、これは僕と雄兄がウサギ3万匹ノックをしてる時に立てた仮説である。
モンスターには体を動かす為の魔力と、ダンジョン内に存在する為の魔力があり、モンスターを倒すと、時間経過とともに存在する為の魔力が失われ、スキル〈解体〉などが使えなくなるのではないか?という仮説を立てたのだ(立てたのはほとんど僕一人で雄兄は相槌をついてただけだが)
「それでは佐久間さん、次は〈解体〉のスキルを使ってもらっていいですか?」
僕は頷いて、鑑定Ⅰの結果が先ほどのリンゴと同じになるものを探し、魔力が70のリンゴを見つけたので、そのリンゴの生えた木の枝に触れて〈解体〉を使い、リンゴを選択する。
果たして結果はというと、魔力の数値は67だった。
「やっぱり、〈解体〉のスキルを使ってダンジョン内の物を手に入れた時、本来減るはずの魔力が大幅に残る、だからダンジョン外にアイテムを持ち出せるのかしら?」
そんな彩音嬢の独り言にエリカ嬢は乗っかる。
「なら、〈解体〉で取得できた食べ物がおいしく感じるのは、失われるはずだった魔力が食べ物の内部に残っているからかしら?私達人間は魔力を美味しいと感じるのかしらね?」
彩音嬢は、僕が取ってきた魔力のこもったリンゴを一口かじり
「確かにおいしいわ、セバスその果実をボクに頂戴、齧ってみるから」
彩音嬢がそう言ってセバスさんからリンゴを奪う彩音嬢、エリカ嬢は彩音嬢からリンゴを奪おうとするが、一足遅く、彩音嬢は小さく口を開けてリンゴを齧り
そのまま僕達から距離を取って、口の中のリンゴを齧った形のまま吐き出した。
幸い、ゲ〇インになる事は避けられたようだが、戻ってきたが、いまだに口の中に何とも言えない味が残っているようで、池から水を掬って何度も口をゆすいでいた。
「……すごいまずいわ、やっぱり魔力のこもってない物はだめね…それじゃあ佐久間さん、次はその魔力のこもったリンゴをナイフで切ってもらえますか?あ、切るときに、ナイフとリンゴ両方に鑑定Ⅰをかけて、魔力の動きを見たいのですが」
彩音嬢のお願いに僕は少し眉をひそめる、今まで二つの物に同時に鑑定Ⅰを使ったことがないからだ、そしてもう一つ問題がある。
「ナイフに鑑定Ⅰ使えないんだよね……」
僕が申し訳なさそうに彩音嬢に言うと、大丈夫ですと言い
「ボクの予想なんですが、多分リンゴを切ったら少しの間だけナイフに鑑定Ⅰが使えるはずです、恐らくですが鑑定系のスキルは、物質に宿っている魔力に反応するスキルですからそれで使えると思います」
僕は頷くと、リンゴをナイフで半分に割り、すぐにそれぞれに鑑定Ⅰを使う。
パソコンの画面上に表示されたのは彩音嬢の予想通り、リンゴ魔力30、ナイフ魔力30という文字だった。
彩音嬢の考えた通り、リンゴを切った事で魔力が付着したのか、ナイフに対して鑑定Ⅰを使う事ができた、その事に彩音嬢と、エリカ嬢が喜び抱き合っているが、そんな二人にセバスさんが呼びかける。
「お嬢様、彩音様、ナイフとリンゴの魔力の数字がどんどん下がっていますね」
セバスさんが言う通り、リンゴとナイフの魔力のところに表示されている数字が、25、20、13……と下がっていき、0になると同時にパソコンの画面に表示されたウィンドウが消える。
「ふむふむ、やっぱり鑑定系のスキルは魔力を持った物にしか使えないと、なるほどなるほど」
そう言ってメモを取りながら長い前髪で隠した視線をちらちらとこちらに向けてくる彩音嬢、僕は目を合わせることなく、雄兄の方を見るが、彼は僕達から離れてタバコを吸っていた。
次に私はセバスさんの方を見るが、セバスさんは、エリカ嬢と何か話しており、エリカ嬢も決してこちらに視線を向けない。
「それでー、佐久間さんにー、試してほしい事があるんですけどー」
彩音嬢がわざとらしく語尾を伸ばしながら僕に話しかけてくる、僕はもう一度周りを見渡して、生贄を探すが、誰も私と視線を合わせてくれない……
「な、なにかな?」
しかたなく僕は彩音嬢の事を見て返事をする、だが僕には既に分かっているのだ、この後に言われる事を。
「その魔力を失ったリンゴを食べてみてほしいんですよねー」
そう言われると思っていたよ!
「だがね、彩音嬢、君は知っているのだろう?【調理】スキルを持たない人間が切ったリンゴはまずい、すごくまずい、わかっているのにわざわざ食べる必要はないだろう?」
「確かにそうなんですけど、それはあくまで佐久間さんがダンジョン内で手に入れた物をダンジョン外で切った場合なんですよね、佐久間さんがダンジョン内で切った場合、また違う反応が起きるかもしれないじゃないですか、だからね?」
ね?じゃないが、僕は手元のリンゴと、僕に頼み込んでくる彩音嬢、確かに食べられないわけではない、ないが……
「ええい、わかった食べてあげようじゃないか!その代わり半分は彩音嬢、君が食べるんだ!」
僕は手元の半分になったリンゴの片方を彩音嬢に渡す、彩音嬢は嫌そうな顔をするが、諦めたのかしぶしぶ受け取る。
「せーので食べましょう、いいですか、せーのを言い終わってからですよ、絶対食べてくださいね、食べた振りとかしたら呪いますからね」
僕は彩音嬢の言葉に頷き、彩音嬢にも裏切りは許さないと視線で訴える。
「それじゃあいきますよ、せーの!」
僕はリンゴに小さく齧り付く、歯ぐきから血が出そうなくらいの硬さのリンゴは、ぱりっという音をたてて割れ、小さな塊が口の中に転がってくる。
瑞々しい果実からは大量の果汁があふれ、口の中を潤わせ、口の中に転がり込んだ果実は舌の上を転がり、その味が舌の上に広げていく。
「うおぇ……まっず!」
横で彩音嬢がリンゴの塊を口から勢いよく吐き出し、池の水をコップで掬い口をゆすぐ。
そうまずいのだ、瑞々しい果汁も、新鮮なリンゴの果実も、舌の上に広がる味も、全てが絶望的なまずさなのだ、一つ一つもまずいが合わさる事で、そのまずさを増幅させるのだ。
彩音嬢は、口をゆすいだ後、壊れたようにまずいまずいと言いながら、何かをノートにメモしていた、その様子をみて、満足した僕は、口からリンゴの果実を吐き出し、口の中に広がる味が無くなるまで水を飲み続けるのだった……
「ああ、不味かった、やっぱり不味かったじゃないか、彩音嬢」
僕の言葉に彩音嬢も笑いながら
「いや、やっぱり不味かったですねー、実は不味いだろうとは思ってたんですけどね」
そう言って笑う。
そんな笑い合う僕達を見て、雄兄は呆れたような顔を浮かべ
「なんで笑ってるんだ太郎、不味いってわかっててわざわざ食う事なかっただろ?」
「いやー、でも雄兄、実際に食べてみないと分からないじゃないですか、そして実際に食べてみたら予想以上に不味かった、これが笑わずにはいられないじゃないですか、無駄な苦痛を味わったんですよ?」
僕がそう言って笑うと理解できないと言った顔をする雄兄、たいして、彩音嬢は、僕に対して何度も頷き
「そうですよねー、いやー、私も一縷の望みにかけたんですけどねー、それでも駄目でしたよー」
笑いながらエリカ嬢に近づいていく彩音嬢、危険を感じて逃げるエリカ嬢、そんな私達を理解できない物と雄兄は見ている。
だから私は雄兄に言うのだ
「話に聞いていたまずい果物を自分で食べる事が出来た、話に聞いていて想像していたものを実際に経験できたんだよ?僕の知りたいという欲求は満たされた、しかも一人で食べていたなら何とも言えない悲しい感情を覚えたかもしれないけど、それを共感してくれる人間がいる、悪くないじゃん?」
そう僕は、まずいまずいと言う話は聞いていたけど、今まで果実を食べる許可は出なかったのだ、だが今回彩音嬢のお願いという事で食べる事ができて、また一つ未知だったものを知る事ができた。
僕が満足そうにしていると、雄兄は苦笑し
「そういや、お前も俺達一般人からすれば理解しがたい性癖の持ち主だったな」
そう言って肩を竦める、そんな雄兄に、理解されがたいのは事実だが、性癖ではないと訂正を求めるのだった。