主人公以外の視点はなるべくまとめたい16話
カタツムリの殻バラバラ事件から、少し時間が経って、僕達に政府から下されたお願いと言うなの命令は、モンスターの部位を破壊した状態で倒し、〈解体〉を使えという物だった。
特にウサギは念入りに、尻尾、耳、前足を切ってから倒せという指示が下り、僕達は無慈悲ウサギ虐殺追加1万匹がノルマに追加されたのだった。
私がウサギの悪夢に悩まされている間も時間は進むもので、普段の狩りでは北原君がさらに魔法の細かい調整を可能とし効率的に敵を倒せるようになり、僕は他の動画の〈身体能力強化〉スキル持ちの人間と比べられて違和感がないよう毎日全力で狩りを続けていた。
定時までは全力で狩りをし、残業ではウサギを殺しつくし、夜はウサギの悪夢を見る、そんな日々を送っていた僕が送っていると、一件のニュースが世間を賑わした。
「政府公認の探索者、酒に酔って電柱を殴る周辺地域では停電となり倒れた電柱が民家に衝突しましたが、幸いにも住民に怪我はなく、現在事件を起こした探索者は国防チームアイギスの隊員によって拘束され、取り調べを受けている模様です、次のにゅーs」
私はテレビを消すと、急いで雄兄に電話する事件が起こったのは北海道ではないが、何かしら情報を持っているはずだ。
だが残念ながら雄兄は電話に出る事はなかった、またこの日の探索は中止となり、僕はニュースで続報を待つのだった。
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「少し早すぎたのではないですか?」
そう言ったのは黒い髪を背中まで流した少女、エリカだ、エリカは対面に座る小尾総理と、神成防衛大臣に向かってニコリと笑いながら話しかける、だがこの笑顔を好意的だと取る者は誰もいないだろう。
「いや、そうは言うがね、明智家の嬢ちゃん俺達だって頑張ったんだが、それでも駄目だったんだ、努力は認めてくれよ」
そう答えるのは神成防衛大臣だ、元々は小尾だけに押し付けて逃げようとした神成だったが、逃げ切る事ができずにこうしてエリカの前に座らされている。
「神成防衛大臣ともあろうお方が、努力はしたんですとその結果駄目だったんです、許してくださいとおっしゃるのですか?」
エリカの言葉に、神成はすいませんと一言言うとそのまま、置物になった
「まぁ、あまり怒らないでくださいエリカさん可愛らしい顔が台無しですよ、それにちゃんと被害を最小限に抑えたのですから」
「当たり前です、停電を起こした分だけ最小限になっておりません、とはいえ、悪いタイミングではなかったのかもしれないと思うのは事実です」
そう言って小尾と神成に笑顔を向けるのをやめたエリカに二人の男はほっと息をつく。
「今回の件で世論はホルダーに対する危機感を覚えました、今までは漠然と危険だと言われていたものが、実害をもって自分達に牙を向いてきたのですから、ですがそれでもダンジョンの開放を訴える動きを0には出来ないでしょう」
エリカの言葉に二人の男は頷く。
今度はホルダーの数を少なくするとその少ないホルダーが暴走した時に危険だからホルダーを増やすべきであるという風に主張を変えてダンジョンの開放を訴えている。
誰でもダンジョンに入れるようになれば隣人が危険なホルダーであっても自衛することができるので、政府はダンジョンを開放し、全国民をホルダーにするべきであると。
「冒険者ギルドの準備は8割程です、本格的な活動にはもう少し時間がほしいというのが私からの意見ですね」
「もちろんわかっています、すいませんね、政府から力を貸す事ができずにエリカさん達には苦しい思いをさせてしまって」
もし政府が冒険者ギルドを作った場合、最低限の生活を保護しなくてはいけない、だが民間企業ならば出来高払いという手段が使える、結果生活が出来なくなった冒険者は冒険者をやめて他の職に就くだろう。
「我々の予定としては、現在新人探索者として活動している皆さんのレベルが10を超えたところで、一旦、民間人に体験ツアーを開く予定です」
「体験ツアーですか?それはダンジョンのということですか?」
「そうだぜ、実際にダンジョンに入ってもらい、自衛隊の補佐無しでモンスターと戦ってもらって手に入れた魔石を換金してもらう、そこまでやって、割に合うか合わないかを自分で判断してもらうってわけだ」
「それはまた、中々に酷いツアーですね」
現在、見習い探索者としてレベルをあげている太郎達だが、彼等が順調に育っているのは全て国のバックアップがあるからだ。
もしも、国が武器や防具を用意してくれなかったらどうだろうか、民間で用意できる武器となると、バットやナタなどだろうか?そんな装備でモンスターを全力で叩いた時、例えばバットはどうなるのだろうか?
1匹や2匹では壊れないかもしれないが、3匹、4匹と戦っているうちに衝撃でヒビが入っていき、いずれは壊れるだろう。
ほとんどの冒険者にとって、ダンジョンに潜るという行為はお金を稼ぐ行為ではなく、膨大な額の出費と引き換えにレベルを得る行為になるだろう。
そういう現実を体験するのが今回のツアーの目的だ。
ほとんどの人間がそのツアーを経験する事でダンジョンに潜りたいとは思わなくなるだろう、ダンジョン開放家が減ればダンジョン開放運動は縮小化し、テレビで扱われることも少なくなり、人々の頭からダンジョンという言葉は薄れていく。
そうして熱が冷めた所で冒険者ギルド開放、それが国とエリカの思惑だった。
「ふぅ、少し熱くなってしまいましたね、ところで彼からの新しい報告等はないのですか?」
エリカは少し興奮した表情で、目の前の二人の男に尋ねる。
エリカのいう彼とは、言うまでもなく、太郎の事だエリカは冒険者ギルドを管理運営する代わりに太郎から送られてくるレポートを見る権利と、太郎と共にダンジョンの深部を目指す権利を手にしているのだ。
「特にこれといって新しい内容はないみたいだね、君が求めたウサギ2万匹のノルマもこなしたようだが特別なアイテムは出なかったらしいよ」
「そうなのですか、残念です」
それでも太郎から提出されたレポートを手渡されると、穴が開くほどに読みふける。
そう、目の前の少女こそが太郎が悪夢にうなされる原因となったウサギ大虐殺の命令を出した人間だったのだ。
「それにしても早く私も彼と合流して様々な実験をしたいというのに、本当に困ったものですわ」
ミシリと、3人の前にあるテーブルが音を立てて軋む、エリカはそんなテーブルを見下ろしながら、太郎から提出されたレポートを読みながら、〈解体〉スキルでの実験に思いをはせるのだった……
*****???*****
一人の人型が大きな樹を眺めている、男とも女とも青年とも、老婆とも見る事が出来るそれは、目の前にある巨大な樹になる2つの果実を眺めていた。
その2つの果実には七色に輝く鎖が刺さり、お互いを支えあう様に繋がっていた。
「やぁ、***、EZ60318とEZ43092の様子はどうだい?」
そんな人型の下に別の人型が背中から声をかける、この人型も人の形をしているという事がかろうじてわかるだけの存在だった。
「やぁ◇◇◇、やっと安定したようだよ、まったく驚いたよ、まさか何の前触れもなくあんなことになるだなんて」
***と呼ばれた人型はアンカーが刺さった2つの果実のうち一つに視線を向ける。
「混乱は起こらなかったのかい?それとEZ43092の反応は?」
「混乱はもちろん起きたさ、ホルダー達が現政府に対して反旗を翻し、何万、何十万という人間が死んだよ、けれど幸い滅ぶことはなかったからね、少しすればまた元に戻るよ、それからEZ43092は巫女に話を通してあるから心配ないさ」
「そうか、それはよかった、しかし、ホルダー達がホールを降っているという話もある、いいのか?放っておいて?」
「それで滅ぶなら、それもまた彼等の運命さ、私達は彼等にとって都合のいい奇跡をいくつも起こした、それでも滅ぶというのなら、それが彼等の種の運命だったんだ」
「そうか……せめてあの作品が完結するまでは生きてほしいものだ」
「いやー、それは無理じゃないかと思うなぁ、私としてもあれの新作が発売されるまでは生き延びてほしいけど、そもそも開発が続けられるかも微妙だし」
二人は、顔を見合わせた後に、深く溜息を吐いた後に、それぞれの仕事に戻るのだった。
*****???*****
巨大な城の一室、その中でも特に豪華な部屋に一人の男が居た。
男は豪華なマントを身に着け、その下に竜の革で作られた特製のシャツを身に着けている。
「して、巫女よ、改めて問おう、我等が渡る事を巫女は決して認めない、そういう事であるな?」
巫女と呼ばれた幼い少女は赤い目で男〈王〉を見つめながら、こくりと頷く。
王は巫女を見つめ、巫女は王を見つめる、僅かな時間見つめあった後に、先に折れたのは王たる男であった。
「わかった、我等王国は決して国内の穴に近づくことはしない、また封印に関しても全面的に協力すると約束しよう」
王の言葉に巫女は頷く事で返事をすると、そのまま溶けるように消えていった。
「……追いましょうか?」
「やめておけ、俺は無駄に優秀な人材を殺す暗君ではない」
「……私では巫女には勝てませぬか?」
「あれに勝てる人間などいないよ、巫女という名は伊達ではないのだ」
自分の部下が不機嫌な態度を隠さない事に王は満足げに笑みを浮かべた後に、本来の仕事に戻るのだった。