ウーサギ、ウサギ、何を落とす?14話
私が僕に一人称を変えてから、少しだけ時間が経った。
初めて私が自分の事を僕と言った時は北原君はびっくりしていたようだが、それでもすぐに慣れて今までの用に話しかけてくれた。
そんな北原君だが、一時期は非常に危うい状態だった時がある。
理由は簡単だ、〈火魔術〉の使用による精神的な負担とキララ嬢へのアプローチが相手にされなかったことである。
無駄に派手な魔術を使い、キララ嬢の動画を盛り上げようとした結果一発一発の呪文にかかる魔力が上がってしまい、お昼を過ぎれば辛そうにしていた。
それでも雄兄の予定もある為に無理をしてでも仕事を続けるという生活を続けた結果、北原君の精神的疲労は大きく、段々と余裕がなくなっていったのだ。
そんな北原君だったがある日を境に大きく変わっていった。
最初の変化は恐らくお昼のお弁当だろう、今までコンビニで買ったおにぎりだったのが、ある日を境に手作りのお弁当になったのだ。
その日から少しずつ北原君にも余裕が出てきた、魔術に関しても、今までは大きく派手な物を好んで使っていたが、最近は威力と派手さの両立が出来るようになってきていた。
キララ嬢もさすがに北原君のやさぐれ具合を見たからか、それ以上何も言うことなく自分なりのアイドル像を掴んだようで、ランキングは僅かにとは上がっていた。
さてそんな中僕はといえば、若干だが苦境に立たされていた。
雄兄以外には僕は身体能力の強化系スキルを取ったと言ってある、その為若干とは言え今までよりも身体能力を上げた振りをしないといけないのだ。
もちろん、最初からこの事態は想定していたので、スキルを取る前に全力で動くことなく余力を残して動いていた、だが毎日全力で動かなくてはいけなくなったことで僕の肉体的負担は大きく上がったのだ。
それが終わった後には〈解体〉の検証もしなくてはいけないので、毎日がくたくただ……
「さて、太郎今日からは兎を検証していくぞ…」
実はダンジョンの1階層を端から端まで探して〈解体〉の対象になるアイテムを探していたのだ。
残念ながら休憩地点にある木になっていた果実と、生えていた毒キノコしか手に入れる事が出来るアイテムはなかった。
またネズミに関しても1000体以上のネズミを倒して全部のネズミが落とすアイテムが同じだったため、レアアイテム等はもっていないと、とりあえず判断されての2階層への移動である。
「ウサギかー、なんとなくレアアイテムとしてウサギ耳とか、兎の尻尾とか後マイナーなところだと後ろ足とかもアイテムにされてる事が多いよね、ゲームだと……」
「馬鹿だなあ太郎はこれは現実だぞ?そんなゲームみたいなことがあるわけないだろう?」
僕達は笑顔で話し合う、だがきっとその笑顔は引き攣った笑顔だったと思う。
「今日はどうするの?いきなりウサギ倒す?それとも2階層を端から端まで探す?」
「今日は捜索からするぞ、何かあるといいんだが」
僕達は2階層を歩き回る、基本的にこの残業は1日1時間程なので、ダンジョンの1階層端から端まで調べるのには中々日数がかかるのだ。
「結局1階層ではキノコしか手に入らなかったけど、2階層はどうかな?この階層でも1種類だけだといいなぁ」
「案外上の階層と同じでキノコしか手に入らないんじゃないか?ほら全ての階層で新しいアイテムが落ちるなんてダンジョンの製作者も大変だろう…?」
「そうだね、うん、それがいいと僕も思うよ」
そんな事を話しながら私は鑑定Ⅰのスキルを発動させて周りを見る、このスキルはどうも〈解体〉が発動可能な物を発見した時に魔力を消費するようなので、常時発動でもいいのだが、一度それをやったら、頭が痛くなって倒れたことがあったのでそれ以来やっていない。
「ん~、ここには特に何もなさそう、そこに落ちてる石も残念ながら〈解体〉の対象にはならなさそうだよ」
「そうか、石から金属が取れないかと思ったんだが、残念だな」
雄兄はそういうと、落ちていた石をダンジョンの壁にぶつけるがどちらも砕けることなく、石はそのままコロコロと転がっていった。
「ゲーム的に言うと、破壊不可オブジェクトって奴かな?」
「だろうな、面倒な事だ」
このダンジョン内には先ほどの石のように、壊す事が出来ないものが意外に多い、休憩地点に生えている樹もそうであり、果実は手に入れる事が出来るが、果樹は手に入れる事ができないのだ。
「そう言えば試してないけど、その石を投げてモンスターを攻撃したり、大き目の石を持ち歩いて盾にした人とかいないの?」
「いたけど、使い勝手が悪いってことで結局誰もやらなくなったな、石は小さい割に重いし、思いから威力が出るかと思って投げてみれば、大したダメージにならなかったからなぁ」
なるほど、その辺の対策はきっちりしてきてるのか、不正利用が出来れば色々と便利そうだったのに、そんな会話を歩いていると、1匹のウサギが現れる。
雄兄の方に視線を向けると、こくりと頷き一気に距離を詰めてその首を刎ねる、私は急いで近づくと〈解体〉のスキルを発動させた。
『魔石』『肉』『爪』の3種類が表示される、私はMP3プレイヤーを雄兄に見せ、雄兄が頷いたのを確認し、〈解体〉スキルを解除する。
その後は何時ものようにウサギの腹を開き、中にある魔石を手に入れると、ダンジョンの隅にウサギの死体を置いておく、後は勝手にダンジョンがウサギの死体を取り込んでくれるため、何も残らない。
「3種類でしたね、雄兄……」
「やめろ太郎、今は何も言うな、いいじゃないか、モンスターだって個性を出したくてアイテムドロップリストの数が違っても」
僕の言葉に雄兄はこちらを見ずにひとり自分に言い聞かせるように言い続ける。
「尻尾、うさみみorラビットフットで5種類……」
「やめろ、わかってるのか太郎、その言葉はお前にも効くんだぞ?自爆テロが趣味なのか?」
苦しんでいる雄兄に対して嫌がらせをしたところ、自分にも返ってくるブーメランだという事を思い出してしまった、きつい……
「いや、だが本当にアイテムリストが少ないだけかもしれんぞ、ほらゲームでも全てのモンスターがアイテムを落とす訳じゃないしな?」
「闇リンゴ…うっ…頭が」
僕の父親がやっていたネトゲであった一つの現象を思い出して頭が痛くなった、詳しくは説明しない、誰も幸せにならないから。
「今日はダンジョンの捜索だけするぞ、ウサギは極力無視だ俺達の精神衛生の為に」
「わかったよ、僕もそれがいいと思う」
後にして思えばこのセリフこそがフラグだったのかもしれない。
この日僕達の進路上にはやたら大量のウサギが沸いた、無視すればよかったのかもしれないが僕等は根がまじめなせいか、全てのウサギを倒し、全てのウサギから3種類のアイテムしかリストに挙げる事しか出来なかった……
「しんどいです、雄兄精神的に」
「おう…〈解体〉の使いすぎだ、そういうことにしておけ」
「結局、2階層では1階層と同じキノコしか手に入らなかったですね」
「まだまだこの階層は広いからな、ゆっくり時間をかけて調べていくぞ」
「その間にウサギから4枠目のアイテムが出ればいいですね」
「お前自爆が趣味だったのか知らなかったぞ……」
結局、僕はこれから1週間以上、ウサギを狩る事になるが、4枠目のアイテムを見る事は出来なかった。
これからしばらく、夜な夜な夢にウサギが出てきて、尻尾や耳、後ろ足を落とすという悪夢を見る事になるのだが、それはまた別のお話。