初めての〈解体〉な12話
「まじっすか、俺が1日半もかかったのを半日で上げちまったんすか……すごいっすね」
「まぁ、地獄のようなパワーレベリングだったけどね、私としてはゆっくり時間をかけてレベルを上げたかったよ」
「まぁ、太郎さんはそういうタイプっすよね……」
休憩地点で待っていた北原君達と合流した後、私のレベルが半日で上がった事を聞いた北原君は少し妬ましそうな表情を浮かべるが、それに対して私は、心の底から疲れた表情を浮かべる事で反応する。
「そういう北原君はどうなの?少しは魔法のコントロールできるようになった?」
「あ、だいぶ出来るようになったんすよ!今日はちょっとこれ以上は難しいっすけど、明日の狩りでは太郎さんにもお見せできると思うっす!」
そういって北原君は、自分の指先に小さな炎を灯すと、その炎を〇×△と形を変えさせる。
おお、小さい炎とはいえ、こんなに簡単に操作できるようになるなんて、すごい進歩だなぁ。
モンスターを倒すには物足りない火力だろうが、それでも最初に使った魔法が30秒かかったことを考えれば、随分な進歩である。
周りを見ると、キララ嬢と三橋さんの表情も明るい、きっと北原君の魔法でいい絵が取れたのだろう。
「さて、今日はこの辺でかえんぞー、それと北原、これをつけておけ」
そう言って雄兄が北原君に渡したのは、武骨な金属でできた腕輪だった。
私が不思議そうな顔をし、北原君が嫌そうな顔をしていると、キララ嬢が、雄兄にそれは何かと尋ねる。
「それは街中で魔術が使えなくなるアクセサリーだな、〈魔工学〉のスキルで作られていてそれをはめている限り、街中で魔術系が発動しない、あと外すとつけなおす事ができないので、絶対許可なく外さないようにな?」
雄兄の言葉に北原君は頷くと手首にそのアクセサリーをつける。
武骨な金属製の腕輪?ブレスレット?は北原君の趣味には合わないようで、酷く不満そうな顔をしている。
「まずなぜこんなものをつけなければいけないか、だがお前の持っている〈火魔術〉のスキルはダンジョンの外でも使うことが可能だ。もちろんダンジョン内で使った時に比べればその攻撃力は大きく落ちるが、それでも決して人一人殺すくらいは簡単にできる威力を持っている」
雄兄の言葉に北原君は頷くことで返事を返す。
「北原には取得する前に話したが、魔術はダンジョンの外では強力な兵器として見られる、当然だが兵器を扱う人間は周囲の人間から警戒されるので、それを封じる為の魔道具だ、同時にこれは北原を守る為でもある、もしもお前の周りで不可解な事が起きた時にお前が犯人であると濡れ衣を着せられないためだな」
魔術というものをよく知らない人間からすれば、何か事件が起きた時、魔術という未知の力を持つ北原君に冤罪をかけられるかもしれない。
だが、魔道具によって魔術の使用が禁じられていたならば、多少だがその疑惑を晴らす事ができる。
それでも完全に晴らす事はできないだろうが、ないよりはましだろう。
「だが、もし外していた場合は、お前を庇う事ができなくなるだから絶対に外すなよ?フリじゃないからな?」
北原君は何度もうんうんと頷く、そんな北原君の様子に私はそこまでしてキララ嬢の為に魔法を取るなんて若いなぁ……。
思わず私は北原君に女性は怖いよ?と声をかけてしまったが北原君は首を傾げるだけだった。
北原君達をダンジョンの外へと見送ってから、私と雄兄は再びダンジョンに戻っていた、目的はネズミを数体狩る事、そしてそこで得られるアイテムのデータを取る事だ。
「とりあえず、俺がネズミを適当に倒して持ってくるからお前はそのネズミを解体していけ、今日はとりあえずネズミを試すぞ」
雄兄の言葉に頷き、私達はまずダンジョンの奥深くへと進む、万が一にも誰かに見られたら困るからだ。
私達は基本的に1階層から2階層へまっすぐ進んでいるが、ダンジョン自体は比較的に広い。
それこそ東京ドーム何個分という広さがあるだろう、具体的に何個とは言えないが、すごく広く、それを壁で区切っているのだ。
ちなみに非常に広いダンジョンだが、ダンジョンに繋がる階段だけが地上には存在していて、ダンジョン自体は地上には存在しない。
なので広大な土地をダンジョンに侵食される事で地殻変動が起きることもなく、世界は問題なく回っている。
「とりあえず、今日はネズミを100匹を目標にするぞ予想だが〈解体〉のスキルを使用すると疲労感があるはずだから無理はするなよ?」
雄兄曰く、スキルを使えば必ず魔力を消費するもので、それは魔術以外でも同じらしい。
〈魔工学〉のスキルを使っても魔力を消費する、そしてそれは大きな機械になるほど、消費魔力は大きくなるらしい。
その為、ある程度大きな機械を作る為には、ある程度の魔力が持てるだけのレベルが必要になってしまうのだ。
〈解体〉でも恐らく少量だが魔力が消費されるだろうと予想される為、具体的にどの程度の回数をこなせるのか等をデータ化してほしいと頼まれたのだ。
「とりあえず、10匹倒して持ってくるからここで待ってろ」
そう言って雄兄は走り出す、私は暇を持て余して〈解体〉のスキルを使って様々な物に触ってみることにする。
まず最初にダンジョンの壁に触ってみたが、これは何も起こらなかったので、舗装された地面に触れてみるがこれも駄目、周囲を見渡し地面に落ちている石を試してみるがこれも駄目だった。
ふと周囲を見渡すと、小さなキノコが生えていたので、これに〈解体〉を使ってみると、意外な事に効果を発揮したのだ。
私は思わず、〈解体〉で『キノコ』を取得し、〈解体〉を取得した時に同時に取得した鑑定Ⅰを発動する
ダンジョンキノコ(1F)
分類・キノコ
飲食・不可
毒 ・有
魔力・10
効果・出血毒
必要・調合
鑑定Ⅰで鑑定した結果はこの通りのデータが出てきた。
今度は改めて鑑定Ⅰをダンジョンの壁などに使ってみるが何のデータも得る事ができないので、どうやらこの鑑定Ⅰというのは〈解体〉で手に入れた物のデータを手に入れる事が出来るスキルなのかもしれない。
そんなことを考えていると、雄兄が両手にそれぞれ3匹、背中に4匹のネズミを背負ってこちらに駆けてくる。
「おう、待たせたな太郎、どんどん解体してくれ」
そう言って、動かなくなったネズミをどんどん地面に置いていく雄兄、私は雄兄が置いたネズミに手を伸ばし、〈解体〉を使用するが……
「あれ雄兄?解体が発動しないんだけど」
「は?何言ってるんだ、しっかり倒してるぞ」
そう、キノコやバッタに〈解体〉を使った時ように取得可能な物が表示されないのだ。
不思議に思いつつ、他のネズミにも〈解体〉をかけていくが、〈解体〉が効果を発揮したのは一匹だけだった。
「雄兄、どういう事だと思う?」
「わからんが、たしか〈解体〉が発動したのは、最後に倒したネズミだな、つまり倒してから時間が経つと、〈解体〉の効果対象にならないということか?」
私達は頭を悩ませるが、考えるよりもさっさと行動するべきだと言って、雄兄はさっさと走り去っていった。
しかたなく私は再び〈解体〉のスキルを唯一効果があったネズミに使おうとするが、今度は使えなかった。
これは時間経過で〈解体〉の効果の対象にならないで確定か?
「おう、今度は3匹にしたぞ、こいつが2分前、こいつが1分前、そしてこれがついさっきだ」
そう言って雄兄が再びネズミを抱えて帰ってくる、早すぎる。
私はまず、2分前に倒されたネズミに〈解体〉のスキルを使うが、残念ながら効果は発動しなかった。
次に1分前のネズミに使うが、これもだめ、最後に倒してから時間が経っていないネズミに使うと
「発動した、『魔石』『爪』『牙』『尻尾』『肉』って出てきてるよ、雄兄」
私はMP3プレイヤーを雄兄に見せる、そこには確かに〈解体〉の効果で取得可能なアイテムが5種類表示されていた。
「なるほど、時間かそれとも最後に倒したのか条件を絞る為にも次は太郎にも一緒に来てもらうことにしよう、もしも最後に倒した対象のみというのであれば、2匹を短時間で倒しても1匹しか〈解体〉が発動しないはずだからな」
雄兄の言葉に私は頷き、先ほど〈解体〉で手に入れたキノコを思い出し雄兄に声をかける。
「ちょっと待って雄兄、そう言えばさっきダンジョンに生えていたキノコに〈解体〉が使えたんだ」
「おいどれが対象になったんだ?」
雄兄が振り返りこちらに近づいてきたので、私は先ほど〈解体〉で手に入れたキノコを手渡す。
「有毒のキノコで調合スキルを使う事で出血毒を起こす薬になるみたい」
「は?毒キノコまじかよ、その情報はどうやって手に入れたんだ?」
「鑑定Ⅰのスキルを使ったら出てきたよ」
私の言葉に雄兄は難しい顔をして頭を抱え、目の前のキノコを見つめる。
「これは…また〈解体〉スキルの危険度が上がったな」
雄兄がそう呟くので、私も首を縦に振る事で肯定する。
「これも総理に相談しないといけないな、はぁ…とりあえずネズミの実験を続けるぞ太郎」
「そうだね、さっさと済ませてしまおう、少し疲れたよ」
私の言葉に雄兄は深いため息で同意をし、新たなネズミのいるところに私達は走り出す。
「太郎、お前はこのまままっすぐ走れ、そこにもう一匹ネズミがいる、俺はここから右に行ったところにいるネズミを倒してからお前に追いつくから、そこで待ってろ」
雄兄の言葉に頷き、まっすぐ走るとそこには確かにネズミがいた。
洞窟内に生えている草を食むわけでもなく、ただぼーっと何もないところを見て動きを止めている姿を見て私は少しだけ恐怖を覚えた。
まるで命令待ちの機械のようなそれを見つめて、僅かな時間が経った時、私は後ろから肩を叩かれる。
「おう、何してるんだ一応ここはダンジョンだぞ、ぼけっとするな」
「あ、うん、ありがとう雄兄」
私の肩を叩いたのは雄兄だった、私は雄兄に礼を言い、少しだけ目を閉じると周囲を見渡す。
私はもしかしたら自分をあのネズミと重ねたのかもしれない、毎日命令される仕事を繰り返し、一日を終える自分を。
ダンジョンと〈解体〉スキルがなければ私はきっとあのまま無気力に人生を終えていたのだろうと。
「ぼけっとするな、さっさと倒して〈解体〉の実験をして帰るぞ」
「そうだね、今日はもう帰ってお酒の一つでも楽しみたいよ」
そんな私の様子を不思議に思ってのか、雄兄が話しかけてくる、ああ……
私は自分の心に浮いてくる感情に蓋をする、そして雄兄がネズミを倒して戻ってくるのを待つ。
実験の結果は、短い時間で倒された二匹のネズミは〈解体〉スキルの対象となるのだった。