モンスター図鑑を埋める為に全てのアイテムを埋めてください、なおドロップするアイテムの種類はわかりませんな11話
「ふはは、太郎、早く倒さないと蹴られるぞ、ふはは」
そう言って笑う雄兄の足の下にはそれぞれ1匹ずつのバッタが踏みつけられ、今にも飛び立とうともがいていた。
私は全力で右足の下にいるバッタの首を刎ねると、返す刀で左足の下にいるバッタの首に剣を突き刺した。
それがとどめになったようで、バッタは動きを止め、雄兄はそれを確認した後にバッタの上から足をどかす。
「し、死ぬかと思った……」
「何言ってんだ、あのくらいでレベル持ちの人間が死ぬかよ」
ゲラゲラと上機嫌に笑う雄兄に対し、私は肩で息をして、呼吸を整えながら、雄兄の仕打ちを思い出す。
「ちょっと全力でパワーレベリングするわ」
と雄兄が私に言ったのは休憩地点から10分ほど走った後だった。
普段はキララ嬢達にある程度気を使ってペースを落としていたが、それがなくなった今、移動のペースは上がっていたし、移動が速くなれば敵との接敵も早くなるので、悪くないペースで狩りをしていたのだが、それでも雄兄は物足りなかったらしい。
雄兄が取ったのは私をここで待機させ、雄兄が全力で走って敵を捕まえてくるという方法だった。
私が倒すと雄兄が探しに行く、1分も経たずにバッタが雄兄に捕まる、私がそれを倒す、これを延々と続けていたのだが、だんだんと飽きてきたらしい雄兄が、1度に2匹のバッタを捕まえて運び始めた。
1匹のうちはよかったのだが、2匹になるとバッタがスキルを使って雄兄の足元から飛び立ち、私を蹴りに来るという事件が起きた、それを見た雄兄は
「これはいい訓練になる!」
と言って積極的にバッタを2匹ずつ私の下に運び始めたのだ。
その地獄は私のレベルが上がるまで続き、結果私は、北原君が2日かかったレベル上げを半日で終わらせる事が出来たのだが……
「まぁそう言うな、その成果もちゃんと出ているだろう、北原が2日かかったところを半日で済んだんだからな、ついでに言えば解体の効果も確認できた、総理の予想通りの効果だったな」
雄兄の言葉に私は頷きを返した、昨日私は総理大臣である小尾 傳と直接会話をして、解体のスキルを取得するかどうかを改めて確認されたのだ。
その確認に対して私は〈解体〉のスキルを取得する事を総理大臣に報告し、総理はそれを許可したのだ。
「それにしてもまさか、スキルレベル1でカンストな上にジョブまでもらえるとは思わなかった」
私のレベルが5に上がった時、突然左手の甲からピンポーンという音が鳴ったのだ。
なんだろう?と不思議に思い左手の甲を見ると、半透明なウィンドウが手の甲に浮かんでいた。
そのウィンドウには
「レベルが5になり、スキルポイントを獲得しました、スキルに1ポイント割り振ってください」
と書かれていた。
私は雄兄にレベルが上がったことを告げ、スキルの取得の為に少しその場に座って休憩を取らせてもらった。
左手の甲に浮いたウィンドウだが、画面が小さく、操作し辛いなと思っていたところ、脳内に
「携帯端末での操作を可能にする為必要なアプリをインストールしますか?」
と響き私がびっくりしていると、雄兄がわかるわーと呟く。
雄兄に、インストールしても問題がない事を確認し、それでもさすがにスマホにインストールする気にならなかったので携帯していたMP3プレイヤーにインストールする。
インストールされたアプリを再生すると、上から
OK【スキル取得】
【所持スキル0】
【ジョブ0】
【ジョブスキル0】
【スキルポイント1】
と表示されている。
私が【スキル取得】をクリックすると、沢山のスキルが表示された。
「音声入力にも対応してるはずだから〈解体〉って言えば多分出るぞ」
と雄兄からアドバイスを受けたので、あえて逆らってみる。
「おすすめスキル」
と私が言うと、一番上には〈解体〉が、続いて〈調理〉、〈鍛冶〉、〈裁縫〉……と続いていく、なにこれ便利。
私は当初の予定通り、解体に1ポイントスキルポイントを振った、すると、【所持スキルポイント】が1→0になり、代わりに【所持スキル】と【所持ジョブ】【所持ジョブスキル】が1になった
「ちょっと待って、雄兄、なんか【ジョブ】と【ジョブスキル】ってのも増えたんだけど」
「おう、ちょっと見せてみろ」
私は雄兄にもMP3プレイヤーの画面を見えるようにしながら、まずは所持スキルの文字に触れる、すると、そこには解体☆と表示されていた。
「☆?」と私が尋ねると雄兄も首を横に振りわかんねと答える。
しかたなく〈解体〉のスキルに触れてみると、〈解体〉スキルレベルマックスと表示される
そう、〈解体〉はレベル1でカンストとなったのだ、スキルにカンストなんてあったんだなぁ。
続いて、【所持ジョブ】【ジョブスキル】にも触れてみると【所持ジョブ】には見習い職人を取得し、【ジョブスキル】には【鑑定Ⅰ】を取得できた。
余談だが、基本的に職人スキルと呼ばれている物は、魔工学の職人〈魔工士〉が現在確認されている、これは〈魔工学〉のスキルにスキルポイントを3振る事で取得できる、最低レベル15が必要となるジョブで、ジョブを取得した際に獲得できるスキルは【鑑定Ⅱ】である。
振られている数字的に完全上位スキルかと思われそうだが、実はそんな事はなく、【鑑定Ⅰ】が全ての物の簡単な鑑定が出来るのに対して【鑑定Ⅱ】は自分が取得しているジョブに関わる物の情報を詳しく知ることが出来るという物である。
Ⅰは広く浅く、Ⅱは狭く深くというイメージかな?
さらに余談になるが、今はまだ誰も3まで取得していない、鍛冶、裁縫、料理等も、レベル3取得でジョブが出るのではないかと予想されている。
次に〈解体〉本体のスキル効果だが、大方の予想通り、手で触れたモンスターを一瞬で解体するというスキルである。
解体取得以降、モンスター等に触れると先ほど、インストールしたアプリが起動し、解体で取得可能な部位が書かれる、後はタッチパネルに触るか、文字に触れる事をイメージすると文字の色が変わり、その色が変わった物のみが残るという仕組みである。
具体的にバッタを例にすると、倒したバッタに触れると、『足』『胴体』『触角』『魔石』という文字が表示され、この中で、足と魔石に触れる、もしくは残したいと願った状態で確定すると、足と魔石のみが残り、他のバッタの部位は消えてなくなるのである。
その様子を見て、雄兄は満足したように頷き
「今日から毎日、他の人間が帰ってから〈解体〉のスキルを使って色々と実験をするぞ」
「それはいいけど、雄兄、これってどのくらい実験をすればいいの?」
私の言葉に雄兄は首を捻る、だが私は色々と嫌な予感がしていた。
「たとえば、ドロップ率1%のアイテムがあったとして、それが落ちるまで続けるの?」
私の言葉に、雄兄の顔から表情が抜け落ちる。
ゲームなどで1%の確率で落とすと明記されている物を求めて戦い続けるのとは違い、こちらはあるかもわからないアイテムの為に延々虐殺を続ける必要があるのかどうかだ。
しかもこれが1%ならまだいい、もしも0.1%・0.01%だったら?
私と雄兄は顔を見合わせる、私の脳裏には、目の前に自衛隊員が総動員されて倒されたネズミの亡骸が山となって置かれ、それに対して〈解体〉を行う、解体マシーンと化した私の姿が浮かんだ。
「とりあえず、総理と相談してみろ、大丈夫だあの人はそんな無体な事は言わない…多分」
「そうだよね、うん、話してみた感じ話が通じる感じだったもんね、大丈夫だよね多分……」
私と雄兄は昨日話した総理を思い出す、非常に話の分かる人で、私がまだダンジョンの奥へと侵入するか迷っていると言えば、ゆっくり考えてくださいと笑いながら答えを急かすことなく、私の意思を尊重してくれた。
「今思ったんだが、もしかして総理はこの事を想定していたんじゃないだろうか……」
「どういうこと?雄兄」
「モンスターが1%以下の確率でアイテムを落とすかもしれない、だからお前は毎日延々とネズミやウサギと言った上層のモンスターを一人で倒し、チェックし続ける仕事に就かされるんじゃないか?」
「?!」
雄兄のその言葉に、小尾総理が私に対して笑顔で、月ネズミ一千匹をノルマに課す未来が浮かんだ。
「やめよ、雄兄あまり不吉な言葉を言うのは……」
「そうだな…とりあえず、北原達のところに戻るぞ……」
私と雄兄は休憩地点に向けて歩き出す、〈解体〉については未来の私がきっと何とかしてくれるはずだから。