道標は君。
ペンを置いて、天を仰ぐ。
集中モードから緊張を緩め、長く深い息を吐く。
目の前の机に広げられているのは、就活でお馴染みのエントリーシートと、『○○出版御中』と宛名の書かれた封筒。
エントリーシートの四角い枠の中は至極丁寧な字でほとんど全て埋めてある。
残るは一箇所。
「志望理由」
頭に文章は浮かんでいる。企業がどんな人材を求めているのか、意欲、内容の一貫性……
しかしいざペンを手に持って書こうとすると、頭にあるイメージが浮かんで離れなくなる。
本に囲まれた空間の中、ノートを手元にペンを持った少女が、自信なさげに微笑する。
「物書きなんて陰気くさいでしょ」
僕はもう一度、ペンを置いて背もたれに頭をもたげた。
――ダメだ。
こんな機械的な言葉じゃない。
どんなに頭をひねって真面目な文章を絞り出しても、それは詭弁でしかない。
嘘でしかあり得ないのだ。
ここに書く理由なんて存在しないのだから。
ただ衝動的に。
君と出逢って、それ以外の道は見えなくなった。
それは一本道で、道標は君。目的地は分からない。
でも僕は本に携わりたいと、物語を作る手助けをしたいと、本気で思っている。
全ては君の――真奈の、影響だった。