ハニー7
なんだかなぁ……。
電源を切っていたことをすっかりと忘れていたけど、久しぶりにスマホを見たら、メッセージメール不在着信などなど、すごいことになっていた。
録画してあったお笑い番組を観ながら眉を寄せていたからか、横からシュンが肩に顎を乗せて堂々と覗いてくる。
ねえ、プライバシーは!?
「誰? 龍崎達巳……って、男だよね? ハニーの、なんなわけ?」
シュンが不機嫌そうに、私の手からひょいっとスマホを取り上げ持っていった。私よりも背が高いと思って、腕を伸ばしてスマホを届かないようにしてくる。
「こら、シュン! 返しなさいっ!」
本当に子供だな!
「やだね。……俺といるのに、他の男に連絡しないでよ」
いたいけな子犬の目でじぃっと正面から見つめられ、たじろいだ。
手慣れていらっしゃる、このタラシめ。
「連絡なんてしないから、ほら返して。今目の前で連絡先消去してあげるから」
疑り深い眼差しをしつつ、シュンがスマホを返却してきた。
「見てなさいよ? ――えいや!」
指先ひとつで、元カレはこのスマホからも、私の記憶からも、永遠に消去された。ざまあみろ。
「ふん! 浮気するやつは世界から消滅すればいいのさ!」
「今のが、昨日言ってた浮気男?」
覚えてないけど私、初対面の高校生に愚痴ったのか……。大人気ないなぁ……。
「……まぁね」
「ふうん。…………そいつ、浮気しててくれてよかったな」
シュンが、ぼそっと黒いことを言った。
「……君の性格がまだ掴みきれんわ」
「え? 俺も、浮気とか二股かけるやつは死ねばいいと思うよ?」
うーん。死ねまではいかないよ、私は。
シュンの病み具合に若干引いていると、呼び鈴が鳴った。
「なんだろう、宅配かな?」
腰を上げようとする私を、シュンが制してすくっと立ち上がった。
「俺が出る。ハニーはのんびりしてて」
「じゃあ、お願い」
基本的には気を遣えるいい子なんだよなぁ。
シュンに任せて、私はテレビへと目を移した――直後、玄関から騒々しい言い争いの声が聞こえてきた。
なっ、なにごとか!?
足をもつれさせながら慌てて玄関まで行くと、通せんぼするように立ちはだかるシュンと、詰め寄るような達巳の姿が飛び込んできた。
達巳はかなり憤慨した様子で、シュン越しに私を見つけると、声を荒らげた。
「おい、蜜! こいつ、なんなんだ!」
むしろあんたがなんなんだって感じだよ。
別れた女の家に来るなんて、非常識じゃないか。
しかしそんなことよりも、シュンに対する達巳の態度が気になるところでして。
「シュンよ。君、なにした?」
達巳がこんなに怒りをあらわにしてるの、はじめて見たよ?
「結婚したから、ハニーの前から永遠に消えてくださいってお願いしただけ」
「嘘つけ! さっき開口一番にくたばれって言われたぞ!」
……カオスだわ。
「とりあえず近所迷惑になるから、場所を変えよう」
私の提案に、達巳が不服を唱えた。
「なんで。中に上げてくれればいいじゃないか」
「浮気男は部屋に上げない主義ですから」
私の回答に、シュンはふっと満足気に達巳を見遣る。
ポーズだけはやたら決まっていた。
すっかり彼氏……旦那? 気取りだけど、君、名字ほしさに私と結婚したこと、忘れてないよね?