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ハニー5



 就業時間までよく耐えた。二度と酒なんて呑むものか。


 今度から嫌なことがあったら、ノンアルコールのビールを呑もう。


 まずは帰ってからシジミの味噌汁だ。




 ざっくりとした事の顛末を語り終えると、みんなに爆笑されてしまった。社長ですら、腰を折り曲げて笑いのツボにはまっている。



 なんてアットホームな職場なんだ、ここは。



 呆れているのは、私の直属の上司であるところの先輩だけだった。


「酔った勢いで結婚なんて、海外セレブじゃないんだから」


「う、……すみません」


「それで、本当にすぐ離婚するの? せっかくなんだから、ちょっとくらいは結婚生活を満喫したら?」


 にやりとする先輩も、やっぱり私で楽しんでいたみたいだ。



 だけど、なるほどね。結婚してしまったものは仕方ないとして、それを逆手に取って楽しむと言う手もあるのか。



 ……いやいや、いかんいかん。シュンの目的は私の名字であって、嬉々として離婚届を持ってくるだろうし。



 あれやこれや質問責めに合い、それでもシュンの個人情報については一切、のらりくらりとかわして口外しなかった。



 まさか相手が高校生だなんて、言えるわけない。



 それにシュンは人生これからで、打算で結婚したという汚点を隠してやらねば。大人として。




 シジミと夕飯の材料を買ってアパートに帰宅すると、玄関の前でシュンが座って待っていた。


 階段を登ってきた私に気づき、膝から顔を起こしてにこりと笑う。


「おかえり」


「た、ただいま」


 おかえり、なんて誰かに言われたのは久しぶりだったから、ただいまがすぐに出てこなかった。


 それにしても、待っている人がいるというのは、なんかくすぐったい。


 シュンはさっと立ち上がってズボンの砂を払い、鍵を開ける私の手から、買い物袋をさりげなく引き継ぎ持ってくれた。

 気の利くいい子だ。


 この制服……このあたりでは偏差値の高い進学校のもの。賢い子なんだろうけど、初対面の人と結婚するリスクとかは考えなかったのかな?


 私が年下好きの、特殊な性癖を持った変態だったらどうするつもりだったんだろう。


「荷物、テーブルに置けばいい?」


「あ、うん。ありがとう。好きなとこに座って待ってて」


 シュンは二人がけの小さいソファではなく、迷わずテーブルの方の椅子に座った。



 またお腹空いてるのか?



 家の前で待たせていたわけで、もしかしたら夕飯を食べていないかもしれない。


 食べ盛りの子にはお腹がはち切れるくらい食べさせるのが大人の務めだし、ちゃちゃっとごはん作って食べさせて、気分よく離婚届を書いてもらおう。


「シジミ好き?」


「好き嫌いは特に。……俺の分も作ってくれるの?」


「ついでだからね。二日酔いにはシジミ! そして腹ペコシュンくんには肉も食わしてやろう!」


「えっ、やった!」


 シジミと言ったときより、明らかにテンションが上がっている。正直な。


 しかし野菜もたっぷり取らないとね。


 簡単に野菜炒めにするか。


 キャベツをざくざく切っていると、影が落ちた。シュンが私の肩越しに、手元を覗き込んでいる。


「なにか、手伝う?」



 て、手伝う!?



 元カレが料理を手伝うなんて考えのまったくないやつだったから、余計に感動した。


 食べ盛りの学生が、料理を手伝ってくれるなんて。しかもイケメン。モテるだろう、君。


「料理好きなの?」


「ううん。好きってわけじゃない。必要に迫られて、やってたから」


 私が手渡したにんじんの皮をピーラーで剥きながら、シュンは淡々とそう呟いた。


 触れられたくないことなんだなと思い、私からそれ以上聞くことはなかった。






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