ハニー27
ごめんなさい、20時にぎり間に合わなかったです( ;´Д`)
ノリノリで前の車を追ってくれたタクシードライバーさんのおかげで、つかず離れずの距離を保ちつつ目的地であろう場所へと到着した。
シュンを乗せた車は、屋敷と呼べる佇まいの豪邸を囲む門を悠然とくぐっていく。しかしいかにも日本家屋なせいか、自動式の門をではないため、お手伝いさんらしき人がわざわざ開閉を行なっていた。
走れば間に合いそうだけど、相手が犯罪者だということを差し引いても、不法侵入はまずい気もする。
代金を支払い、私はその閉まり行く門の脇に降り立ち全体を仰ぐ。
これは、気軽に突撃かませそうな雰囲気ではないな……。
シュンが拉致されているのはこの場所で間違いないのに、厳かなこの門からすでに、手出し無用とばかりに私を威圧してくるのはなんなのか。
正攻法で攻めても、どうせしらを切られるだろうし……。
うちのシュン、大丈夫かな……。
「うーん…………よし。ここはひとつ、国家の威信にかけて警察に出動を願おう。いたいけな高校生が拉致されたと通報すれば、すぐにかけつけてくれるはず!」
そそくさと門から離れて裏に回り、鞄からスマホを取り出して、一、一……と入力したところで、お手伝いさんらしきおばあさんが裏木戸からひょこりと姿を見せた。
白いエプロンをつけた、腰のしゃきりとしたおばあさんだ。さすがお金持ちのお宅、お手伝いさんも上品そうである――が、まずい。あれは、不審者を見る目だ。
なにか策を講じねば!
「せっ」
「せ?」
「洗剤はっ、洗剤はなにをお使いになっておられるのでしょうか?」
私はセールスか! なにやってるんだよ……。
「クリーニングですが、なにか?」
はい、詰んだー……。
「ですよねー、あはは」
変な人だわ、という警戒心をあらわにしたおばあさんは、一応軽く頭を下げてから引っ込んでいってしまった。
長く続く塀のおかげで暗い小道に一人残された私は、いよいよ国家権力に助力願おうとしたそのときだった。ふいに私の上へと影が差した。
そして上を仰ぐと同時に、塀の上から、人が降ってきた。
「どいてっ……!」
えぇ!? ちょ、無理!!
反射神経が鈍ってきたこのごろの私に、それは無理な要求だった。
塀の屋根から飛んだなに者か――声からして十中八九あの子だけど――が、下で右往左往する私に直撃した。どしゃ、と、ふたり折り重なって地面に倒れこむ。
「うえぇ……」
衝撃がすさまじく、内臓が飛び出しそうだ。
私を潰すのはやはりシュンで、私同様衝突による痛みで顔をしかめながら、手をつきその身体を起こした。
「いってー…………って、ハ、ハニー……? なんで、ここに?」
ぐったりとする私の上に乗ったまま、シュンはふにふにと確かめるように頬をつまんでくる。
まずは全身打撲で白目をむいて半分死んでいる私を救助しなさい!
「あ、そうだ。逃げないと」
そう呟いたシュンがやっと上からどいてくれ、ほっとしたのもつかの間、ひょいっと身体が持ち上がった。いわゆる……お姫様抱っこというやつだ。
「えっ、えっ!?」
「ちょっと我慢しててね」
意外と力あるなと感心していると、シュンは背後を気にしながらフットワーク軽く走り出した。
後ろからは、特に誰も追ってきてはいないようだった。
ある程度距離をいった公園で、さすがにもう無理とばかりにひたいに汗かくシュンは私をベンチへと下ろした。
「はぁー……ごめんね、ハニー。ちょっと……疲れた」
「ううん。こっちこそごめん、重かったでしょう」
「重いってほどではなかったけど? それに重かったとしてもそれはぎっしりと夢と希望がつまってるからで、むしろ、ありがとう?」
だから谷間を覗くな! 首元だるだるになる!
「それで? ハニーはなんで、あんな偶然にしてはちょっとありえない場所にいたのかなー?」
隣にかけたシュンの、笑ってない目がちょっと怖い。
詮索されたくないのはわかっているけど、けど……、
「目の前でシュンが拉致されたから、助けないとと思って……。ほ、ほら。なにかあったら駆けつけるって言ったから。……でも、ごめん。結局なにもできなくて」
蛇捕獲棒じゃなくて、持っているのは牛肉だけど……。
スーパーの袋をぶら下げしょぼんと肩を落として俯いていると、ぎゅむっときつく抱きつかれた。
「なにもできてなくなんかない! 来てくれただけで嬉しいし!」
それは、よかった……でいいのか、わからない。シュンがいいならいいけど。
「それよりも、なにか変なことに巻き込まれてるんじゃないの? この間ファミレスにいた女の子が関係しているんでしょう? 言いたくないなら言わなくていいけど……大丈夫なんだよね?」
怪我とか、もっとひどい目に遭ったらと思うと、心配で夜も眠れそうにない。
「……うん。大丈夫、ハニーがいてくれるだけで。だけど、帰ったらちゃんと話す。……ただ」
「ただ?」
「俺のこと好きだよね? 話を聞いて、心変わりしたりしないよね?」
懇願するようにすがりつかれて、きゅんとした私はシュンの唇を軽く奪って言った。
「ない! 絶対に」
目を見開いてから、つっと視線を斜め下に向けたシュン。その目尻が赤くなっていることは、薄暗い公園をぼんやりと照らす時計の明かりで、しっかりと見えていた。
ここから不定期更新になります(>_<)




