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ハニー22



 ファミレスはそこそこ人で賑わっていて、私とシュンは奥まった場所にある禁煙席の四人がけに座った。――のは、いいんだけど……。



「…………シュンくんや」



「んー? なに?」


 私の髪を一房指に絡めて弄ぶシュンは、そのおかしさにまるで気づいていないご様子。代わりに周囲で食事、もしくは歓談中だったみなさまが、好奇心を含んだチラ見という形で非難してくる。


「……あのさ、こういう席の場合普通、向かい側に座るものじゃないのかな?」


 私の知らない間に、世の恋人たちは四人がけのテーブルの片側に詰めて座るルールでもできたのなら別だけど。


「狭い?」


「いや、ね? 狭くはないんだよ? そういう問題じゃないのだよ」


「前も隣に座ったよ?」


 それは達巳が向かいに座った状態だったからだよねえ!?


「それに隣同士の方が、あーんしやすいし」



 身を削った弊害が……。



 がっくりと肩を落とす私とは正反対に、嬉々としてメニュー表をめくるシュンの、くったくのなさに毒気を抜かれて、まあいいか、で済ませることにした。


 ドリンクバーのないファミレスで、そこまで喉も渇いていないということもあり、二人とも水で済ませることにして、ハンバーグとデザートのパフェだけを注文した。


 はじめから珍獣を見る目つきで注文を取りにやってきた若い店員さんに、使わないかもしれないけど、一応デザートの取り皿をお願いすると、その顔をさらに怪訝そうなものへと変えた。



 高校生とシェアしてもいいじゃないか!



「ハニー、ハンバーグもちょっと交換しない?」


 その店員さんがまだ去っていないのにシュンがハニー呼びをするものだから、注文を繰り返している途中で変な間が生まれてしまった。



 いえ、あの、私が呼ばせてるわけではないのです……。


 それに愛称としては間違ってない。蜜だから、ハニー。そのあたりの説明をさせてくれませんかね?



 しかし無情にも店員さんは愛想笑いでごまかし行ってしまった。

 絶対バックヤードでなにか言われる。


 ハニーだってぇ! と、笑われてる。爆笑されている。


 私の被害妄想かもしれないけどさぁ……。



「ハニー? 目がどっか遠くに行ってるけど」


「うん……大丈夫」


「眠い? 肩貸そうか?」


「全然眠くないから、肩を押しつけてこないの」


 やんわりその肩を押し返すと、シュンは残念そうに背もたれに身体を預けた。足を雑に組んで、むすぅーとした態度で反抗してくる。



 これは……お母さんみたいに、「しっかり座りなさい!」と、叱れと?



 でも、うーん……。私、保護者ではないからなぁ。



 私がひとり考え込んでいると、寂しくなったのかシュンが肩に頭をもたれさせてきた。


 今度は甘えっ子なのか? せめて、家でしてくれないかな。


「なんか俺もう、ハニーと離れると死にそうな気がする」

 


 なんの脅し!?



「今の気分はうさぎさんなの?」


「えー? うさぎって別に寂しくても死なないらしいよ?」



 知ってるよそれくらい!



「あーあ。早く来年にならないかなー。早く同棲したいなー。うさぎ飼いたいなー」


 私は今、ペット飼って〜! とだだをこねる子供を持つ、親の気分だ。


 ペットを飼うなら引っ越さないと……って、甘やかしてどうする!


「わがまま言わないの。ペットはだめ!」


「……わかった」


 俯いてしまったシュンに、ちょっと強く言いすぎたかなと後悔していると、


「まあ、そうだよね。すぐに赤ちゃん生まれるから、部屋が狭くなるしね!」


 想像して、つい赤くなってしまった。



 そ、そんな予定はありません!



 ああもう、疲れるわ……。



 げっそりしていると、待望のハンバーグが運ばれてきた。


 大根おろしにシソの葉が乗ったハンバーグは、ささいなことにいちいち突っ込みを入れていた私を、ピリ辛の白いベールで包んで癒してくれる。


「おいしいね、ハニー」


「そうだね、たまにはいいよね〜」


 自宅で作るハンバーグって、それはそれでおいしいけど、お店のとは違うもんね。


「ハニー、あーん」


 舌鼓を打っていると、シュンがフォークに突き刺したハンバーグを、ぐいぐい口元へと押しつけてきた。



 チーズ熱っ! なんの拷問だ、これ!



 これはもう我慢して食べるしかなく、おそるおそる口を開けて待つと、シュンが今さらはっとした顔をしてふぅふぅし出した。



 やめてぇー! この羞恥プレイを早く終わらせてぇー!



「はい、あーん」


 ぱくっ。


 ううぅ……。おいしいけど、代わりになにか大切なものを失った気がする……。


「ハニー、今度は俺にちょーだい」


 あーんをして待機するシュンは、その姿があまりにもかわいく、そしてよく似合っていて、つい頰を緩ませて頭を撫で撫でしてしまった。


 撫でられたシュンが目を瞬き、開けていた口を結ぶと拗ねた顔で私を睨みつけてきた。


「今、子供扱いした」


「してないしてない。ほら、口を開けないと。おろしたっぷりのハンバーグが待ってるよー?」


 しかしシュンはごまかされてくれず、む、と眉尻を上げる。



「俺、旦那だよ?」



 ……書類の上ではね。



「旦那様として接して」



 そうやって無茶ぶりする時点で子供だからね!?




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