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ハニー20



 家に帰ると、シュンが空の弁当箱を洗って棚にしまっているところだった。


 手伝いができるとてもいい子なことはちゃんとわかっているから、私が帰ってくるタイミングに合わせて行動する抜け目のなさはできれば見せないでほしい。うん。


「弁当、うまかった! 唐揚げが! 敵に取られそうになったけど、必死で死守した!」


 敵って誰だ? 武史くん?


「それならよかった」


 また朝に余裕があるときは作ってあげよう。唐揚げはもっと増やすかな。


 また喜ぶシュンを想像してにまにましながら冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、テーブルについた。その背中にシュンが回り、ほどよい力加減で肩を揉んでくれる。なんて気の利くいい子だ。


「凝ってるね」


「うーん、椅子に座ってパソコンと睨み合ってることが多いからかな?」


「ハニーってなんの仕事をしてるの?」


 そういえば言ってなかったわ。


「オーガニック洗剤の輸入販売会社の事務です。だけどお茶汲みしたりクレーム受けたりもするけどね」


「ふうん、そうなんだ。そういえば、ハニーの家の洗剤、スーパーには売ってないもんね」


「肌に優しいものじゃないと異様に荒れるんだよね、昔から」


 手をすり合せると、シュンが後ろからその手を包み込んだ。細くて長い指、だけど、私よりも大きな手のひらだ。皮膚はやや固いが、肌自体は張りがあって瑞々しい。


「ハニー肌弱いの? だからナチュラルメイク?」


「まあ……うん」


 めんどうだからとは言いづらくなってしまった。


「ハニーはすっぴんでも綺麗だよ」


 だからもうとっくの昔に落ちてる女を口説くんじゃない!


 高校生にどきどきさせられるとか、結構複雑だから。


「あ、ありがとう」


「だけどやっぱり、肩凝りの原因は仕事のせいじゃなくて、これ、だと思う」


 前へ回ってきたシュンの不埒な手が、私の胸を重力に逆らい軽く持ち上げた。


 本当におっぱい好きだな! この子は!


「こら! やめなさい!」


 叱るとすぐにぱっと手を離して、優等生の笑顔でごまかす。


 じぃっと咎めるよう見据えると、しゅんと表情を暗くし、俯いてしまった。


 その顔にめっぽう弱く、反射的に伸びた手でよしよしと頭を撫でてやるとすぐに浮上した。



 簡単に許してしまう私は、甘すぎるんだろうか……。



 まあ、いいか。



「シュンは、学校の方はどうだった?」


「うん、いつも通りだった。――ねぇ、ハニー。お腹すいたから、ご飯作ろう?」



 あ、流された。



 聞かれたくなかったのだろうか?



 結局深追いすることなく、腕を引かれてキッチンに立つと、一緒に調理をはじめた。


「今日はなに?」


「お昼が唐揚げだったから、夜は魚。だけど食べ盛りのシュンには焼き魚とか煮つけとかはあんまりかなぁと思って、鯵の蒲焼丼です!」


 丼ものは若い男の子が喜ぶかなぁと。


 副菜は野菜だらけだけどね。


「やった! ハニーのご飯って、ちゃらちゃらしてないから好き」


「ちゃらちゃら?」


「一口サイズのパンにちまちま乗せたのとか、トマトとチーズの赤白サラダとか。見た目にかわいいけど、全然お腹ふくれないし」


 ピンチョスとカプレーゼでしょうが。君、知ってて言わなかったでしょう?


 だけどまあ、私も、それじゃあお腹は膨れないかなと思った。


 私もわりとご飯はがっつり派だから、なんでも皿にどーんと盛りつける。彩りでミントを添えたりもしない。それだったらサラダを大皿で出す。


「……そういう人とばっかり付き合ってたんだね」


 どうせ私は丼ものの女ですよ、と開き直りながらも、やや声のトーンが下がったの横で聞いていたシュンが、カイワレを切ろうとしていた包丁を宙で停止させてこちらを向いた。


「それって、嫉妬?」


「怖いから包丁はこっちに向けない!」


 刃先に電灯の光をキラリと反射させ、シュンが詰め寄ってくる。


「ねえ、嫉妬?」


「嫉妬! 嫉妬だから、包丁は置く!」


 シュンが、ぱぁぁ……と晴れやかな笑みを浮かべたと思ったら、すぐに取り澄ました顔に戻して、カイワレをまな板から皿へと移した。

 照れ隠しが下手だ。



 でも……、ああっ、もう! うちの子、かわいすぎて困る!



 照れるシュンと悶える私は言葉数が減り、そのおかげか手際よく夕飯を作っていただきますをした。


 そしておいしそうにご飯を頰張るシュンを目を細めて眺め、ふと気づく。


「そういえば寮で夕飯出るでしょう? それはどうしてるの?」


 あっという間にごちそうさまをするシュンが、空っぽになった丼を見下ろし、私へと視線を戻す。


「帰ってから食べてる。もったいないから」


「え!? じゃあもっと少ないめにした方がよかった?」


 なにも考えずにご飯大盛りにしちゃってたよ!


「ううん。バイト先でもまかない食べてから寮でも食べるし。俺、そんなに少食に見える? これでも人の倍は食べれるよ」


 そのわりに、全然太っていない。むしろほどよくしなやかな筋肉がついた、いい身体だ。前にボクサーパンツの中身以外は見てしまったときからそう思っていたけど、それに加えて最近は肌つやもよくなっているように思う。


 なんとなく自分の肌や腹部を触って確かめるも、私は以前とほぼ変わりない。いや、シュンに合わせて量が増えつつあるから、お腹周りはちょっと怪しい。


「食べた分消費してるの? それとも太らない体質?」


「どっちも、かな? ハニーはいっぱい食べても、胸に脂肪がいくんだよね?」


「……普通にお腹にいくわ。それに…………胸が垂れる恐怖が間近に迫っている私に、なんて残酷なことを……」


 箸をそっと置き、両手で顔を覆った。


 お腹周りはいくつになっても腹筋を死ぬほどすればなんとかなる。はず。


 だが胸は……、下降の一途を辿るのみ。


 努力しても、そのときが刻一刻と迫ってくるのだ。



 逃れられない、こればっかりは!



「垂れる前に触らせて」



 欲望に忠実すぎる!



「でもぶっちゃけ、ハニーが寝てるときに触ってるけどね」



 ぶっちゃけるんじゃない! そこは胸に秘めておけ!



「あ、そうだ。今度はハニーがご飯食べに来てよ。俺のバイト先に。おまけするから」



 ……うん? なんか……妙に唐突に、話しが変わったな……。



「いいけど……、なに屋さん? イタリアンとか?」



「牛丼屋」



「えっ!? 牛丼屋!?」



 ちょっと想像もしてなかったわ……。



 ふうん、牛丼ね、牛丼…………牛?



「……シュンくん? なんで私の胸の話から急に、牛丼に話題が飛んだのかな?」


「それはハニーの……いえ、ナンデモアリマセン」


 私は目を三角にして、片言な謝罪をするシュンを睨んだ。



 乳牛を連想させるほど、爆乳じゃないからな!!




ハニーの仕事はわりと適当に決めました。そのあたりはフィクションということで、さらっと流していただけたらいいかな、と。


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