ハニー19
短めです。
しかしなぁ、シュンが大学かぁ……。
大学院生とか助教の先生とか、かわいくて綺麗な若い女の子がいっぱいいるのに、私と結婚したままでいたいと思うのかなぁ……。
「なに惚けてるんだ?」
会社横にある公園でほのぼのと昼食を取っていたところに、達巳がコンビニの弁当を持って現れた。
キラの件は解決しかけているけど、こいつがいることを忘れていた。
「別に。あんたには関係ありませんが」
唐揚げに箸を伸ばすと、横から割り箸がそれを奪っていった。
「あっ、ちょっと!」
「うん、うまい。やっぱり手作りだな」
ふん。その唐揚げはシュンに作ってあげたお弁当の残りだから。
たまに弁当を作ってあげることにしたのは、シュンの昼食が購買のパンだけという話を聞いたからだった。
食べ盛りなんだから米を食べろ米を、とばかりに、調子に乗って弁当のおかずを作りすぎた私も、本日はお弁当。
料理は趣味だから、時間がかかったり手間だったりもするけど、そこまで苦ではない。
「毎日つきまとって来られても、鬱陶しいだけなんだけど。仕事、忙しいんでしょう。さっきもエレベーターで外人さんと会ったし。のんきに外でお弁当食べてていいの?」
「おっ? 俺の心配してくれてる?」
「誰が心配してる、誰が。あんたの仕事相手の心配をしているんです」
「昼休みだから仕事は問題ない。それに蜜があの高校生に飽きられたとき、つけ込まないといけないからな。毎日様子を窺っておかないと」
「つけ込むってなんだ。つけ込まれないからな」
つんと言い返すと、達巳はコンビニ弁当を食べながら、なにげないそぶりで、大きな飼い犬と遊んでいるまだ入園前くらいの小さな女の子へと目を向けた。
「付き合ってすぐに結婚してたら、俺たちにもあれくらいの子供がいたのかもな」
優しそうなお父さんとお母さんに見守られ、犬にボールを投げて遊ぶ女の子は、見ていて微笑ましくなる。
だけどそこに、私と達巳は重ならない。
「あのね、子供がいて浮気してたら最悪だから。慰謝料と養育費ぶんどって、さっさと別れてるから」
「子供がいたら、そんなことしてない。あのときは本当に……どうかしてたんだ」
キラに誘惑されてころっと落ちたんでしょうが。
私が知らなかっただけで、他の人とも浮気してなかったとも言えないし。
「私はじめから言ってたよね? 浮気する男は生理的に無理って」
気持ちの問題もあるけど、他の女の人を受け入れてきたその手や身体に、触れたくないし触れられたくない。……気持ちが悪い。
昔からキラは私を潔癖と言うけど、その通りだと思う。
自分の肌に触れるものに敏感で、誰かと付き合うことになっても、しばらくは身体の関係は受けつけない。
シュンを拒むのには、そんな理由も含まれている。
まあ、ほとんどが高校生に手を出すことへの罪悪感だけどね。
「信頼を取り戻せるまで、勝手に待つから」
達巳はそう言い残して、さっさと弁当を食べ終えると行ってしまった。
「待つって言われても……」
冷たいご飯をつついて、ため息のような独り言をこぼした。




