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シュン4



 外出着の一揃えくらい買うお金はある。なんのためのバイトだと思ってるんだか。


 ハニーが親切心で余計な気を回したことはわかっている。


 だだ、買ってあげると言われていたら、それこそ完全に落ち込んでむくれていた。


 それでもまだまだ子供扱いなのが気に入らない。


 今はまだ出会ったばかりだからとか、言い訳ができるけど、きっとハニーはいつまでもたっても俺を子供扱いするんだろう。



 早く卒業したいな……。



 それに学校にはあの、大嘘つき教師がいるし。


 生徒に手を出していたこと、匿名でバラしてやろうかな。



 ……いや、やっぱり脅しにしよう。次なにかあったときに、切り札として使わないと。



 それにしても、ハニーとの仲を切り裂こうとするあの人の言葉を鵜呑みにしてしまった昨日の自分はどうかしてた。


 あわよくば……、と心のどこかで思っていた自分もバカだと殴ってやりたい。


 刹那的な快楽よりも、永続的な絆がほしいくせに。



 家族が。愛してくれる人が……。



「ねぇねぇ、シュンシュン! これはどう?」


 

 ハニーが手招きしながら、マネキンの着ているトップスとパンツのセットを指差した。


 そのマネキンの隣にはそれに合わせたメンズ服を着た男のマネキンがいる。



 いいけどさ、マネキンの真似で済ませちゃうの?



「やだ」


 俺が拒否すると、ハニーは悔しげに眉を寄せて口をつぐんだ。俺に憤っているわけではなく、なにか思考しているらしい。


「……よし。ならばこうしよう。シュンが私に着てほしいものを選び、私がシュンに着てほしいものを選ぶ。お互いにプレゼントし合うのはどうだ!」



 お揃いはどこに行った?



 そう思わなくもないけど、それはそれで魅力的な提案だから乗ることにした。


 いいこと思いついたとばかりににまにまするハニーのかわいいことかわいいこと。


 もはやなにをしててもかわいく見える。やばいな。たまに言動が古臭かったり変だったりするけど、全然気にならないし逆に新鮮。

 

 だって俺のハニーだもん。俺のお嫁さん。


 ハニーに着てほしいのは、ウェデングドレス一択なんだけど、結婚式は挙げるのはいつになるんだろうね?


「ハニーはいくつになっても純白でいいからね? 黄ばんだのは許さないから」

 

「……お、おう」


 なんの話かわかっていないハニーは、妙な返しをしてきた。



 うん。言質は取った。純白のウェデングドレスを期待してるからね。



 それからそれぞれ別れて、好みの商品を探すことになった。俺はあえて、肩の出たオフショルダーのトップスを選ぶ。


 よく、彼女の肌を他の男に見られたくないから露出を控えてほしいという話を聞くけど、俺は別にそんな狭量なこと思わない。


 自分の彼女のかわいい姿を有象無象たちに見せびらかしながら歩けることが、もう嬉しい。



 優越感……とはちょっと違うかな?



 これまで付き合った人たちは、こうして昼間に出かけることを嫌がったから、デートはいつも室内か夜。


 俺を遊び相手として本命が別にいたりした人もいたんだろうけど、なによりも俺と並んで、自分が老けて見られることが嫌だったということらしい。



 ……うわぁ、こうして冷静に考えると俺、ろくな女と付き合ってないじゃん。


 高校生とじゃ将来を考えられないのは仕方ないけどさー、ひどいよね?



 そんなやつらのことなんてさっさと忘れて、ハニーの愛されコーデ選びに没頭することにした。


 最終的に手にしていたのは爽やかなブルーの、胸元が際どいオフショルのトップスに、白のショートパンツ。もちろん生足希望だ。



 うん。この二枚に、男の欲望がぎっしりと詰まってる。完璧な布陣だ。



「ハニー! これ試着してみて?」


 嬉々としてそれらを押しつけると、ハニーの笑顔が引きつった。


「……シュンくんや。君……私をいくつだと思っているのかな?」


「大丈夫。まだ、いける」


「もう、いけません。世のため人のために、肩と足は出しません」


 俺のために出してくれればいいのに。


 だけどデコルテは出していいんだ。ふぅん。


 ハニーに懇願のような説得をされて、仕方なく、本当に渋々、選んだ服たちを元の位置に戻してきた。


 結局プレゼントし合う案はそのままに、二人で話し合いながら服を探して回ることとなった。


 もうすぐ夏ということで、マリンテイストなペアルックを目指し、ハニーには袖に白いラインの入ったネイビーのワンピース、俺には同色で袖に同じラインの入ったVネックシャツに、白のクロップドパンツ。それをそれぞれ贈り合った。


 普段着ない色だからな……、と思ってはじめは抵抗があったけど、ハニーが、



「うちのシュンはなにを着ても似合う!」



 と、目をきらきらさせて太鼓判を押してくれた。


 試着したときも、店員さんとハニーがおんなじ顔で見惚れていたから、まあ、似合わなくはないんだろう。


 ただひとつ問題なのは、白は汚れるという点だけだ。

 

「そうだ、夏に海にでも行こうか? 泳ぎはしないけど」


「海に行くなら泳がないと。ハニーの水着姿みたいなー?」


「水着姿は十代で終了となっております」


「えー。ビキニじゃなくてもいいから。水泳部からこっそりスクール水着借りてくるし」


「色々犯罪すぎる! 人の着た水着なんて着れないよ!? 相手も嫌がるからね!?」


 冗談なのに、ハニーは愕然とした表情で突っ込んでくるところがおもしろい。


 早く夏休みが来ないかな。


 でもその前に、学校が憂鬱だ。



 そんなことを考えている自分は夏休みを待ち焦がれる小学生みたいで、ハニーの死角でこっそりとへこんだ。





お店に特にモデルはないです。そしてオフショルダーが流行っていたときに思いついたやり取りでございます(;´д`)


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