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ハニー16



 シュンは意外なことに、服にこだわりがないという。


 あるものを着る。以上。


 なので寮ではジャージなのだとか。



 ブランドの服は買ってあげられないけど、安いので済ませるのも、ねぇ?



 あとは……そうそう。私が、古着を好きじゃない。


 変なところで潔癖で、知り合いが所持したものくらいならまだいいけど、誰が着てたのかわからないものとなると抵抗感があるのだ。


 休日のショッピングモールは人が多いから、私とシュンの組み合わせもうまく人ごみに紛れれていると思う。思いたい。


「ハニー、手繋がないの?」


 シュンが右手をひらひらとさせる。


「その右手は、気に入った服を手に取るときのためにとっておきなさい?」


「ん、わかった」

 

 シュンが私の右側へと回ってくると、左手で私の手を握った。



 そういうことじゃないんだけどね?



 誰が左手ならいいと言った。


 しかし振りほどいてシュンを傷つける勇気もない。


 おかしい。いつの間にやら、シュン中心の考え方になっている。



 だって! うちの子、かわいい!


 中身狼だけど、そこもいい!



「ハニーが今着てる服の店って確か、メンズもあったよね? 似た系統にしよっと」



 待ちな、シュンよ。姉弟感が増すだけだ。気づけ。



 だけど逆らえない私は、引きずられるようにして店内へと踏み込んだ。


 私が着ているということは、それなりに大人カジュアルなお店だ。


 いや、若い人もいるけど、それでも二十代向けだと思う。



 シュンくん。君、ちょっと背伸びしすぎじゃないかな?



 どうでもいい情報だけど、私はゆったりとした麻のくしゅくしゅしたワンピースがかわいくて好きだ。しかし胸がじゃまでなかなか似合うものがない。たとえば胸の下か腰で切り返しか絞りがないワンピースを着ると、かなり太って見える。


 痩せている、とは言えないけどさ。


 だけど標準体重くらいだ。日本人女性がみんな細すぎるんだよ、このやろう。


「なんでやさぐれてるの?」


「……はは、もっと細かったらなと思ってね」


「えー、絶対やだ。痩せたら胸萎むじゃん」


「痩せても萎まんのだよ! 私のこれは遺伝だから!」


 過去に今より数キロ痩せていた時期があったけど、信じられないことにバストサイズだけはまったく変わらなかった。


 数キロくらいではそんなものかもしれないけど、私は遺伝のせいだと見ている。


 我が親族はみな、私よりも立派なお胸をお持ちだ。



 うぅっ……。程よいくらいがよかったのに。痴漢に遭っても、胸ばっか触られるんだから……!



 普通スカートの上からとか中とかじゃん! わざわざ隣に座ってきて偶然を装い胸を触ってくる変態とかざらにいる。


 何度その指をへし折ってやろうと思ったことか!


 

「えー、ハニーはハニーのままでいいよ。……ううん、ハニーのままがいい。――今のハニーが、世界で一番好きだよ」


 シュンは私の頭を片手でくいっと引き寄せて、耳の上あたりに軽く口づけた。



 つっ、つ、ついに、本領を発揮!?


 ほぼ落ちてるからもう口説かなくていいわ!



「もちろんハニーがいくつになっても、永遠に愛し続けるからね」



 シュンが愛しげに私を見つめてにこりとした。店内がざわつく。刺々しい視線が自ずと私に突き刺さる。


 でもまあ、基本的に周りの目を気にしない私とシュンは、そのまま店内を物色する。


 私がそんなささいなことを気にしているような人間なら、鞄にキュートな人形はぶら下げないし、高校生を同伴させない。


 酔って結婚することもない。


「ひとまず、部屋着と外出着をそろえようか」


「下着もね」


 そうね。下着もね。それは自分で選んで勝手に買ってちょうだい。


 私は棚に陳列されたTシャツを一枚取って広げた。


「部屋着にTシャツでも買う?」


「部屋着はここでは買わない」


 そう言ってシュンはさりげなさを装ってふいっと顔を背けた。


 ああ、そうか。お値段の問題か。


 買ってあげるって言うと、嫌がりそうだからなぁ。


「じゃあ、部屋着は後でね」


 ファストファッションのお店を回りますか。


 シュンはそれで納得して、外出着は自腹を切るようだった。



 セール中とか、リーズナブルなお店なら私だって見逃すけど……。



「シュン、やっぱり別の店に行こう?」


「……なんで」


 あからさまにむすっとしたシュンに、私はある提案をしてみた。


「せっかくだから私も新しい服を買おうと思って。目をつけてたのがあったんだよね。シュンもそこで揃えない?」


「……」


 この沈黙は、私が気を遣ったことに気づいていての不機嫌さだ。


「お、お揃いにしようか?」


「…………する」


 渋々といった具合に、シュンがなんとか頷いた。


 よし!


 我が身を削って、シュンのお財布事情を守った!





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