ハニー15
「れ、冷静になりなさい、ね? この関係を学校になんて説明するかで、私は頭が痛いんだから」
冷静でないのは私だけど、額に手をあて呆れるふりをしてちらっとシュンを窺うと、至極不思議そうにかつ、愛らしーく小首を傾げていた。
「言わなくていいのに。先生脅せばいいんじゃない?」
あの、さらっと怖いこと言わないでくれません?
「……。ちなみに、シュンよ。学校の成績は?」
「うーん、そこそこ?」
たぶん謙遜した。
謙遜して、そこそこか。そうだと思ったが、やはりできる子なのか。
ひとまずパジャマのボタンをしっかりと上までとめて着直すと、シュンが不満げにこちらを睨んでいた。
アラサーのナイトブラとか、誰得なのさ。恥でしかないわ。
布団に入り、仕方ないので隣をとんとん叩くと、シュンは「やった」と小さくガッツポーズをして、いそいそと潜り込んでくる。
くそぅ〜、かわいいじゃないか。
ただ、ここが定位置だとばかりに胸元に頭が来るように身体を縮こまらせるのはいただけないが。
「あの、さ。聞きづらいんだけど……、先生とかに大学勧められてるでしょう?」
笑顔だったシュンが目を見張り、暗澹たる嘆息をついてから、唐突に目をごしっとこすり出した。
「ハニィー……、俺、もう眠くなってきちゃったぁー」
「ごまかすの下手か!」
わざとらしいにもほどがあるわ!
……だけど、まあ。言いたくないという意思だけははっきりと伝わった。
まだそこには触れさせてはくれないらしい。
それを寂しいと思いつつ、布団を肩まで引き上げた。
「じゃあ、もう寝よっか」
私が追求してこなかったことに、シュンは安堵した様子で微笑むと、ちゅっと軽く唇を奪っていった。
「おやすみ、ハニー」
「……お、おやすみ」
唇に柔らかな感触を残し、まぶたを下ろした余裕のシュンに、しどろもどろな自分が情けない。
年下の高校生に弄ばれてる……。
寮に帰らなくてもいいのか? と思いながらも、ふわりとあくびをして、私たちは仲良く眠りについた。
*
朝起きるとシュンはまだ私の隣にいた。
寝てるときに私が抱き枕扱いでもしていたのか、寝汗をかいている。
シュンの着替えを一揃い置いておくべきか?
私のじゃ小さいだろうし、着せ替え人形とか昔好きだったし。
シュンの私服はカジュアルな感じで、普通の大学生に見えるけど、制服を着るとやっぱり高校生だなと見方が変わる。
なに着ても似合いそうだから、今日にでも適当に選んで買って来るか。
すっかりうちの子だな……。
手慰みに、さらさらの髪に指を差し込んで梳く。
「……ぅ、うん……ハニー……」
寝返りを打ちながら、シュンの口から私の名前がこぼれ落ちた。
どんな夢を!?
「……おいし……」
ご飯か。ご飯を食べてるのか。空腹か。
そうだ。また肉を食わせてやろう。生姜焼きか? はたまたステーキにでもするか?
うちの子は肉食だからなー。
「……ハニーが」
え、なに? おいしいのあとに、ハニーが……って言ったよね?
ちょっと君、夢の中でなに食べてるの?
肉食って、そっちなの?
寝てる子を起こせず、シュンの上を右手がさまよっていると、ふいにその手を握られた。
「……さては、シュン。起きてるな?」
目をぱっちりと開けたシュンが、悪びれることなくにぃっと口角を上げる。
「ハニーが穴が開くほど俺の寝顔を見てるから、なにかしてくれないかなーって、期待して待ってた」
期待には添えなさそうなのはもちろんとして、なにかってのは具体的になんだろうか。
論外だろう着せ替え人形にしようとしていた件については、黙っておこう。
「あーあ。早くハニーが俺のことを溺愛してくれないかな」
溺愛してますが?
うちの子かわいい〜って。
「寝顔、いけると思ったのにな。キスぐらいはしてくると予想してたのに、なんでしないの?」
はいはい。悔しがらない悔しがらない。
「今日、シュンの服買いに行こっか? うちに置いておく用の」
「行く」
拗ねていたのが嘘のような、満面の笑みでの即答だった。




