第7話 スキルを使おう
この世界というものには、モンスターがいるようだ。ファンタジー世界よろしくのモンスター。あの、ゲームに出てきそうなモンスター。うん、面倒くさいことこの上ない。
不死者に、犬の化け物、熊の化け物、コウモリの化け物。
なにやら、動物の延長線上の存在のようでもあるが。
場所は、森の中。木々が生い茂る獣道だ。
その熊の化け物が、目の前で両足で立ち、涎を垂らしながらこちらを見下ろしていた。
多分、死んだふりしても、そのままガブリといく流れだろうな。
熊がこちらに覆い被さるようにして、右足を振り落としてくる。
俺は、後ろへと飛んだ。俺の目の前に熊の右足が地面に深々と突き刺さる。やべーやべー、食らったら死ぬぞ。いや、もう死んでいるのだったか。この状態で死んだらどうなるのだろうな。
「俺って死んでいるけど、また死んだらどうなる? 」
「死にはしないのよね。でも、死ぬほどのダメージを受けたら、一定時間後に再構成されます」
「不死身ってことか? 」
「うーん。再構成まで年単位だから、そういうことを考慮した上で不死身と言えるかどうかだね」
「再構成? 」
「一応基本的には再生かな。しないこともあるけど」
「死んだら駄目って事か」
「うん、死なないように」
スマホをハンズフリーにしたまま胸ポケットに入れ、カトリーヌ・大塚と話しながら戦っていた。
とりあえず、熊相手にモーニングスターで殴るなんて無謀はやめておこう。
右手の指先に、意識を集中する。指先の少し先の温度がドンドン高くなり、そして燃え上がるイメージ。
指先に、ピンポン玉程度の大きさの小さく真っ赤な火の玉が現れる。よーし、次は、その火の玉の温度がさらに上がっていき、大きくなっていくのをイメージする。
熊の攻撃を避け、木々の影に隠れたりしつつ、指先の炎のイメージを保ち続ける。炎が徐々に大きくなり、ソフトボール程度の大きさになる。まずは、これで一発。
右手を振り払うようにして振るうと、火の玉が熊の頭を捕らえた。火の玉は、当たった瞬間に弾けて大きくなり、熊の上半身を炎で包んだ。
熊の断末魔が辺りに響き渡る。
やはり、熱くて苦しいのか、熊が地面を転がりながら炎を消そうとしている。
「ほうほう、なかなか上手いね」
「まーだまだ行くぞ? 」
今度は手のひら全体の熱が上がっていくイメージ、先ほどよりも、イメージを素速くおこなっていくと、今度は野球ボール程度の大きさの火の玉が手のひらに現れる。
熊は、上半身を真っ黒に焦がしながらも、逃げようとはせずにこちらにかみついてくる。
今度は、投げるイメージではなく、水を蒔くように、炎を蒔くイメージ。炎が、大きくなりながら、燃える水のように熊にぶつかっていく。
再び、熊は燃え上がる。今度は全身に飛び火して、燃え上がっていく。
さらに、炎の温度が上がっていき、炎が大きくなるイメージ。
熊を包む炎がさらに大きくなっていき、熊の全身を包み込む。巨大な火柱が、ゴウゴウと燃え上がっていき、さらに熊の断末魔が辺りに響き渡る。
そして、熊の断末魔は聞こえなくなり、丸焦げになった熊が倒れ込んでいった。
「ウェルダンだね。恋太郎ゴハン、略して恋飯。食べる? 」
「くわねーよ」
腹をこわしたらどうする。いや、そもそも不味そうなんだが。
「で、どうする? 他のアプリも試す? 」
「いや、これでいいわ」
そういいながら、スマホを操作していき、炎を自在に操るスキルのアプリ、『レッド・ワークス』を購入した。お値段は基本設定で、3000円なり。安いのだか、高いのだか、わからんな。ただ、追加課金すればさらに能力が上がるらしい。追加課金はそのうちでいいか。
「えー、いいの? あ、もう買っちゃっているし。えー。大洪水を引き起こして世界の全てを押し流して滅ぼすスキルとかお試し版使ってみようよ」
「どれだけ世界を滅ぼしたいんだよ! 救済しに来たんじゃないのか!? 」
お試し版でも、どんなことになるんだか判らないスキルを使わせようとするな。
「お試し版なら、ちょろっと滅ぶだけだから、気にしなくてもいいじゃん」
「いいじゃんじゃねーよ。気にするっつーの! 」
「ちょっとだけ。ちょっとだけ。さきっちょだけだから! 」
「何の話だよ。つかわねーぞ」
「えー。ちょっとぐらいいいじゃんケチ」
「ちょっと世界を滅ぼすな」
ったく、どれだけ、ポンコツなんだよこの神様って奴は。全知全能系でなくギリシャ系の自由気ままなアレ系の神か?
「とりあえず、火にするからな」
「いいけど。なに? 情熱の炎ってタイプかね? それほど火を使う正統派主人公になりたいか!? 」
「やかましいわ」
昔から、火の扱いは得意なんだよ。だから、態々火を使うスキルにしたっていうのに。
とりあえず、香川を目指すか。




