第67話 世界を救いに行こう
人には役割がある。
死んでさえも役割があるとは予想外ではあったが。
いや、過去の偉人の偉業も役割があるのだから、死んでさえも役割があることは不思議でも何でも無いのだろう。
人類のためになること。
動物のためになること。
植物のためになること。
地球のためになること。
歴史のためになること。
発展のためになること。
未来のためになること。
何のためになるかはともかく、役割は存在する。
さて、今の俺の役割は、布団から起き上がって布団をたたむぐらいなものだ。
ゆっくりと起き上がり、辺りを見渡せば、物の少ない十二畳間。
場所は、社屋というか、カトリーヌ・大塚の家で、ここは俺にあてがわれた部屋だ。
物が無いのは、この住みだしたのが昨夜からだから。
あの家は無駄に広くて、雇われた救済士は食事付きの住み込みだった。
まぁ、ヴィクトワールは、家賃食費が浮くということで大喜びだったけど。
長い廊下を通っていくと、居間ではカトリーヌ・大塚がホットプレートをちゃぶ台においているところだった。
「流石に遅すぎるよ」
「俺も寝過ぎたとは思っているが、疲れたんだよ」
時刻は十時を回ったところだった。戻ってすぐに寝て、今までとなると結構な時間寝ていた。
「そりゃ、初仕事だったもんね。余計なことにまでクビ突っ込んだと思うけど、それでいいから」
「いいのか?」
「私自身は何にもできないからね、自由に仕事してくれればいいよ。あーだこーだ言っても、意味ないだろうし」
「いや、必要なことは言えよ? アプリとかアプリとかアプリとか」
「朝ご飯はあるけど、お昼は歓迎会をかねて豪勢にいく予定だけど、どうする?」
「待つ」
と短く言って、座布団の上に座った。
ちゃぶ台においてある新聞を手に取ると、どこの神様同士が結婚しただの、信仰心の不正な操作があっただの、どこぞの動物園でレッサーパンダの赤ちゃんが生まれただの。
正直言ってどうでもいい情報の羅列だったので、すぐに元の場所に戻した。
そして、隣にはヴィクトワールが横になっていた。俺よりは早く起きていたらしい。
時々、気になるらしくカトリーヌ・大塚とホットプレートをチラチラと見ている。
食い意地が張りすぎているとしか思えないが、体が資本の商売ならしっかりと食べるべきか。
「なぁ、カトリーヌ。色々と買いに行きたいが、近くに店はあるのか?」
「歩いて十分ぐらいで、商店街があるし、車で十五分ぐらい行けばショッピングセンターもあるよー」
お気楽そうな返答だった。
「……ここ、神域ってやつなんだよな? どこぞの田舎とかじゃなく?」
「そうだよ?」
相変わらず、よく分からないが、細かいことを気にしても仕方ないのだろうか。
そうこうして、適当に暇をつぶしていたら、歓迎会が始まった。
ご飯、豚汁に、目の前のホットプレートでは隙間無く餃子が焼かれ、さらに大根サラダに、ポテトサラダ、きんぴらゴボウ、里芋の煮付け、各種野菜のぬか漬け等などが並んでいた。
「さーて、歓迎会! あ、恋太郎は未成年だからウーロン茶ね」
と俺だけウーロン茶で他二人がビールで乾杯した。
別に、酒が好きって訳でもないし、実年齢を考慮してもそうなるだろうから、特に不満は無い。
「さーて、料理は得意だからね、じゃんじゃん食べなさい!」
見た目は完璧に旨そうで、昆布ポン酢につけて食べると、予想通りに旨い。
変わった具が入っていたり、形がいびつであることも無く、普通の材料だが、しっかりと旨い。
これはつまり。
「お前、餃子の神も兼任しているだろ?」
「さ、さーてなんのことかなー」
目が泳いでいるので、まぁ、そうなのだろう。
うどん神でもあるのだから、今更だ。
気にしないでおこう。
「いやーそれにしても、二人も増えるとは思わなかった。この調子で三人目も雇えるといいし、上限人数も増えないかなー」
カトリーヌ・大塚は、なんだかウキウキした気分で、新しい瓶ビールを開けだした。
「最終的に、あんたが信仰心を得てどうなる? 飯が旨くなるのか?」
「給料が増えるよー。そうだ、昼からはショッピングセンターに買い物に行こうか」
「買い物はいいけどな。最終的な目的は?」
これは最初から気になって吐いたことではあるが、カトリーヌ・大塚はビールを注ぎながらうーんとうなる。
「会社みたいなもんだからねぇ。会社の最終目標ってあるかもしれないけど、大抵の会社はずっと続くことを目的にしているでしょ? できるだけ健全にって」
「かもしれないな。正社員で働いたことないからなんとも言えんが」
「ま、つまりは、救済の奇跡は需要としてある。その需要を供給しているだけなわけよ」
「そういうもんかねぇ」
「そういうもんだよ。ぶっちゃけると、私たちだって、神と自称しているけど、実際に神なのかはよく分かってないし。ただ、私たちは、異世界の信仰心と何故かリンクしている。そして、異世界に関与することもできる。それだけで、こういう商売が成立しているだけだから」
正直、ぶっちゃけ過ぎな気もするが、そういうことらしい。
その日、歓迎会後にカトリーヌ・大塚の運転する軽四で買い物に行ってきた。
そんなこんなで、数日がたった。
居間で三人してテレビを見ていたところで、電話が鳴って雇い主が出る。
「はいはーい。もしもし? はいはい。オッケー!」
カトリーヌ・大塚が電話を下ろしたときには、既に、俺とヴィクトワールは準備していた。靴は軍用安全靴だし、武器に特殊警棒を入手したし、念のためのレーションなんかも用意している。
アプリは課金で強化しているし、新アプリも入手した。
救済士として、救済の奇跡を起こす準備万端だ。
自分には、役割がある。
なら、その役割を果たそう。
「いつでもいいぞ」
「私もだ」
「じゃ、いってらっしゃい! 詳細ははっきりしないけど、厄介なものが転移してきたくさいね」
床がスライドして、俺たち二人は落ちていく。
真っ暗な空間を落ち続けていく。
「本当、この方式しかねぇのな」
「すぐ慣れるぞ?」
ヴィクトワールは、今にも寝そうなほどボーっとした様子だが、寝ないよな?
で、前と同じように、瞬間、落下の浮遊感は無くなり、俺たち二人は金色の線で描かれた魔方陣の中にいた。目の前には、黒髪だが、白色人種系の方々……だが、耳がトンガって横を向いて生えている。所謂エルフという種族だろうか?
既に、自動翻訳アプリは起動しているので、何を言われても問題なし。
恐らく、俺たちを召喚したであろう女のエルフが口を開いた。
「勇者様ですね? どうか、この地に召喚された宇都宮によってかけられた呪い、餃子を食べるのをやめられなくなる呪いを解いてください! こうしている間にも、美味しすぎて食べるのをやめられません!」
そう言って、エルフは餃子を一口食べ出した。
……。
今度は、餃子がらみらしい。
今度は、宇都宮かい。
今度は、なにをやらせるんだか。
ああ、でも、それが役割で、それを解決するべきで、それがみんなのためになる。
しょーもないけど、するべき事をする。
力があるかどうかは関係ない。
自分がしようと思ったなら、するべき。
力には決して振り回されないように、自分に問いかけ続けろ。
「とりあえず、詳細な? 救済するからさ」




