第63話 船で旅をしよう
「あの町並みに、コンテナ船は不釣り合いだったな」
潮の香りのする海風に吹かれながら、ヴィクトワールがつぶやく。
視線の先には小さくなっていくイフリートの街の影が見えた。
正直、あまり思い入れの無い街なので、ほぼ感慨は無い。
ほぼ、経由地だったしな。
予定通りに乗った船は、やはりというかなんというか、想定通りにコンテナ船だった。さらに、予想通りに、やっぱり、魔石でスクリューを回転させる仕組みに改造済とのこと。 積載されているコンテナの半分は木製でできている。それが甲板を埋め尽くしていた。
船は香川県の丸亀から小豆島経由でイフリートに来て、また同じルートで戻るという。
「なんでこんな事態になっているんだかな。他にも、違和感だらけの、そういう異世界もあったりするのか?」
「そうだな。元ガンスミスの転成者がいて、剣と魔法と銃の異世界とかあったぞ? AK47が火を噴いていて、魔法使いの立場がなくなっていた。だから、魔法使いに呼ばれてな、銃器を無くしてくれって頼まれた」
「転成者ってことは、救済士が銃器を作っていたのか?」
「いや、違う」
ヴィクトワールが、ノンノンと指を振った。
「ある世界線の地球から異世界に転生した人間だった」
「そういうのもあるのか?」
それこそ、まさに最近はやりのラノベみたいな設定だな。
俺も人のこと言えないが。
事実は小説より奇なのか、事実を小説にしているのか。
転成したら、香川県が転移してましたね。
売れそうにも無いストーリーだな。
「ある。というか、人が死んで魂がどうなるかなんて、神だって知らないんだ。私たちは偶然神域に転生した、それだけだぞ?」
「偶然ねぇ」
偶然、ポンコツに雇われるとか、一体、何の偶然なんだか。
「たぶんだけどな。転生自体はよく起こっているらしい。ただ、記憶を持ったまま転成するのはごく希だそうだ。とはいえ、そういう世界ほど問題が起きるから、救済士が呼ばれる可能性も高い」
「なるほどね。そりゃ、問題が無ければ呼ばないか」
「逆に、問題を起こすために呼ぶケースもあったけどな。はた迷惑きわまりなかったぞ」
それは、確かに問題か。
そういえば。
「この世界は、過去にも救済士が呼ばれている可能性が高いな」
「ふむ。私たちが呼ばれている以上は、そうだろうな」
「ちなみに、現在、香川県にも、藤崎のおっさんという救済士がいる。まぁ、小豆島にはいないだろうけど」
「なるほど、他にもいたのか」
「驚かないな?」
「驚かないぞ? よくあることだ」
しれっと言い放つ。
転成した人間が、異世界にやってくることは、常識の壁を遙かに超える事のはずなのに、珍しくも無いか。
「さらに、そういえばな。その藤崎のおっさんなんだが、力があるからするかしないかを決めるなって言われてな。ちょっと思い出した」
「なんだそれ?」
「したいからする、するべきだからするのと、力があるからするしないを決めるのは違うって話。力に振り回されるなってことな。力に振り回されずに役割をこなせって解釈しているが」
「よくわからん」
ばっさりだな、おい。
「実践するならどうするべきは、俺もわからん」
「うーん? なんだ? 走らないといけないから走るのと、走れるけど走る必要が無いなら走らない。走るタイミングを考えろって事か?」
「そういうこと……かな? 力に使われているのか、力を使っているのかってことだからな。俺たちが特殊な立場で、スマホ一つでお手軽に能力が使えるなんて、よく考えると恐ろしいことだろ? 独裁者にミサイルの発射ボタンを持たせているのと何ら変わらん」
「別に、独裁者イコール悪でもないだろう? 独裁者だけど聖人かもしれない」
「そうか? どんな聖人だろうと、独裁者はいずれ暴走するもんだろうに」
たぶん、きっと、歴史がそれを証明していると思う。
「うーん。それはそうと、力と役割か。考えたことも無かったな」
「まぁ、普通に生きていれば、役割を与えられて、相応に力を発揮するのが自然だろうな。別に、命がけで戦うなんて無いわけだし」
俺はきっと死んでいなければ、大学を出てサラリーマンになって生活していたと思う。
そうやって、社会の中で役割を得て、役割を果たすために生きていったと思う。
「まぁ、人間、自信過剰だったり傲慢だったりすると、大抵ろくな事にならないからな」
「だろうな」
結局、俺は今の役割と目的がはっきりとして無くて、さらに与えられた役割と力に戸惑っているのだろう。
そう、未だに救済士とスマホに戸惑っている。
あれだけ力を使いながら、一歩間違えれば大惨事を引き起こすことも可能な力と役割。
本来、自分から役割を獲得し、力をつけていくべきなのに、努力の途中経過が抜けている。
だからこそ、自分の力と役割だという実感が薄いのだろうか。
福引きで温泉旅行に行くのと、自腹で行くなら、どっちのほうが、楽しめるか。
運が人生を豊かにするのか、努力が報われることが豊かにするのか。
果たして、俺は何のために、生きているのか、行動しているのか。
「お前って、転成前は?」
参考になるかどうかわからないが、とりあえず、救済士の先輩に聞いてみるか。
「んー。女子高生だった」
「どういう女子高生だった?」
「どうもこうも、普通だぞ。女子校だから、色々と無防備になっていたが、普通だったぞ」
「……普通が何を示しているのかともかく。救済士になって戸惑いは?」
「考える前に仕事が一杯だから、考える暇も無かった。一杯ある割にクビになったけどな」
それはそれで、受け入れることができたってことだろうかな。
あー、そうか、受け入れることができていたから、神域に戻ろうと必死だったのか。
受け入れた役割だから、再度、その役割を得たかったのか。
意外と仕事中毒者なのかもしれない。
人が生きていく理由、それは、役割を果たすことで、自分自身に理由があると納得したいからかもしれない。
そう思えた。




