表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/68

第59話 賢者について聞こう

 俺達は、シャーマンの家の居間に集まって、顔を見合わせていた。レンガの机にレンガの椅子と、このあたりでは何でもレンガでできている。木が食料よりも貴重なようだから、仕方ないのだろう。


「ひとまず、俺たちの目的としては、何故香川県が召喚されたのかを調べようと思っている。その切っ掛けに、賢者に会いたい。賢者が何か知っている可能性がある」


 シャーマンの前で、サラマンドラ討伐の報告後にそのことを話した。


「なるほど。賢者様ですか」


 そうつぶやいて、シャーマンはお茶を一口飲んだ。このお茶、なかなか癖になるし、落ち着く味なんだよな。


「残念ながら、三日前にここを発たれました」

「入れ違いになったか」


 もう少し急げればなんとか追いついたかもしれないな。いや、追いつかなかったものは仕方ないから、追いかけるしか無いか。


「どこに向かったのかな?」


 アレクサンダーが問いかける。


「香川のショウドシマと言われましたが、分かりますか? 香川の地理には疎いもので」

「小豆島か。またなんとも妙な場所に行ったな。何の用事だ?」


 香川県まるごと転移ということは、小豆島も当然転移しているってことか。


「そこまでは……あぁ、ですが、オリーブオイルの話をしました。今、各国の上流階級の間ではショウドシマのオリーブオイルが注目されていると」

「オリーブオイル作っているのか?」


日本のオリーブオイルは輸入ものしか無いと勝手に思い込んでいたが、作っているのだろうか?


「僕に聞くな。後で検索しよう」

「おう。で、賢者追いかけるなら小豆島か。どういうルートで行くかも調べねーとな」


 にしても、あっちこっち行ったり来たりだな。移動ばっかりなのを考えると、もっと移動に使えるスキルアプリも探しておくべきだろうか。なんだか、やることがどんどん増えているが、仕事を始めたばかりだし仕方ないのだろうかな。


「それとだ。貴方にも聞いておきたいのだが」


 アレクサンダーが切り出す。


「なんでしょうか?」

「香川が転移したことについて、なにか心当たりであったり、異変などは無かっただろうか?」

「いえ、これと言っては。ちょうどそのときは、サラマンドラの気性が荒くなっていまして、その監視で忙しく」

「そうか」


 やっぱり、収穫なしか。

 これはもう、香川県は謎の現象が起きて転移しましたとしか説明できないのでは?

 かといって、今を生きる香川県民はいるわけで。

 現象が分からなくても、香川県を転移し直すことはできないのだろうか。これは、もう無理と答えは出ているわけだ。

 しかし、実際に転移してきているのだから、その逆もまた然りと考えるべきでは無いだろうか。

 無理があるだろうか。


「しかし、お二人は、どうして香川について? なにかこだわりでもあるのですか?」

「こだわりっていうか、まぁ、俺たちが元いた世界にも香川があってな……まー、なんというか、ここに来ている香川とは別の香川だが……説明しにくいな」


 パラレルワールドの概念とか、説明したところで理解してもらえるかどうか。

 案の定、シャーマンも首をかしげている。

 一体、パラレルワールドとは、どんな説明をしたらいいのだろう。そもそも、俺はパラレルワールドを何で知って理解したのか。

 ……国民的人気の青いロボットが出てくるアニメだろうか。

 記憶をたどると、そこに行き着くあたり、あのアニメの影響は偉大すぎる。

 うまく説明できないうちに、シャーマンの奥さんが鍋を持ってきて、陶器の器に汁物をよそって配ってきた。

 野菜が多く入っているが、肉も見える。そして、汁の色は茶色で濁っていて、香りは味噌そのものだ。


「どうぞ」

「おう。入っているのは豚?」

「ええ。そうです。それと野菜を煮込んで、味噌で味付けしました」

「豚汁か」


 一口、すすってみる。

 滋味深い味わいで、野菜の出汁がよくきいている。

 うん、まさに豚汁だな。


「あー、うまい。フェニックスの宮廷料理よりうまい」

「そんな大げさな」


 いや、これは出汁がしっかりときいて、味噌の味わいが生きている。あの、味噌を湯に溶かしただけのフェニックスの料理より全然うまいのは間違いない。


「味噌があったのか。行商人が?」


 アレクサンダーも満足げにすすりながら問いかける。


「いえ、材料はそうですが、作ったのは私です」

「味噌を自作か。なるほど」

「このあたりは、ほとんど食料がとれませんので、保存食として取り入れました。どんな理由があるにせよ、香川が来てから食卓が豊かになったのは間違いありません」


 ふむ、まぁ、香川の影響を見る限り、圧倒的に食事関係が多いんだよな。主食をうどんに変えたり、味噌や醤油、オリーブオイルを上級な人々に売ったり。香川の動きは、どうも、町おこしの延長線上のようなことをしているな。いや、まぁ、武力で統治しようなんて発想は日本人だとなかなか出てこないし、出てきても実行にまで移らないか。


「あんた個人では、香川が来て良かったか?」

「そうですね。各国の代表者達は頭を悩ませていることには悪いですが、こうして食卓も豊かになりましたし、実行は先になりそうですが、地熱を使って農業や発電ができると助言もいただきました。発電はよくわかりませんが、農業ができれば、この地は豊かになります」

「なるほどね」


 確かに、畑そのものはあるが、土地自体がやせているらしく、あまり実りも良くないし、とれる作物の限定されているらしい。農業についてのある程度のノウハウがあれば、それを活用できるか。


「何故、香川がこの地にやってきたのか、それはわかりませんが、きっと、人々を豊かにするための何かしらの役割があるのではないでしょうか? きっと、何かの理由はあると思います。それが、我々に理解できるかはわかりませんが」


 さらにシャーマンはそう続けた。

 ここに来て、役割ね。

 もしも、理由があるのなら、何故、香川だったのか。そして、何のための理由なのか。

 分からないことを悩むのはほどほどに、豚汁が冷めないうちに再びすすり始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ