第58話 雇用しよう
「もっしもーし。久しぶりのカトリーヌお姉さんだよー。寂しかったかな?」
スマホに電話してきたのはカトリーヌ・大塚で、相変わらずの脳天気そうでなりよりだ。
「最近、影の薄かったお前か」
「そういうこと言うなよー」
「つーか、いろいろと知らない事実があったが、説明しろよ」
「いや、だって、いっぺんに説明しても入らないかなって」
なんだか、頭をポリポリとかきながら言っている様が想像できる。
「それだけが理由とは思えないんだがな」
どうせ、言い忘れていたか、面倒だったかで伝えてないに違いない。
「それより、こういうケースってあるんだな」
こういうケース、つまり、綾小路ヴィクトワールのようにリストラされて異世界に置いてけぼりを食らったこと。
「同じ神としても最悪の部類だろうね。ブラック神には気をつけないとね」
まるで他人事、いや他神事だろうか、そんな口調だ。
「お前、まさか、自分はそうじゃないって思っているわけ?」
「おおーい! ちょっと聞き捨てならないよ!? 私はホワイトですけど!?」
何も知らずに来た奴を雇って、適当に派遣しているあたり、本当にそうだろうかと疑問ではある。
「まったくもー、そんなこと言っているとクビだぞ」
「パワハラだな。訴える代わりに俺が裁く」
どうやら神に雇われるのは法の守りも無いようだし、自分の手でする他無かろう。
「や、やめなさいって。ゴッドジョークよ?」
「はいはい。で、何の用件だ?」
「うん。そうそれ、私の雇用枠だけど、実は、三人分持ってます」
「ちょっと待て」
特に通話口を押さえることもなく、隣のアレクサンダーに向いて問いかける。
「お前のところの、雇用枠って何人?」
「正確な数は忘れたが、約二百人ほどだが?」
「オーケー」
そのまま再び電話に集中する。
「お前のところ、やっぱりド零細じゃねーか!」
「ベンチャーと言いなさい! っていうかね、会社なんて大きい小さいの問題じゃなくて、自分に合っているかどうかであってね」
「そいつは、中小零細の連中しか言ってないから」
いや、まぁ、実際問題、大手は大手で問題ありの場合もあるだろうが。
「とにかく、いいこと思いつきました。恋太郎には思いつかないようなこと!」
姿は見えないが、胸を張ってドヤ顔をしている姿がイメージできた。少しイラッとするな。
「綾小路ヴィクトワールを雇う以外で何を思いついた? 言ってみろ」
このタイミングでの用件なんて、それぐらいなもんだと思うが、さぁ、どんないいことを思いついたか言ってみろよ。
「……」
「おい」
「……」
「言えよ」
「……食事手当と交通手当の支給も考慮しようかと思います」
どこかぎこちない口調での提案だった。絶対に、言おうとしていたことそれじゃないだろ。
「とりあえず、こいつ雇って大丈夫か?」
いろいろと聞かなかったことにした。話が進まないしな。
「いいじゃん。初見殺しとしてはこれ以上無いほどの逸材でしょ?」
カトリーヌ・大塚も無かったことにしたようだ。
まぁ、性格については置いておくとして、確かにヴィクトワールは優秀ではある。見えないし音のしない爆発なんていう初見殺しは相手にしたくない程のスペックでもある。
何故、首になったのか分からないほどに優秀ではある。
まぁ、あの性格で首になったと言われれば納得できるが。
「どうよ? 迷える異世界救済士を救い、こっちは人手不足の解消! まさに一石二鳥なわけよ!」
「なんやかんやで、こいつ大丈夫か?」
「それはね、念のために面接して確認します」
「お前の面接とか当てにならねぇよ」
形ばかりの面接試験だったろうに。
無意味な、圧迫面接とかまたやりそうだな……。
「とにかくね、恋太郎のスマホ経由で電話面接します。伝えておいて。とりあえず、今から一時間後ね!」
「あ、おい」
と声をかけたが、電話が切れた。
そもそも、このヴィクトワールが面接を受けるかどうかという問題もあるのだが。いや、この際、神域に戻れるなら、異世界救済士をできるなら、四の五の言わずに頷くかもしれない。
俺は再びヴィクトワールの近くに置いてあるいすに座り込んだ。
「……」
プイッと首を回して壁を見つめだした。どうやら、オークはお嫌いらしい。
「俺の雇用主が、お前を面接して雇用するかどうか決めるってさ」
「よろしく頼むぞ先輩!」
ガバッとクビを回しながら起き上がって、こちらに向かって行ってくる。間髪とか躊躇いとか、そういうものは無いのかと。
だが、本人はやる気に満ちている。目がキラキラと輝いていた。どれだけ必死なんだか。
「おい! 詳細は何も説明してないぞ」
「かといって、他に選択肢は無いだろう。雇ってくれ。何でもするぞ」
今、なんでもすると……いや、そこはクローズアップしなくてもいいか。
「とにかく、一時間後に電話で面接だ。志望動機とか自己ピーアールとか聞いてくるから考えておけ。あと、圧迫面接の可能性もあるが抑えろよ?」
「わかったぞ」
いや、しかし、なんでこういうことになるんだかな。
それよりも、一時間もただ待っている理由もないし、先にシャーマンから色々と話を聞いておくべきかな。
俺は、椅子から立ち上がり、シャーマンのところに向かっていった。




