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第57話 理由を聞こう

 シャーマンが複数のハーブを煎じたというお茶を持ってきた。飲んでみるとやや苦みが強いが、ほのかな甘みもあって、それほど悪くもない。そんなお茶を飲みながら、さて、目の前の正体不明系女子をどうしたものかと思案している。

 思案するも何も、名前すらわからないのだから、まずはそれを聞き出すべきなのだろうが。


「いい加減に、答えろ。名前は? 目的は?」


 こう尋ねてみても。


「くっ殺せ」


 と何故かどこぞの女騎士のようなことをほざくばかりだ。


「じゃあ、スマホのパスワード教えろ」

「お、教えぬ!」


 つまり、スマホから情報を探るのも無理と。

 アレクサンダーがお茶を一口飲んでから、女から取り上げたスマホを一瞥した。


「最悪。破壊するか」


 とボソリとつぶやく。


「壊すとどうなる? アプリが使えなくなる?」


 相応に頑丈そうだが、スキルを使えばいくらでも破壊は可能だろう。


「僕たちが使うスマホには緊急装置がついていてね。破壊されると異世界での活動不能と判断して、強制的に神域に召還される」

「なるほど」


 例のごとく、俺は、そんな装置がついているなんて知らなかったわけだが。バトルじゃ最優先で守らないといけないって訳か。


「つまり、強制的に召還してしまえば、今後、邪魔されることもない。アプリは、基本的にスマホを個別認証してインストールされているから、これまでのアプリもすべて吹っ飛ぶが、ここまで頑ななら仕方ないだろう?」

「じゃあ、焼くか?」


 右手で持ったスマホを掲げ、左の手のひらに炎を作り出す。


「もしくは、撃ち抜こうか?」


 アレクサンダーが、シカゴ・タイプライターを手に持つ。


「や、やめろ。おまえら、それだけはやめろ!」


 謎のポンコツ女が、さすがに慌てた様子で暴れ出す。空いた手で縄を解こうとするが、あれは二度と解けないぐらいに固く縛ったので、無理だろうな。


「じゃあ、話せよ。それによっては、いろいろと対処のしようがある」

「ぐっ……」


 女は言葉に詰まり、むーとうなり出す。一度目を閉じて、頭をかきむしったかと思えば、急に目をパチッと開けた。ようやく観念したのだろうか。


「わ、笑うなよ?」

「どういう話か知らんが、とりあえず名前だ」

「綾小路ヴィクトワール」

「……」


 そっと、スマホを炎に近づける。


「いや、待て! そこの君、待て! 本名だぞ! これは本名だぞ! フランスと日本のハーフなんだ!」

「そういうことね。俺も人のこと馬鹿にできる名前じゃねぇからな」


 スマホを炎から遠ざけてやった。ふむ、褐色の肌が黒人系の血でも入っているからだろうか?


「では、ミズ・ヴィクトワール。何故、巫女をさらったのだ?」


 アレクサンダーが問いかける。

 これで、遊ぶ金ほしさとか、ムシャクシャしてやったといか言ったら問答無用でスマホを燃やしてやろう。


「巫女である必要はなかった。召還できるなら、誰でもよかった」

「どういうことだ? 神域に戻りたかったのか? だが、別に神に頼んで召還してもらえればいいだろう? 何も召喚できるものに頼る必要なんてない」


 俺も知らない事実だが、そうなのか。

 これは、つまり、召喚しっぱなしで、召還できない人間に呼び出されても、神域に戻れるようにと言う配慮だろう。今回は、召喚者に召還してもらえればいいようだが。


「……なった」


 女が何か言った。

 声が小さくて聞き取れなかったが、何か言いにくいことを言ったようだ。


「なんて言った? 聞き取れるように言えよ」


 そう問いかけると、女は、意を決したように口を開けた。


「ク、クビになったんだ! そうだよ、クビになったんだ! だから、頼もうとして電話しても着信拒否されるし! スマホを壊しても神域に戻れる保証が無い!」


 俺は形だけの採用試験があったが、これ、クビってあるのかよ。


「そういうことか」


 アレクサンダーが合点いったように頷いた。


「スマホ壊しても戻らないのか? さっきと言っていること違うぞ?」

「いや、そこはわからないが、仕組みとしては破壊されると神に通知がいき、神が緊急的に召還するわけだから、無視される可能性もあって、壊し損になるだろうね」

「へぇ。で、クビもあるのか」

「よほど、能力や素行に問題があればだが……首になると、下手すればどこぞの世界に置き去りになることもある。その前に、素行を正すものだが……」


 うーん、目の前の女は確かに、問題行動は多そうだし、ポンコツ臭もする。しかし、身体能力強化に、透明化と消音化、それを併用した爆破能力。決して能力が低いとも思えないが、これでもクビになるとは、これはどういうことだろうか?


「わたしよりも、優秀な救済士を雇うために、私をクビにしたんだ。くっ、あの野郎め」

「わざわざクビにしたのか?」


 あの野郎っていうのは、元の雇い主の神なのか、それとも代わりに雇われた救済士のことなのか。


「いや、そういうことなら、そういう理由もあったか」


 再びアレクサンダーが納得した様子でうなずいた。何か、心当たりでもあるらしい。


「どうした?」

「つまりだ。君も知っていると思うが、神はその格に応じて、雇える救済士の数に制限がかかっている」

「いや、知らん」


 本当に、俺、知らないことだらけだな。なんでこう、説明のないまま仕事をしているのだろうか。それは、俺の雇い主がポンコツだからだが。


「……とにかく、数に制限がある。格が低ければ二、三人程度、高ければ数百人単位で雇える」

「ずいぶん差があるな」


 うちのポンコツは、一体何人なんだか。


「それが、要は目に見える格の差なのだろう。つまり、彼女の雇い主は、より優秀な人間を雇うために彼女をクビに。そして、彼女はこの世界に置き去りにされた。とりあえずは神域に戻るために召還能力者を狙ったのだろう。神域に戻れば、ほかの神に雇い直してもらうつもりだったな」

「それにしても、ひどい話だな」


 異世界救済士に、労働基準法による守護はないのだろうか。


「全くだ。些か、傲慢すぎる。せめて、他の神を紹介するぐらいのアフターケアぐらいはするべきだ」


 アレクサンダーも憤りがあるらしく、やや厳しい口調だ。俺よりも経験年数が長いから、いろいろと思うところがあるのだろうか。

 さて、綾小路ヴィクトワールという名前もわかったし、犯行の動機もわかった。そして、問題は、これからどうするかかな。

 そう思った矢先に、俺のスマホに着信がきた。

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