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第54話 一緒に踊ろう

「よぉ久しぶり。まぁ、こっちは、お前が見える。隠れても意味はない」


 黒衣の女に向かって言い放つ。実のところ、見えてないし、位置が判るのはアレクサンダーだけだが、ハッタリぐらいはかましておいても良いだろう。

 その女は、唇をかみしめながらこちらを睨み付けている。透明化と消音のスキルを使っていると当たりをつけていたが、やはり正解だった。

 爆発を透明化と消音できるなら自分自身にかけることも可能のはず、というか、むしろそれが本来の使い方だろう。アプリを調べた限りは、どうやら電池消耗は激しいらしいので、連続使用は難しいことも把握済みだ。


「さて、鬼ごっことかくれんぼのどっちをする?」


 個人的にはどっちも十分なんで、お家に帰りたいけどな。

 メイスを構えながら、左手をかざす。後ろのアレクサンダーから水の玉が飛んできて俺の左腕にぶつかり崩れた水の玉が平たい円形に形をなしていく。水の動きが止まると、アレクサンダー即席の水のバックラーができあがる。


「君に貸してあげよう。いつか返して貰うと思うが」


 アレクサンダーから、恩着せがましいお言葉を頂戴する。


「前に、サラマンドラの攻撃を防いだので、俺が借りを返して貰ってないか?」

「そう来たか。なら、それ以上の貸しを作るまでさ」


 あーあ、なんでこんな奴に貸しを作らないといけなんだか。水だけど、厚みがあって何気に重いし。これ、身体能力強化のスキルアプリの使用が前提の即席防具だよな。今の俺は、残念ながらそんなアプリなしの生身で挑まないといけないわけで。


「何故」


 黒衣の女が静かに呟いた。

何か言いたいことでもあるのだろうか。むしろ、こっちが色々と聞きたいわけ何だけどな。


「何故、私の邪魔をする。そして、何故、都合良く私の前に現れる」

「偶然か必然か知らんが、確実なのは邪魔なのはお前だ」


 メイスを向けた。どんな事情があるにしろ、巫女を誘拐したことは事実。そして、恐らくはシャーマンを狙っている。


「さて、再び二対一だが、降参する気はないか? 」


 アレクサンダーがシカゴ・タイプライターを向けながら降伏を促す。

 だが、黒衣の女はギィとアレクサンダーをにらみ返しただけだった。

 判っていたことだが、交渉は決裂と。そして、恐らくは戦いになる。


「なら、俺の方が貸しが大きいし、俺からな」


 メイスを握り直して、女に一歩近づいた。


「好きにしたまえ」


 後ろからアレクサンダーの返事が聞こえる。

 雨がさらに強くなって、上着はびしょ濡れになってきた。いや、もう上着どころか全身濡れてきている。気温は高いからサウナみたいに蒸し暑さがどことなくあった。

 いや、それどころじゃないか。

 駆け出した。

 メイスを大きく振りかぶって、黒衣の女に振り払う。だが、そんな速度の物はあっさりと回避され、代わりに手の平を向けてくる。前方で何かが弾けるが、バックラーで防ぐ。水が衝撃を吸収して俺に伝わる前に拡散させていく。なかなか使えるな。しかし、透明化と消音がばれても、爆発を隠すのに使ってくるということは、爆発は隠せていると考えているな。


「おーらっ!」


 叫びながら、さらにメイスを振り払っていく。ことごとく躱され、反撃に見えないし聞こえない爆発を起こされるが、それもこれもバックラーで防ぐ。メイスのリーチの分、距離は取れて、反撃の爆発からも距離を取れる。今の俺の遠距離攻撃では防がれる故に接近戦を仕掛けるしかない。だが、接近しすぎれば二の舞になるのは明白。

 故に、対策として考えたのが、程よくリーチをとっての接近戦だった。

 しかし、問題は当たらないってことか。


「やっぱり、すばしっこいな」

「そちらは狡いな」


 黒衣の女は、つまらなそうに言った。恐らく、こちらを下に見ているし、リーチで対応してきたことも見抜いている。


「言ってくれよ。自力が足りなくてさ」


 地力の差を何で埋めるか。

 スキル。

 アプリ。

 頭脳。

 運。

 作戦。

 戦略。

 戦術。

 根性。

 努力。

 され、今の俺は何で差を埋めているのか。

 答えは、はっきりしない。

 だが、いずれでもない気がする。

 やるべきだからやる。

 役割を果たす。

 そのためになんだってやってやるさ。

 メイスの速度が遅い?

 なら、加速するまでだ。

 メイスの混の部分を炎で包み込む。雨が降っていて、燃えが悪いがそれでも十分。メイスを振りかざし、炎を黒衣の女とは反対方向に噴出、一気にメイスが振るわれる。

 だが、右の手の平で受け止めるそぶりを見せ、瞬間に爆発が起きてメイスが弾かれる。大降りの攻撃はその分、隙も大きくなる。黒衣の女は左手を後ろに向けて爆発を起こし、一気に加速して間合いを詰めてくる。

 右手が向かってくる。

 前に、俺の左手を吹き飛ばした右手が迫ってくる。

 寸前でバックラーを突き出すと、バックラーが木っ端みじんに吹き飛び、俺も後ろへと吹き飛んだ。直ぐさまに体勢を立て直して立ち上がる。左腕のバックラーは一度は跡形もなくなったが、周囲に幾らでもある水を吸収して再び形をなしていく。


「水さえあれば、幾らでも再生する。存分にやれ」

「わかっているよ」


 それは、事前の相談と打ち合わせで聞いた話だ。

 メイスの炎は爆発によって消えて、雨が当たる度に湯気が立ち登っていく。


「その程度……か?」

「うるせぇよ」


 黒衣の女が、両手を後ろに向けた。その瞬間、目の前に黒衣の女が迫っていた。両手で爆発を起こしての加速!

 だが、両手は後ろを向いている。だから、爆発は無い。

 が、恐ろしく素速い衝撃が俺の顎をとらえていた。恐らく蹴られた。女の蹴り、いや人間の蹴りとは思えないほど速く重い一撃だった。平衡感覚が失われ、後ろへと倒れ込みそうになるが、右足のかかとから炎を噴出し蹴り上げた。

 俺は結局倒れ込んだが、足には十分に手応えがあった。

 が、視界には両手で俺を押さえ込もうと飛び込んでくる女が見える。今度は、足の裏から炎を噴出、その場から緊急離脱。なんとかバランスを取って、浮き上がると、両手両足で地面をつかんでいる女が見えた。


「ちょっとは、加減してくれよ」


思わず言ってしまった。

 まずいまずい、弱気になるな。ここで負けたら、ここで負けたらどうなる。

 シャーマンがさらわれるとなれば、何のためにここまで来た。

 何のために馬車に揺られてきた。

 何のために出来るだけの対策してきた。


「最近、良いこと無いんだよ。死んでから良いこと無いんだよ」


 何のために世界にやってきたんだ。

 不承知でやってきた世界で不条理な目にあって、何をするんだ。

 俺に力があるからできることをするんじゃない。

 力に振り回されるなんてまっぴらごめんだ。

 俺が、俺の力で立ち上がらないでどうするんだ。

 顎への一撃でふらつきながらも、俺は着地して、メイスを燃やす。目はかすむし、奇妙な浮遊感もあって建つだけでもバランスが取りにくい。

 それでも、立ち上がる。

 そして、向かいうってやる。

 こっちから、かかっていってやる。

 再び大きく構えたところで、黒衣の女が逆立ちをした格好で地面を爆発させた。見えないし音もしない爆発によって、再度加速してきた女に向かって、メイスを振り払った。当然、炎を噴出しての加速付き。

 今度は、柄の部分に手の平を向けてきた。再び衝撃が走って、右手が痺れていた。痺れた右手は柄を離していた。さらに、俺に向かって手の平が伸びてくる。

 意識も視界もフラフラだが、強引に左手から炎を噴出してバックラーを割り込ませた。

 再び、バックラーがはじけ飛んでいった。このまま攻撃を食らうなら、バックラーの再生は間に合わない。


「ふざけんな!」


 痺れた右手で上着をつかんで投げつけた。

 そして、左手で腰のナイフを取り出して、取り出して、落とした。

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