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第53話 広場で待とう

 シャーマンは、儀式の準備中と言うことで集落の広場で待っていた。

 夜の儀式が終わり次第、話を聞くことになるだろう。もっとも、フェニックスでの誘拐未遂については話したので、シャーマンがいるドームの警備を固め、村の外の見張りも増やしてくれた。この村にとって、シャーマンは掛け替えのない存在であるようだ。一子相伝なのだから、当然だろう。

 集落は、赤茶色のドームが幾つもあり、それが住居と倉庫などを兼ねた建物らしい。雨に濡れて大丈夫なのかとよく見てみると、継ぎ目が入っていて、一つ一つは人頭大の煉瓦のようだ。時々雨が降る土地と言うことは、これで十分なのだろう。まぁ、多分。

 集落の人々は、長方形の布の真ん中に丸い穴を開け、そこに頭を通して腰で布を縛るような独特な上着を着ている。布はくすんだ白の下地に、真っ赤な顔料で派手で幾何学的な模様が描かれている。この村の民族衣装だろうか。世界からして違うのだから、文化の違いなんて些末な物なのかもしれないが。

 広場には、村人が何人もいるが、大人は夜の儀式の準備のためか忙しそうで、子供はというと、こちらを興味深げに眺めては、大人にたしなめられて手伝いにかり出されていた。異世界の人間どころか、村の外の人間さえも珍しいのだろうか。


「この集落で呼ばれたのか」


 こちらを物珍しげに見てくる村人を一瞥し、アレクサンダーに尋ねる。


「そうだ。少々懐かしいね」


 そういいながら、アレクサンダーはシカゴ・タイプライターを入念に点検している。水を弾丸として撃つので、実は整備が大変らしい。なんか、相性の悪い組み合わせに思えるが、水さえあればほぼ無制限に撃てることを考えれば、それほどのデメリットでも無いかもしれない。


「そういえば、サラマンドラはどうやって追いかけた?」

「目撃証言を集めつつ、怪しい場所では水で探索した」

「水で?」

「僕は、水を使って熱源を探査できる。海に出て行ったサラマンドラを追えたのも、この能力のおかげだ」

「わけのわからん能力だな」


 水で熱を探査ね。どういう理屈なのだろうか?


「熱したフライパンの上に水滴を落とすと蒸発するだろう?」

「ふむ」

「それをより高感度したようなものだ。当然、僕自身が操っている水だけだがな。サラマンドラが高熱を発している分、探査はしやすかったよ」

「ようは、操る水を介して感覚を拡張しているようなもんか?」

「そういうことだ。あのとき、一発でも水の弾丸がミズXに当たっていれば追跡は可能だった」

「なるほど。惜しかったわけか」


 戦闘、補助、回復、探査を一人で出来るわけか。器用貧乏という言葉も浮かぶが、便利な人間であることは確かか。それでいて、ナルシストの割に協調性もあると来たか。普通、こういった場合、独断専行するバカっていうのがお約束な気もするが、もしかすると、そういった時期は痛い目を見てとうに過ぎ去っているのかもしれない。

 痛い目、救済士なんて怪しげな商売をしている以上、幾らでもあうだろうか。そして、俺は、痛い目に遭ったときにどんな反省をするやら。

 今まであった痛い目とくれば、まずは一番痛いのは死んだときのことだろうか。その次がポンコツ女神に雇われたこと。その次ぐらいが、黒衣の女に腕を吹き飛ばされたことか。

 前者二つは反省よりも、なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだという気持ちしか湧いてこないが、黒衣の女に関しては、対策しておく必要があるわけで。

 それからしばらくは、念のための戦いの準備や点検だけして待っていた。村人達は相変わらず忙しそうであるし、子供は飽きもせずにこちらを観察してくる。

 そうしている内に、頬に何か冷たい物が当たった。

 空を見上げると、黒雲立ちこめる空なのは相変わらずだが、再び頬に冷たい物があたる。


「よくよく考えると、儀式前に降ってきて大丈夫か?」

「降ることは悪くないだろう?」


 上着のフードを被っていると、忙しそうにしていた村人達も空を見上げ、嬉しそうに微笑み、そしてまた作業に戻っていった。単に雨乞いの儀式が、雨に感謝する儀式に変わっただけかもしれない。


「さて、ふむ、村の外を見てこようか」

「おう」


 アレクサンダーもフードを被り、シカゴ・タイプライターを構えたまま歩き出す。俺も念のために背負っていたメイスを両手に構えた。門番に見回りに行ってくることを伝えて村の外に出る。

 村の外は、来たときと変わらず赤茶けた岩石地帯だ。どこから来たのか判らないような巨大な岩が点在し、赤い砂が風に舞う。いつもなら、嫌になるぐらいに乾燥しているのだろうが、今は、雨がぽつりぽつりと降り出してきて生ぬるい空気が身体にまとわりついてくる。

 村の周りにはただ、岩石地帯が広がっているだけで、近くの集落までは徒歩で一日はかかる。あるのは、さらに山を登っていった先にある火山の火口とサラマンドラのコロニーだ。いや、さらにあるのは、魔石の鉱山があり、村の貴重な収入源となっているらしい。

 さらに村から離れていくと、雨が次第に強くなってくる。

 アレクサンダーが何気なく、シカゴ・タイプライターを岩石の上に向けて、引き金を引いた。水の弾丸が岩石に当たり、砕いていくが、岩石の上から雨を弾くように何かが動いた。


「当たってないが、別の意味で当たりか」

「ああ。試してみるものさ」


 アレクサンダーは、さらにその何かに向かって水の弾丸を撃っていく。

 何かが別の岩石の裏に隠れ、俺達は二手に分かれて回り込むと、アレクサンダーは遠慮無く再び引き金を引いた。再び何かが弾丸から逃れるように動いていき、小さな水たまりを大きくはねていった。


「無駄だ。こっちには見えているんだよ」


 メイスを構え直しながら、その何かに向かって言った。

 急に何かが動く気配は消えたが、同時に、今まで何も無かった空間に、黒衣の女の姿が現れた。

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