第4話 お買い物をしよう
ひのきの棒、恐らく、これ麺棒じゃねーかなって思いながら、外に出ると、青空の下に城下町が広がっていた。そもそも、今までいた建物は城らしい。何となく感づいてはいたけども。
城は城下町よりも高台にあるらしく、城下町がよく見渡せる。
見える建物は、白い石作りの家で、大抵が一階建てのようだ。城下町には、随分と広い長い道が見えるが、あれがメインストリートだろうか。メインストリートらしき道だけ石畳になっていて、人と馬と馬車が往来している。
中世ヨーロッパと言うよりは、古代ローマのイメージだろうか。まるきりそうだという感じでもないが。人々の服は、布1枚を器用に巻いて紐で縛っているようにも見える。ひとまずは古代ってことだろうか。
そう思いながら、石作りの階段を下りていくと、途中でスマホがなった。相手は、カトリーヌ・大塚。そのうちに、こいつからかかってくるときは、ネタ系の着信にしておこう。
「おう。なんだ? 」
「とりあえず、今後、どうするのかなって思ったので」
俺は、周囲を見渡す。近くには鎧をきた衛兵がいるだけだ。
「一応ね、こっちから動向だけは見えるから。録画も可能です……ズルズル」
「もしかして、あのテレビで見てるのか? そして、テメェもうどん食っているんじゃねぇ! 」
「うどんじゃないかもしれないし! 」
「お前みたいな奴が、今までの流れでうどん以外を食うとは考えにくい! 」
「そうだけどさ! 確かにうどん食べているけども、冷凍庫に丁度残っていたから食べていたけども! 」
大方、俺を召喚した女がうどんを食っているのを見て食べたくなったのだろう。
「それよりも、どうするわけ? そのままうどん・そばの店舗数全国一位の県にまでいっちゃうの? っていうか、あの県ってそば屋あるのかな? 」
「あることはあるんじゃねーの? 」
行ったこと無いから知らないが。そもそも、一つ気になっていることがある。
「それよりも、俺がいた……生前になるのか? 日本じゃ香川県はあったぞ。どういう事だ? 」
そう、俺がいた日本では、47都道府県欠けることなく存在していた。なんで、この世界に香川県があるのか。
「それはね、別の世界線の香川県がこっちに転移したわけなのよ」
「パラレルワールドか? 」
なんとなく、そんな気はしていたが。
「理解が早いね。そうだね。香川県が無くなった日本は大騒ぎだよ。四国を四国と読んで良いのかどうかで世論が二分だよ」
「どう考えても、それ以上に大騒ぎだろ? 後にしろ後に」
どんだけ暢気なんだよ。
「三国と呼ぶべきか、もとのままの四国で呼ぶか、それとも、間を取って、4-1国って呼ぶかで国民投票間近までいったんだけど、もめている間に徳島が分裂して、元の四国のままになったみたい」
「よく知ってるな。つーか、ただでさえ小さいのに徳島分裂すんなよ」
「まさかの分裂だよね。ちなみに、パソコンで転移元世界のウィキ見てます」
スマホといい、テレビといい、パソコンといい、神域だのの領域のくせにして家電が充実していやがるな。いや、見た目ただの家電だが、魔法みたいに高性能だから、そうそう侮れないか。
「そんで、これからどうするかだが、とりあえず情報を集めてみるわ」
「案外、手堅いね。その心は? 」
「序盤の街での情報収集は、RPGの基本なんでね」
あと、この邪魔くさい麺棒も処理したい。
「なにそのゲーム脳? 」
先ほどは勝手に切られたので、今度は俺が勝手に通話を切った。後で五月蠅いだろうか。
丁度、階段を下り終えた。空気が綺麗……というほどではないか。なにげに砂埃が結構ある。舗装されていない道も多いので、その所為だろうか。
それから人に話を聞いて、ようやく目的の店の前にやってきた。今の俺の格好は、ジーンズにTシャツにポロシャツと周りと違和感がバリバリなので、やはり目立つので、途中でマントを買って着ていた。金は麺棒と一緒に50ゴールドもらっている。金額も古文書によるらしいが、その古文書って某ゲームの攻略本じゃないだろうな。
さて、ついた店は看板に剣と盾の絵が描かれている。
つまり、うどん屋。
嘘だ。
武器防具の店だ。
中に入ってみると、幾つものピカピカの鎧が置かれ、壁には刀剣類が飾られている。片隅には、ひのきの棒が樽に突っ込まれて置かれ、樽に結ばれた板にはお金の絵が5個描かれている。金額は文字や数字ではなく、お金の絵で表現しているようだ。
最も、自動翻訳アプリを起動しているからか、見覚えのない文字も集中して見ると、何となく意味がわかってくる。ある意味、便利すぎて怖く感じてくる。
「買い取り頼めるか? 」
店の奥のカウンターに、店員らしき人物がいたのでひのきの棒を差し出した。
「ひのきの棒か、今、需要が多いんでちょっとだけ高く買う」
「ふーん」
とはいえ、ひのきの棒、大きめのコイン1枚だけもらってフィニッシュ。いや、まぁ、別にいいんだけど。
「それよりも、何か買うか? 」
「そうだな」
武術に関しての経験と言えば、体育の選択で剣道を選んだのと、忍者村で経験した手裏剣投擲のみ。果たして、この経験で扱えるだろうか。
「これいーな」
数多くの刀剣類がある中で、俺はズッシリとしていそうな得物を手に取る。棒の先にトゲ付きの鉄球がついた武器、モーニングスター、ドイツ語だとモルゲンシュテルンだったか?
ふむ、経験はないが、何となく剣や槍って感じもしないので、どれも同じようなものなら、これが良いかもしれない。
「そいつは在庫処分したいものだから、安くしておくよ。30ゴールドでどうたい? 」
手持ちが45ゴールド近く、市場を見て回った結果、一食に1ゴールドもあれば十分食べられると計算すれば、約3万円ぐらいの感覚だろうか。
「安すぎない? 曰く付きか? 」
「だから、在庫処分だよ。一応仕入れたけど、槍とか剣の方が売れるけど、そういう鈍器系はあんまり人気無くて。あっても、場所をとるだけだし、毎日磨かないとさびるし」
「なるほどね」
店員との会話もそこそこに、俺はモーニングスターを購入した。
そして、再びメインストリートを歩いていくと、うどんの絵が描かれた看板の店を発見。しかし、うどんを茹でている様子は無く、何となく気になったので中をのぞくと、大鍋や麺包丁が置かれている。どうやら、うどんの道具を扱っているようだ。
そして、片隅に置かれているのはひのきの棒。
「やっぱり、麺棒だろ」
いや、ひのきの棒を麺棒として流用しているのだろうか。武器防具屋で需要があるというのも、武器としてではなく、麺棒の需要ではないだろうか。
「ったく、どれだけうどんが話の中心なんだよ」