第47話 説明を聞こう
「じゃあ、まずは、どっちから聞くかな。どっちも収穫は無いかもしれないが」
聞くべき事は、黒衣の女についてと香川について。
「できるだけ、助けになればと思いますが」
「じゃあ、黒衣の女だが」
まずはこちらから切り出す。
「仮にミズXと呼ぶか」
アレクサンダー・ワトソンが提案する。
「呼ばんでいい」
そんな名称はいちいち要らんだろうに。
「えっくす?」
ほら、巫女が首をかしげているぞ。
「こいつのことは気にするな。あの女だが、心当たりは? あの女自体になくても、狙われる心当たりは?」
「あの方についてはなにも。そして、心当たりですが、自分で言うにもなんですが、巫女は国の象徴です。フェニックスでは直接政治に関与できませんが、影響力はありますので、他国から狙われる心当たりはあります」
「そりゃ、そうだわな」
「ですが、現在の香川が来てからの情勢下で、他国に侵攻しようなどといった軽率な行動をとる国は無いかと。絶対に無いとも言い切れませんが。それだけ、香川は我々の国に対する絶大な影響力を持っています。あの未知の武器や鉄製の戦車など、我々を遙かに凌駕する兵力を敵に回したくはないのです」
ふむ、情勢としては結局そうなるか。となると、黒衣の女が何の意図で動いているのか判らないか。しかし、黒衣の女が救済士となれば、全く関係ないなんて道理が通じない。
「質問を変えよう。勇者を召喚できるのは、各国でも巫女や神官、シャーマンといった特別な職に就いている者だけなのだね?」
アレクサンダー・ワトソンが指を立てて言った。
「そうですね。召喚術は、形式こそ違っていますが、各国でも扱える者はごく僅かです」
「そうか。僕の見解だが、あのミズXは召喚された勇者だ」
いつの間にか、こいつだけの見解になっている件。もう、どうでもいいわ。
「まぁ、なんと!?」
「だから、見方を変えようと思う。信仰心の対立から狙われる心当たりは?」
巫女はそこで押し黙り、数秒黙ったままだった。思い当たることが無いと言うよりは、言って良いかどうか迷っている様子だ。しかし、何か決断したかのように頷いてから口を開いた。
「この大陸に伝わる神話なのですが、かつては最高神は地水火風の四柱でした。ですが、あるとき、地の神が他の三柱に反乱を企てました。地の神は、神官に悪魔を召喚させて戦争を起こしたのですが、他の三柱もそれぞれ勇者を召喚してそれを鎮圧したそうです」
「ふむ」
その悪魔だの勇者だのは、救済士ってことだろうか。一体いつから救済士なんて仕事ができて、派遣されているのか知らないが、神々の対立がこの世界であったということだろう。
「その後、地の神は最も活躍した火の神の下につき監視されることになりました。フェニックスでも最も信仰されているのは火の神ですので、地の神が再び反乱を企てているとすれば、地の神に狙われるかもしれません。ですが、地の神の神官一族はいるのですが、すでに召喚の術も戦後に封じられたと聞いています」
「なにかあるとすれば、地の神の神官か……。ちなみに、その神官はどこに?」
「イフリートです。ですが、その一族も今に至るまで監視されているそうですので、召喚の術を手に入れたとしても、行動を起こせるかどうか……」
なるほど、と言いたいところだが、召喚できるかどうか不明ときたか。調べる価値はあるかもしれないが、そこから黒衣の女につながるかどうかだな。
「これ以上は、何も無いかな?」
正直、これだけ収穫があれば良い方だろう。
「そうですね、私の心当たりはそれだけですし」
「では、次の質問だが、香川が何故召喚されたのか心当たりは?」
アレクサンダー・ワトソンが、もう一本指を立てて問いかける。
「そうですね。それについては全くわかりません。神のお導きとしか」
巫女も困惑した様子で眉をひそめている。
「何でも良い、何か心当たりとか、不自然な事であったり、違和感であったり」
「いえ、それが、なにも。ある日、地震が起きまして、気がついたら香川が海の上にあったとしか」
「こっちでも、地震があったのか」
たしか、香川も地震があって転移したと言っていたな。だが、それはヒントになるのだろうか?
「ですが、そうですね、ある方なら何か知っているかもしれません」
「誰だい?」
「誰も真の名前は知らないのですが、預言者であり賢者と呼ばれる放浪の魔術師がいます。なんでも、かつての火の神の反乱時に呼ばれた勇者の血を引いているとされています」
「……まじか?」
つまり、救済士の血を引いているってことか。そういうこともあり得るのか。
「その方は、様々な魔術に精通しており、さらに、地の神の封印された召喚術も受け継いで封印しているとされています」
「つまり、その人物も召喚が可能と言うことか?」
アレクサンダー・ワトソンが、意外そうにであるが、頷きながら言う。
「はい」
「その人は、今、何処に?」
「実は、愛本恋太郎様が旅をしている間に、こちらに訪れまして、次の行き先はイフリートのシャーマンに会いに行くとだけきいています。各地を放浪していますが、各国の魔術を司る者には定期的に会いに来てくださいますので。実は、うどん神を新たな神として称え、勇者様を召喚するように提案したのも賢者様です」
どうやら、俺が召喚された元凶が賢者ってことか。
「わかった。ならば、次の行き先は決まりだな?」
何故か、どことなくシニカルに笑顔を浮かべながら、アレクサンダー・ワトソンがこちらに振り返ってきた。
「そりゃな」
神官と賢者の両方を調べるなら、行くべき場所は一つだけだ。次に行くのはイフリートに決まりだ。
「巫女さんよ、明日にもイフリートに旅立つから、手配だけ頼めるか?」
「それは構いませんが、愛本恋太郎様は、すでにこちらの願いを聞き届けてくださっていますので、よろしいのですか?」
「乗りかかった船だ。もうちょっと、この世界にいさせてもらう」
そして、この日の話し合いは解散だった。
新しいことは判ったが、有力な情報は無い。それでも、巫女を狙った者の正体と香川が転移した理由を突き止めるには、さらに旅をするしかないようだ。




