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第45話 回復しよう

 ボンヤリとしながら目を開けると、石の天井が見える。部屋の中央部分には魔方陣が描かれていて、その魔方陣が光って部屋を照らしている。確か、この世界では照明の魔方陣があるらしく、神殿では各部屋についているらしい。

 魔方陣に魔石を使うことで魔法は発動する。魔石は鉱物のように地中に埋まっていて、島、いや、この世界では大陸のあちこちで鉱山があり、主に三級市民と称される奴隷階級の人々が掘り起こしているそうだ。

 俺が元々いた世界における石油というよりも石炭のようなものと認識しておけばいいのだろうか。そういえば、この世界で石炭や石油は採れるのだろうか。採れるなら、香川も将来的にはかつての文明レベルを取り戻せるかもしれない。

 はて、香川はともかく、俺は何故ここにいるのだろうか。

 そもそも、ここは何処だろうか。

 身体を起こす。

 ふと自然に、両手を使ったことに気がつく。左腕を見ると、何故か左腕が生えていた。そうだ、確か、戦いの末に、左手を吹き飛ばされたはずなのに、左腕がついている。


「夢じゃないよな?」

「夢ではありません」


 突如として声が聞こえ、そちらを向くと、巫女が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。その後ろにはアレクサンダー・なんとかも、あきれたような、それでいて何処か疲れた顔を見せている。


「召喚の奇蹟だけでなく治癒の奇蹟を目の当たりに出来るとは、感激です」

「僕がしたのだけどね」


 巫女は何か、感極まったように天井を仰ぎ、なんとか・ワトソンはスマホをこちらに向けた。


「『グリーン・リザレクション』。治癒系のアプリだ。僕がなおしてやったんだよ、無謀者が」

「マジか」


 ということは、やはり、一度、腕は吹き飛んだのか。左手を何度か握ってみて、それから肩で回してみるが、特に違和感は無い。本当に元通りだ。


「千切れた腕をくっつけながら、損傷箇所を分解、再構成した。多少の血は失っているだろうが、その様子なら問題ないようだな。正直、腕が残っていなかったら、電池の関係でここまですぐに再構築出来なかったんだぞ」

「そういう便利なアプリがあるとはね」


 いや、治癒系のアプリがあることは知っていることは知っていたが、いまいちピンとこないので無視していた。それと値段も高かったし。こういう事できるなら、必要だな。うん。


「何故知らない? というよりも、治癒系のアプリは必須だろう。しょーもないトリック系のアプリをとるぐらいなら、弱くても自然治癒系のアプリを買ってそろえろ。何を考えているんだ?」

「何をって、なんだろうな。俺におすすめアプリを勧めてきた奴は、治癒系のアプリなんて一言も口にしていなかったが」


 なんとか・なんとかは、深くため息をついた。


「君も君の雇い主もバカじゃないのか」

「バカにバカって言われた、死にたい」


 いや、これはマジな話で。


「死ぬな、蘇生するぞ」


 それは脅迫か? 脅迫になっているのか?

 しかし、対人戦闘なら水の弾丸、身体能力上昇のアプリに、回復もこなすか。それでいて、機転も利いてバカって言うほどバカでもない。性格に難ありか。存外にバランスが整っているもんだな。


「さて、横道にそれたが、あれは何者だ?」

「女、肌は褐色で黒髪。一言だけ言葉を聞いたが、どうだろうな、あれは、積極的な敵対をしているわけでもないかな。かといって、当然、協力的でもないが」

「なるほどな。やはり、逃がしたのは不味かったか」


 一番印象に残っているのは、意志の強そうな瞳だ。自分が燃えたというのに、それをダメージ覚悟で弾く力でかき消したのだから、意志の強さと土壇場慣れしていると見ていいだろう。


「女性だったか。確かに、良く考えると、ローブで判りにくいが、巫女とさほど体格差は無かったな」

「そういえば、私も、よく思い出してみますと、背が同じぐらいだったかもしれません」


 巫女が、はっと思い出したかのように言った。


「巫女さん、どういう状況でさらわれた?」

「いえ、部屋に一人でいましたところ、突然窓から部屋に入ってきまして。すぐに口を塞がれ、急に意識が遠のいてしまいました。お役に立てず、申し訳ありません」


 今度は、巫女はシュンとした様子で、うつむきがちになった。

 窓から入ってきたのは、能力と身体能力的に可能として、何か薬品でも使ったのだろうか。


「それよりも、君はひとまず休め。巫女様も、休んでください。起きたら、もう一度話をしましょう」

「あ、いえ、私は」

「休みましょう。お疲れでしょう?」

「では、お言葉に甘えて。それと、お二人とも、私のために命がけで戦ってくれたそうで、なんと言ったらいいか」

「それもあとで」


 そんなやりとりの後で、二人して部屋を出て行った。

 俺がいる部屋は、俺にあてがわれた部屋だ。

 もう一度、左腕を眺めるが、引きちぎれた箇所だけやや色合いが違っている。これは、そのうちに目立たなくなるのだろうか。

 ベッドにうつぶせに倒れ込み、左腕を伸ばして見ながら考える。


「思った以上にバカかもしれないか」


 俺が。

 無謀にも突撃して、左腕を失った。アレクサンダー・ワトソンがいなければ、失ったままだった。

 それでも、無茶をしたのは、どうしてだろう。

 手柄が欲しかった、プライドを守るため、出来るからした。

 全部くだらない。

 やることをやれ。

 自分に言い聞かせる。


「やらなきゃならないことをしろ」


 一度声に出して、自分に言い聞かせる。

 無謀と勇気は違う、だからこそ、自分に問いかけなくてはならない。

 その力は何のためにあるのかと。

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