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第43話 追い詰めよう

 黒衣の人物は、屋根から屋根へとまるで軽業師のようにふわりと飛び上がって移動していく。対するこっちは、ただ、飛んでついていくだけだ。巫女は大きいと言うほどでもないが、人一人をかついであの速度は尋常とは思えない。

 というか、あの人物は何処に向かっているのか。

 先ほど袋小路についた点を考えると、あちらもこちらの都市の地理に明るいとは思えない。つまり、国外の人間であり、フェニックスに敵対している人物ということだろう。しかし、香川が転移して以降、12の国々は団結しており、表面上の敵対は無くなったという。当然、小競り合いは合うが、以前よりも激減しているそうだ。それもこれも、未知の武器と技術を持つ香川を恐れ、一致団結する必要に迫られたからだ。

 それでも、小さくても国と国同士の関係なら、何があってもおかしくない。敵国の間者が巫女をさらったのかもしれない。

 だが、もう一つの可能性もある。

 不可解な衝撃波を撃ち出す魔法らしきものと異様なほどの身体能力、これが指し示すのは、相手も救済士であることだ。

 確証は無いし、違う可能性もある。しかし、それでも、相手の能力の説明を考えるとしっくりとくる。


「敵対する可能性か」


 アレクサンダー・ワトソンに言われたばかりの言葉を思い出す。世界を救うのに、救済士同士が対立することもある。矛盾しているように思えるが、雇い主同士が対立している世界線であればあり得る話。

 今のところ、うちのうどん神が対立しているわけではないようだが、フェニックスで信仰されている神が何かしら対立していると言うことだろうか。

 この世界の神話にそれほど詳しいわけでもないから、判断はつかないが。


「で、逃げ切れてないわけか」


 それよりも問題は、相手の足が速いこと。こちらの全速力で追いつけないが、相手はそれを振り切れないと来ている。恐らく、こちらの電池切れを待っているのでは無いだろうかと思う。

 だから、あちらはさほど積極的に攻撃してこない。いや、巫女を傷つけたくないために攻撃できないと言うべきか。

 どうするかね、このまま地味なチェイスを繰り広げるか。

 だが、逃がす選択肢だけはない。こんなポカやらかしたら、本当に、俺は何のためにこの世界に来たのか判らなくなる。

 いや、マジで、本当に何のために来たのか。

 そして、今、何をするのか。

 力があって出来るからするんじゃない、したいからする、やらないといけないからする。

 行動の原動力が大したことのないプライドなのは格好悪い気もするが。

 さて、それでも、電池が切れるまでに何が出来るか。


「もし、巫女に攻撃したら……」


 まさか、盾にするなんてこと無いはずだ。

 そう、そのはずだ。

 だからこそ、相手もこちらの攻撃を牽制程度に考えているはずだ。

 きっと、そのはず。

 なら、もう少し派手に行ってみるか。なによりも、電池消耗を抑える方がこちらには不利と見た。


「信じているからな」


 黒衣の人物が巫女を助けると信じて。

 両手に炎を作り出す。

 右手の炎は、熱い炎。

 左手の炎は、冷たい炎。

 狙いは巫女。

 まずは、熱い炎を放つ。

 炎の玉は、一直線に飛んでいくが、途中で気がつかれて避けられる。その避けた瞬間に足の裏から炎を最大出力で吹き出して接近する。黒衣の人物が空いた手をこちらに向けるが、ワンテンポ遅く、俺が冷たい炎を放つのが速かった。

 炎が接触する瞬間に、黒衣の人物は巫女を放り投げた。黒衣の人物は、巫女を手放した分軽くなったのか、冷たい炎を寸前で躱して見せた。


「あ、やべ」


 一方、巫女はというと、放物線を描きながら、メインストリートの石畳の上に落下していき、頭を強打して鮮血の海を作り上げ、なかった。

 なにか素速い影がスライディングしながら巫女を受け止めていた。


「無茶するな!」

「お前に言われるとは思わなかった」


 恐ろしく素速い影はアレクサンダー・ワトソンだった。受け止めただけでなく、水でクッションをつくって巫女を受け止めたようだった。巫女は濡れたが、無傷。一応、結果は良しか。


「さて、巫女は無事だ」


 全く持って、俺が言うのも何だが。

 黒衣の人物も、巫女が無事である様子を確認していたようだった。


「さて、誰だ? 言葉なら絶対に通じているよな?」


 両手に熱い炎を作り出して、黒衣の人物を睨み付ける。

 だが、何も言ってこない。代わりに、両の手の平をこちらに向けてくる。

 壁を作るように炎を放つ、その壁はあっさりと見えない衝撃によってかき消される。かき消された瞬間に、さらに炎を放つ、それもまたしてもあっさりとかき消される。

 それでも、炎で一瞬でも視界を遮ることには成功しているわけで、足の裏から炎を噴出して飛び上がった。背後に回り込みながら、さらに炎を繰り出す。

 何度炎を繰り出しても、炎はかき消されていく。


「こっちを忘れるな!」


 いつの間にか、アレクサンダー・ワトソンが屋根に登ってきてシカゴ・タイプライターを構えていた。


「お前、巫女は!?」

「無事だ! 衛兵に預けた!」


 そう言うと、水の弾丸を派手に撃ち出していく。黒衣の人物は、今度は弾くことなく恐ろしく素速く走って避けていく。

 単発の炎はかき消すが、連続で撃ち込まれる水は避けていくのか。何度も炎を撃ち出したのは、衝撃を出すのにはインターバルがあるのではないかと推測したが、俺の炎程度ではそのインターバルよりも連続して攻撃できない。それは判った。

 そして、あの衝撃波がある限り、接近戦は不利。きっとそのはずだ。でも、電池の残りを考えると、速攻で勝負は決めないといけない。

 足の裏から炎を噴出し、再接近した。

 さて、お互いに少しは痛い思いをする覚悟で、決めてみようか。

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