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第40話 満腹になろう

「食い過ぎた」


 うどんを。

 前菜、スープ、メインディッシュとうどんってどういう事だ。

 改めて、思う。

 ここは異世界だと。

 国一つ違えば、幾らでも文化が違うのは判るし、アメリカなんかだと、米が野菜扱いだってことも聞いたことがある。だが、あれだけ近いのに、香川からの輸入品の取り扱いが色々と間違っているように見えるのはどうしてだろうか。じゃがいもが、ヨーロッパにもたらされたときに、初期は食用として扱われず観賞用になっていたようなものだろうか。

 俺は部屋を一つあてがわれていた。細かな彫刻の施された木の椅子と机、ベッドはあって、花なんかも飾ってあり広々としている。花は見たことが無いような気がするが、この世界の固有種ということなのだろうか。


「つまりは、ポップの他にもあれやこれやと代用できる物があるかもしれないわけだが、植生も違うわけか」


 まぁ、それを探して、若い人たちが行商をやったりして頑張っているようだが。

 なんとなくスマホを取り出して、眺めてみる。自動翻訳アプリに電池∞アプリ、ずばり炎のアイコンはレッド・ワークス、白い雪の結晶のアイコンはホワイト・アート、二つの矢印で円が描かれているのはエフェクト・トリック。どれも、買ったときの初期状態だ。さらに追加で課金すれば、威力が上昇するというが、一体幾らつぎ込んでどの程度上昇するのだろうか。

 数日前まで、こんなスマホを手に入れるとは思わなかったな。


「面白いことは面白いのか。やることもないなら、救済士、続けるしかないか?」


 その辺り、どうなのだろうか。スマホで電話しようとして、なんとなく最後の通話の表示にタッチせず、スマホを置いた。


「いや、そもそも、死ぬなんて思っていなかったな」


 頑丈さだけが取り柄で、病気らしい病気もしてこなかったし、入院するようなことも無かった。通院もほとんどない。

 さて、俺が死んだ世界は、俺が死んだことでどうなっているのやら。

 たかが、70億の一人、されど一人、何かしらの不幸ととして取り扱われて、そのうちに忘れられる。きっと、俺も、誰かが死んでも、いつかは忘れて、何かのタイミングでそういえばそんなこともあったと思い出すに過ぎない。

 しかし、救済士に選ばれなかった場合、どうなるのだろうか。輪廻転生を繰り返すのか、それとも天国なり地獄なりに行くのだろうか。それとも、俺の想像以上のことになっているのだろうか。

 電話が鳴った。

 かかってくるとしたら、友好的に連絡先を交換した藤崎のおっさんか、嫌々交換したアレクサンダー・ワトソンか、うどん神だ。

 恐らく、うどん神だろうな。


「なんだよ、うどん神」

「きいてきいて! 作ったうどんがメチャウマだった!」

「知らん」


 どうでもいいです。そして、今はうどんの話題すらするな。


「多分ね、その世界で、うどん神として信仰が発生したらっぽいね」

「あー、信仰心が増えると神格があがるとか下がるとか?」


 正直、こいつがどうなろうとどうでもいいんだけど?


「上がります! 」

「ふーん」

「興味持てよ!」


 いや、今はうどんの話題もどうでもいいので。

 つーか、自分からうどん神って言っているが、自覚して良いのだろうか。


「いやいやいや、こうなったら、その世界中にうどんとうどん神を広めなさい! うどん神の伝道者となるのだ!」

「いいのかよ」

「いいんだよ。火とか水とかは、先客がいるみたいだし。それにね、あんまり文明の発達した世界線だと信仰自体が起こりにくいからね。それぐらいの世界線が、信仰を得るには丁度いいわけよ」

「そういうことか。もう、国中で主食になっているっぽいし、今更いいんじゃね?」

「いやいやいや、内みたいな零細は、ここぞって時に攻めないと!」

「何となく、察していたが、零細か……チラシにあった先輩っているのか?」

「先輩? いないよ。今のところ、恋太郎一人だよ?」


 当たり前のように言う。話が色々と違うな。いや、あんな職場環境信じるわけ無かったが、それでも、実情が酷すぎる。詐欺じゃないか。


「チラシには、仲間がいるとか書いてあったが?」

「あー、あのチラシね。暇だから適当につくって、適当な世界線に配布して貰ったんだよね。いやー、まさか、あのチラシ見た奴が転生してくるなんて思っていなかったよ」

「爆弾発言過ぎるわ」


 とりあえず、どうでもよくなってきたので、電話を切った。

 幾ら旨そうなフルコースが目の前に並んでいても、腹が一杯なら入らない。つまり、この世界でうどん三昧中はうどんの会話はしない。幾ら言われても、布教する気はない。


「本当に、何をしに来たんだか」


 思わず呟く。

 これじゃあ、異世界にうどんを食いに来ただけだ。

 かといって、今の今更、何もすることがない。

 いや、あったか。

 巫女様に、香川が転移してきた理由の心当たりが無いかどうかだ。

 知らないかもしれないし、知っていたとしても、俺には何も出来ないかもしれない。


「おい。いるな! さぁ行こうか」


 とノックもなしに入ってくるのはアレクサンダー・ワトソンだ。


「急に行きたくなくなった」


 バカと気が合うなんて、なんかなぁ。

 というか、こいつの極端に言えば無関係に等しい案件に飛び込んでいく気性は何なのだろう。いや、ヒーロー願望があるから、トラブルを求めているのだろうか。


「どうした? 行かないのか?」

「いや、なんでも」


 そうして、二人して文官に案内を頼んで、巫女の部屋に向かった。

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