第39話 宴に参加しよう
俺とアレクサンダー・ワトソンが通された広間は、石作りで、巨大な木のテーブルが鎮座していた。同席しているのは、巫女様とこの国の議長に貴族の方々が十数人いた。俺達を接待するらしい。議長は、痩せ気味の老人だが、まっ白な髭が立派に生えていて、威厳が感じられる。他の貴族も、着ている衣服は構造が簡素そうだが、質は良さそうだ。
「では、先に食前酒を」
と木のカップに注がれているのは、香川から輸入した麦から作った蒸留酒らしい。つまり、麦焼酎だった。
「では、勇者様の御奮闘を称え、乾杯」
「乾杯」
と議長、巫女様が続くので、一応形だけカップを掲げた。元から乾杯の文化があったのか、それとも香川から伝達したのか。
「では、続きまして、前菜です」
そうして、運ばれてきたのは、切ったトマトがのったざるうどんだった。
これ、サラダうどん……。ファミレスで食ったことあるな……。
「さらに、続いてはスープは輸入した味噌で贅沢にもうどんを煮た画期的な品です」
「……味噌煮込みうどん?」
「らしいね」
アレクサンダー・ワトソンが頷きながら食べると、一口目で箸がとまり、一応そのまますすっていった。
何かあるのだろうかと思い、同じようにすすると、塩辛い。ただ、ひたすらに味噌のインパクトだけが舌を刺激していく。
「……出汁をつかってないな」
「ああ」
アレクサンダー・ワトソンは、そこに落胆し、あきらめつつも箸を進める。周りを見ると、貴族達さえも、「味噌のスープだ」「ああ、なんて贅沢な」等と言っている。これで満足げらしい。出汁になれた俺達にとっては、出来損ないなんだよな。
さらに次々に料理が運ばれてくる。
「こちらは、なんと輸入した醤油を使って、奇天烈かもしれませんがうどんを焼いた一品です。ちなみに添え物は鹿のローストです」
今度は焼きうどんだった。というか、鹿のローストのほうがメインじゃないだろうか。うどんはひたすら普通の焼きうどんだ、だが、しかし、鹿のローストは塩でしか味付けしていないようだが、淡泊かつ滋味深く食べやすくて、これは旨い。
さらに次の料理が来る。
「続きまして、なんと、なんと、醤油と砂糖で仔牛の肉を煮て、逆転の発想として米の上にのせた逸品です」
何がどう逆転の発想なのだろうか.。
俺と、アレクサンダー・ワトソンは同時に箸をのばした。食べ慣れた味がする。
「紅ショウガ欲しいな」
「僕は生卵が欲しい」
メインディッシュは牛丼だった。タマネギが入っていないので、どこか物足りない味だが牛丼だ。
最後の最後まで、うどんかと思っていたら、意外な形で米が出てきた。
だが、巫女や貴族の反応を見る限り、相当にありがたく食べている様子だ。近いようで遠い文化の違いがあるのは確かだ。
つーか、本当に、どれだけうどんが好きなんだよ。
あの条約、本当に、本当に、困っていたのかと。
「メニューはともかく、君は本当に、これだけの歓迎を受けるほどの仕事をしたように見えないのだが」
「うるせーよ。俺が一番そうおもっているんだよ。つーか、受けないと失礼って言ったのお前だろ」
「それはそうだが」
アレクサンダー・ワトソンの嫌みに本音で返す。
しかし、サラマンドラを撃破して風呂と牛乳、よくわからん条約を確認しに行って、うどん三昧のごちそう。一体、どっちが裕福なのか。何とも言えない気持ちになってくる。
「では、出し物をさせますので、どうぞご覧ください」
と巫女が言うと、少しばかり露出の激しい服を着た男女が数人出てくる。
そして、太鼓や笛の音楽に合わせて、激しく踊り出すが、何処かで見たことのある音楽と踊り。
「よ、よさこい?」
アレクサンダー・ワトソンが戸惑いを隠さない。
うん、これ、よさこいだ。地元の福井だと結構盛んだ。
でも、香川ってよさこいが有名って訳でもないしな。
果たして、香川から伝わったのか、たまたま似た踊りがこの国にあったのか、それは謎だった。
「いやしかし、異世界に行く度に文化の違いには驚かされる」
「どこもこんなもんか?」
「いや、近しい世界もある。しかし、ここは文明レベルといい、食文化といい、特殊すぎるな」
「本当に、なんで香川が転移してきたんだかな」
異文化交流としては、これはありなのだろうか。
異文化過ぎて、戸惑いが半端無い。
だが、これももう終わりってわけで。




