第3話 理由を聞こう
ひとまず俺が召喚されたのは、フェニックス王国と呼ばれ、周囲にはバハムート帝国、イフリート公国など12の国でこのあたりの地域は構成されていた。
構成されていたというのは、現在はそうじゃないってことだ。
異変が起きたのは約2年前。ある日、突然、新たな国がこの世界に召喚された。その国は12の国全て合わせたよりも面積も人口も多くて強大。そして、あらゆる技術で勝っていた。
そんな国に小規模な小競り合いをしていた12の国々は一致団結して対抗しようとしたが……。
召喚された国は戦う意志を見せなかった。それどころか、様々な技術をもたらして、12の国々を栄えさせたという。
しかし、問題も起きた。
召喚された国は、新しい種類の小麦と食べ物を伝えた。その途端、12の国々は次々と胃袋で陥落し、全ての国々が親召喚国派となった。それに伴って、あらゆる文化で新召喚国に合わせるようになり、12の国々はその団結を失った。
ちなみに、その新しい食べ物は、小麦を水と塩で練り、熟成させてから細く紐状に切って茹でた食べ物。
「ズルズル……お助けください勇者様……ズルズル」
「食いながら頼むんじゃねーよ! 」
召喚者の女が、件の食べ物、箸の使い方がどこかぎこちないが、うどんを食べながらこちらに頼んでくる。うどんを食いながら頼んでくる奴なんて前代未聞だろうが。
「も、もうしわけありません。ですが、我々はうどんのあまりのおいしさに虜になってしまっているのです。これは、どう考えも呪いに違いありません。きっと、あの香川国は、我々に呪いをかけているに違いないのです」
「多分、違うと思うぞ? 」
召喚された国の名前は香川。どうも、香川県だけが異世界転移したらしい。なんで、そんなピンポイントで転移しているんだよ。
「ちなみに、あんたら、香川が来る前は何を食ってた? 」
「カラス麦のおかゆか、カラス麦を水で溶いて焼いたものです。今では、不味くて食べられたものではありませんが。小麦も食べることはありましたが、小麦を使うのは、祭事や祝い事など限られていました」
「そら、小麦のほうがうまいわな」
恐らく、地球のように品種改良も進んでいないだろうから、小麦と一言で言っても、香川が持ち込んだ小麦よりも味などが落ちるのだろう。
「他にも米と呼ばれる美味しいものも頂きました。我々はあろうことか、銀シャリのうまさを知ってしまったのです」
「さいですか」
さて、これからどうすればいいのだろうかな?
呪いなんてかけられていないと説得して回ればいいのか、鎖国でも勧めるか、いっそ焼きうどんのレシピでも伝えてリアクションを観察してみるか。
「で、香川県がうどんでチーレム無双なのは判ったから、俺に何をしろと? 」
「……うどんが美味しいのは判ります。ですが、香川県は我々に様々な恩恵をもたらす代わりに週7日うどんを食べるように条約を結んできたのです。さすがに厳しいので、せめて週5日にしていただけないかと……」
そこで、女は再びうどんの器を持とうとしたので、手で制すると、女は思い出したかのように器をおいた。そうだ、人と話をするときにうどんを食うんじゃない。
特に、週7日でも困っているように見えないのだが……そして、香川県よ、何故そんな条約を結んだ。そんなにうどんが好きか? 好きなのか?
というか、これ、救済しないといけない案件なのか?
「とりあえず、うん。色々とよくねーけど、うん。とりあえず、どうすればいい? 」
「香川国の国王に掛け合っていただければ、そして、失礼とは思いますが、フェニックスが召喚したことは伏せておいて頂けると助かります」
「つまりは、いや、わかったよ」
言付けのおつかい頼みたい奴がほしかっただけかよ。それが勇者の……以外とRPGの勇者ならしょーもないおつかいもするか。
「ありがとうございます。では、まずはライラの村に行くと良いかと思います。そこは、香川国との国境に接していますので。それと、こちらの品を勇者に渡すことになっています」
ライラの村はOK。で、女が両手でうやうやしく渡してきたのは木の棒きれだ。
手に取ると、見た目よりもずっしりと来る。
「これ何? 」
「勇者には、ひのきの棒を渡すようにと、古文書に書いてありまして」
本当に、何処の勇者だよ。
つーか、これ、麺棒じゃね?