第37話 戻ろう
シカゴ・タイプライターから撃たれる水の弾丸が熊のモンスターを撃ち抜いていく。撃ち抜いていくが、熊の勢いは止まることを知らず、向かってくる。
「ったく」
仕方なく、火の玉を打ち出した。火の玉は、熊の頭に直撃し、上半身を瞬時に燃やしていく。
「邪魔するな」
「どー見ても、大して効いてないだろ。その水鉄砲」
「水鉄砲と言うな! これからだ!」
とアレクサンダー・ワトソンがさらに弾丸を撃っていくと、ようやく熊が後ろへと倒れ込んだ。水さえあれば、スマホの電池が持つ限りは無限に撃てるが、いかんせん、大型のモンスター相手には分が悪いようだ。
「どうだ?」
ドヤ顔を見せて、髪をかき上げる。
「いや、どうだって、それ、対人用ならともかく、一発一発が弱すぎないか? 実銃並とは言うが、元々短機関銃だから、連射性能はともかく単発が弱いだろ? あと五月蠅い」
「むぅ」
不満そうに、かつ、図星なのか押し黙る。
「もっと一発の威力の高い技とかないのか?」
「うるさいな。君の野蛮な火と一緒にするな。これは、僕が洗練させた優雅な技だ。それに、とっておきもある。あるが、とっておきだから、使わないだけだ」
「とっておきって、あれか? サラマンドラに始めに食らわせたあれか?」
「そうだ。チャージスキルといって、余剰な電池分を貯めておくスキルだ。一週間分の電池をため込んでの攻撃だったんだ」
「そういうスキルもあるのな」
シカゴ・タイプライターが本当に優雅だろうかな。マフィアが使っていたイメージとして凶暴で野蛮って感じしかしないが。しかし、とっておきね。出せるなら出してくれよと思う。
そう考えると、火を扱うレッド・ワークスは、火だけに殺傷能力が高いのだろう。問題は、高すぎて、人相手だと殺しかねないところか。その辺は、凍らせる炎を使っていけばなんとかなるだろうかな。
しかし、単発の威力となると、俺も人のことを言えないか。サラマンドラ相手だと、単純火力で押し負けそうになった訳だし。少し考えておいた方が良いかもしれない。
「それよりも、あれがフェニックスか?」
「おう。数日ぶりの割には、懐かしいな」
ライラの村からは歩いてきて、やっとフェニックスにたどり着いた。アレクサンダー・ワトソンもフェニックス経由でイフリートに向かうらしいので、嫌々ながらも同行する羽目になった。
丘の上から見えるのは、フェニックスの国の首都、フェニックスだ。
「イフリートよりも、なんだろうな、田舎というか、平屋ばかりだな。向こうは煉瓦のビルばかり立っていて、人口密度が高くでゴミゴミとしていたがな」
「ふーん。色々とお国柄があるのか」
そんな会話をしながらフェニックスの国に入る。俺はポロシャツにジーンズ、アレクサンダー・ワトソンは青色のスーツだが、その上から白いマントを羽織っていた。ライラの村で買った物だ。
やっぱり、目立つのは面倒と言うことで、その点についてはアレクサンダー・ワトソンも意外にも同意した。
「勇者の割に出迎えはないのか?」
「なさそうだな。餞別が麺棒と50ゴールドの国だぞ?」
「それは、箪笥や壺をあさって、補給しろとでも言っているのか?」
「さぁ?」
どうやら、連れも例のゲームはプレイしたことがあるらしい。
久しぶりの街を歩いていけば、やっぱり、何処にいても、うどん屋が目につく。ライラの村で食事したときも、やっぱり、うどんしかなかったしな。
まぁ、でも、もうすぐ帰るとなると、名残惜しい気持ちが……名残惜しい気持ちが、無いな。
全く無いな。
いい加減にうどんから卒業したい。
「お前は、うどんばっかりで平気か?」
「平気なわけあるか。米が食いたい」
「米か。いいな、米。そういえば、銀シャリどうこう言っていたが、米があるってことだよな。全然見かけなかったが」
その辺はどういう事だろうか。小麦はカラス麦畑で育てているとしよう。米だと、水田にする必要があるし、そんなすぐに水田も稲作技術も広まっていないのだろうか。とすると、香川からの輸入に頼っていて、高級品なのかもしれない。
そうこうしている内に、宮殿だか神殿だか判らないが、丘の上の建物にまでやってくる。俺が召喚された建物だ。衛兵がこちらに厳しい視線を見せているが、俺は香川県知事から預かった封書を見せる。
「香川国からの親書を届けに来た」
「香川国から? 少々お待ちを」
しばらくして、別の衛兵と文官だろうか? がやってきて、親書を確かめられると、そのまま建物の奥に案内される。
案内された先には、召喚された最初に出会った女性、巫女ということになるのだろうか、その人が何やら彫像の前で待っていた。何故か、うどんのどんぶりを持っている。
お前は、どれほどうどんジャンキーなのかと。
「勇者、愛本恋太郎様、お待ちしておりました」
「おう……」
「早速ですが、どうでしたか」
「それだが、これを見た方がはや……やっぱり、気になるな。うどん持っているじゃねぇ」
「……はっ! これは失礼を」
とうどんをそのまま案内してきた文官に渡す。文官は、王冠か何かのように恭しく受け取った。
「そうそう。ついに、新たな神の彫像ができあがったのです。国一番の職人に依頼して、最高の出来の像です。どうです、神々しいでしょう?」
親書は?
と思ったが、巫女が自慢げに像を示す。
像は、人間と同じ大きさで、髪の長い女性だ。顔立ちは彫りが深く、伏し目がちで、どこか儚げな表情をしている。
そして、両手でしっかりとうどんの入ったどんぶりを持っていた。
うどんを持っていた(二回目)。
「我らに新たな美食と繁栄と豊穣をもたらした、新たな神です」
「……俺って、その神にお願いして召喚された?」
「その通りです。何分、うどんに関する問題でしたので、うどん神に祈祷いたしました」
つまり、俺はうどんの神の勇者か。
そして、カトリーヌ・大塚、お前、この世界だと、うどん神だぞ。




